120.式典祭1日目ー美味しい料理に舌鼓!ー(途中別視点有り)
「……へぇ、本当に王族のゲストルームで寝泊まりしてるんだ?」
何か呪文が書かれたような紙切れ一枚であっという間に瞬間移動。
酔ったりすることもなく無事に僕がお借りしてるゲストルームの真ん前に着きました。
「フィーさんがいると思うんですが」
識札の伝言で先にそう伝えたから多分居るはず。
僕は念のためにノックしてみた。
「はーい?」
すぐに中から返事が返ってきた。もちろんフィーさんから。
「お待たせしましたー」
「あ、カティア? 今開けるよ」
扉近くで待っててくれたのかすぐに開いて、フィーさんはマントを羽織ってないいつもの黒服姿で出迎えてくれました。寝間着以外この人が色付きの服着るの見たことないんだよね。は、余談で。
「や、フィー」
「……本当に中層に行ってたんだね、ラディン」
「フィーがあれだけ興味深いことを言うからだよ」
「まあね? 毎日面白いだけじゃなくて美味しいものをたっくさん食べれるからさ」
「君自身の手料理も久々にいただきたいけど」
「んー、君はいつでもいいじゃない? 先にこの子達に作ってあげようかなぁ」
「羨ましいねぇ?」
本当に仲が良いみたい。
僕とクラウそっちのけでどんどん話が進んでいくよ。
ただ、気になったワードが。
(フィーさんの手料理!)
お手伝いはしてくださるけど、直接的に何か作られることはまだ見たことがない。だから、思いつきでも作ってくれるって言ってくれたのがすっごく嬉しい! 何が得意料理なのかな?
「話もいいけど、そろそろカティアちゃん達のお腹の方が大変かな?」
ぐぎゅるぅうううう。
ぎゅるるるる、ぐぎゅーーっ。
「ふゅぅ……」
「あははは……」
ナイスタイミング?にクラウと二人揃ってお腹の虫が。
当然、フィーさん達にはくすくす笑われました。
「今日は何作ってくれたのー?」
「前にフィーが教えてくれたウルス米を使ったのだよ。中に入れさせてもらうね」
「うん」
ん? フィーさんが教えた?
と言うことは、オムライスはフィーさん直伝。詳しいことは後で聞こう。今はラディンさんがいるから異世界ワードとか口に出来ないからね。
台車と一緒に中に入れば、いつもと同じ空間の中にディナーテーブルと椅子が加わっていた。
「さっき創っておいたんだー」
「じゃあ、置いたら僕はお暇するよ」
「君は、向こうがあるもんね?」
「面倒なことになるだろうけど、あっちにも聞きたいことが山程出来たよ」
「ほどほどにね?」
なんか内緒話的なのが多い。大人の会話? けど、フィーさんはいくらラディンさん以上にご長寿でも性格や立ち振る舞いが中学生と変わりないから、全然大人に見えない。絶対言わないでおくけど。
「カティア、今失礼なこと考えなかったー?」
「なななななんでもないですっ!」
「ふゅゆ!」
急にアルカイックスマイルを向けられ、何故かクラウも一緒にぷるぷると首を振り出した。
力強く振っていたら、ラディンさんがぷっと吹き出した。
「本当に見てて飽きない子だね」
「可愛いでしょ?」
「うん。容姿も珍しいけど、雰囲気とか仕草も可愛らしいね。今日半日一緒でよくわかったよ」
「う?」
あれ、これはもしやからかわれた?
ほけっ、としていたらその間にラディンさんが台車の料理を全部テーブルに置き、最後にクロッシュを外せば保温結界のお陰でほかほか状態の綺麗なオムライスセットが登場!
「あ、これかぁ?」
「ウルス米は食べたことがないだろうからね?」
「んー、たしか?」
「…………」
フィーさんが曖昧に言っても僕は閉口するしかなかった。
お米が主食の生活だったなんて、怪しまれるだけですまないから言えますか!
「……じゃ、僕は行くよ。片付けはフィーなら中層に戻せるでしょう?」
「うん、またねー」
「カティアちゃんとクラウちゃんはまた明日」
「あ、はい! お疲れ様です!」
「ふゅゆぅ!」
爽やかスマイルを残したラディンさんは、少し急ぎ足で部屋から出ていかれた。
パタンと扉が閉まりきってから、僕は大きく深呼吸した。
「はぁーーーーっ」
「色々疲れた?」
「はい……」
強制的にはなくても、色々聞かれたのを黙秘でかわしてたからね。
肩は凝らなかったけど、そこそこ気疲れはしました。
「でも、楽しかったです」
「うん。それは顔見てわかったよ」
「ふーゅぅ!」
「あーはいはい。ごはんね?」
結界は解いたらしいから早いうちに食べなきゃ。席に着いて手を合わせてからスプーンを手に取った。
「はい、あーん」
「ふゅぅ!」
クラウにひと口ずつ食べさせれば、とっても美味しいのかいつも以上に翼や体をばたつかせた。僕もスープから口をつけるとクラウのようにピコンと肩が跳ね上がった。
「……とっても美味しいです」
「ラディンはマリウス以上とも言われてるからねー?」
シンプルなクリームスープ。
出汁はコンソメ少しとアサリみたいな貝からだと思うけど、あっさりしていて重くない。具は角切りの人参、ジャガイモ、玉ねぎにベーコンとセロリって普通の具材なのに高級店で出されるような深い味わい。
メインのオムライスよりも夢中になって匙を進めちゃっていた。
「ふふ、スープもいいけどメインも早いこと食べてあげなよ?」
「そ、そうですね」
シーザーサラダみたいなサラダを少しだけ食べてから、まだほのかに湯気だってるオムライスにスプーンを入れた。
卵を切れば、中からはとろとろチーズと美味しそうなチキンライスが顔を出してきた。お肉はたしかホロロ鳥って言ってたかな? どんなお肉だろうと角切りのお肉とケチャップライスを一緒に食べれば、僕はまたピコンと肩を跳ね上がらさせた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(ラディン?視点)
(……感想は、また明日聞けばいいかの?)
本当は直接聞きたかったが、フィーもいる手前余計に気遣いをかけてしまうからのぉ。
儂は誰もいない廊下を変幻したままの姿で一人歩いていた。
ちょいと遅くなってしまったので、奥さんもじゃが皆に怒られてしまうかもしれんからじゃ。
一番怒るのは、おそらくエディじゃがの?
「……この辺りで解くか」
孫達にはこの姿のことは気取られたくない。ゼル辺りは薄々気づいておるじゃろうが、堂々と見せれば小うるさく言われるはずじゃ。なので軽く頭上で手を振っていけば、体にピリリとした痛みが感じる。亜麻色の髪は銀に変わって少し伸びていき、服も緑の料理人から王家の正装に変わっていく。
手も滑らかな若僧のものがシワが増えていき老人の者となった。歳を重ねることは仕方がないが、これだけは残念じゃ。いくら2500年程の月日を過ごしておっても、神のフィーとは違い容姿が変化しないわけではないからな。
「ふむ。きちんと戻ったか」
さてさて、食堂に行かねば。
若僧よりいくらか重い身体を動かし、儂は久しく訪れる食堂に向かって足を速めた。
着いた途端、儂逃げたいわいと少し及び腰になってしまったがの?
「……よぉ」
たった一人、扉の前に立ちはだかっとる現国王。
我が長男の息子のエディが額に青筋を浮かべながら紫の鋭い瞳を儂に向けてきていた。
予想はしとったが、随分ご立腹なようじゃ。
「間に合うたではないか、エディ?」
「聞きてぇことは山程あんだぞ、レストラーゼ爺様?」
「それはお互い様じゃがな?」
「遊んで来た癖して言えるか?」
「……働いてはおったわい」
じゃが、儂の一存で式典から抜け出したから言い訳でしかないがのぉ。
「……エディオス。積もる話は後でいいだろう、大后が待てぬそうだ」
「っ」
扉向こうからもう一人の孫の声が聞こえ、エディを抑え込んだ。
彼奴にも大層怒られるじゃろうが、ここはひとまず助かった。
儂らはゼルが開けてくれた扉から順に中に入って行った。
また明日〜ノシノシ