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【完結】ピッツァに嘘はない! 改訂版  作者: 櫛田こころ
第四章 式典祭に乗じて
112/616

112.式典祭1日目ー控えの間での会合ー(サイノス視点)






 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(サイノス視点)







 厄介な事態が起きた。



「どーゆーことだ親父⁉︎」

「エディオス。いくら控えの間とは言え、私情を持ち込む場合ではないぞ?」

「今は俺が王なんだからいいだろ!」

「よくないわねエディ?」

「……婆様」

大后(おおきさき)でしょう?」

「…………はい」


 婆様こと先先代の王妃には相変わらず逆らえないな、エディは。まあ、誰も無理だけどこの人には。

 しかし、俺も素に戻りたいぜ。

 なにせ、先先代がいない(・・・)のだから。


「……怪しいと思っていたが、幻影だけで抜け出していたとはな?」

「何してんだかな?」


 ゼルも呆れて嘆息する程だ。

 俺とこいつは今エディ達から少し距離を置いて、この王族控えの間の扉番として入口前で待機している。逃げ、とも言うが。


「しかし、先王達は了承済みのようだな?」

「大后を無理にでも説得したのだろうな。でなければ不可能だ」

「だよなぁ」


 まだ一度目の区切りとは言え、エディの即位式典一日目。

 それも、祭典の儀からいつの間にか抜けていたと言う早業だ。かなりのご高齢でいるのに、相変わらず鍛錬を怠っていないようだなあの人。

 この場合はあまり褒められることじゃねぇがな?


「あの方はあの方で探究心を抑えられなかったのよ。そこはわたくしから謝るわ」

「……まさか、城下じゃ」

「いいえ。宮城内にはいらっしゃるそうよ」

「「え」」


 とここで、エディとアナの声が重なった。

 俺も嫌な予感してきたぞ……。


「場所はお教えいただきませんでしたが、城内にとても興味深いものが入ってきたとか。それを是非ともご自分の目で確かめられたいと仰いましたの」

「興味深い、もの?」

「私も教えてもらえなかったな。晩餐までには戻るから影の維持は頼むと言われたくらいだった」

「ええ」


 離宮住まいをすべて巻き込むとは。先先代がそこまで用意周到にしてまで知りたいつーと……俺は目線だけでゼルを見た。

 当然、隣にいるので奴はすぐに気づく。


「……まさかだとは思うが」


 こいつもエディ達の反応で気づいたか。

 いや、とうに気づいていたのかもな。いつも以上に眉間にシワを寄せているしよ。


「多分な」

「離宮には伝わらぬようにしていたのにどこから」

「最近じゃねぇか? 特にお前さんと散歩した日から城全体に広まってたようだ」

「…………」


 頭痛でもしたのか頭を抱え出した。

 ユティ達にも見せてやりたいくらいだが、あれらはあくまで来賓側なのでここには王族が呼び寄せない限り来られない。

 だが、ファルは暗部の家格の出身者だ。四凶達を使って何かしら傍受はしていそうだが、気を遣ってこちらにはしていないはず。


「あら、セヴィル? 珍しい顔をしているわね?」

「ええ、本当に」


 矛先がゼルに変わった。

 大后もだが、奴自身の母親である公爵夫人にも気づかれたな。


「…………なんでもありません」


 当然、ゼルは姿勢を正してすぐに狼狽していた顔を元の鉄仮面に戻した。


「あらあら、照れちゃって」


 そう言えるのは、夫人だけだろう。

 自分のひとり息子だからと言うこともあるが、この無愛想無表情が当たり前の男を殊更可愛がっているのだ。溺愛程まではいかないが、目が離しにくいと口癖でよく言うくらいに。


「たしかにセヴィルが慌てるとは珍しい。先先代のお探し物と関係があるのかな?」

「そうかもしれませんわ、兄上」


 先王と揃って言及するつもりかよ?

 止めようにももう遅い。

 元王妹だった公爵夫人が兄の先王を巻き込めば、いくらゼルでも口を割らざるを得ぬ状況になってしまう。

 エディやアナも無理だな。ゼルの父親の公爵は端でのんびりと見守る態勢にとどまっているから頼れない。


「それに聞きましてよ。陛下が最近お呼びになった、可愛らしいお客様と宮城内を『お散歩』されたとか」

「ディア叔母様⁉︎ どちらでそれを!」


 誰もが言葉を詰まらせている中、アナが口を挟んだ。

 姪の問いかけに、公爵夫人は小さく微笑みながら扇で口元を隠した。


「宮城内での噂でしたらすぐに耳に入りますもの。わたくしが伺ったのは旦那様からですが」

「……ギルハーツ叔父様?」

「ああ、そうだね」


 ずっと沈黙を保っていた公爵が立ち上がった。


「中層の食堂に行く者達からたまたま(・・・・)聞いてね? 子供や女性との交流が不得手とするはずの我が息子が、"にこやか"にお相手していたと。随分可愛いらしい子だとも聞いたよ」


 ゼルをもう200年以上歳を重ねさせた風格を持つ公爵の笑顔は実に清々しいものだった。

 顔は瓜二つなのに性格が正反対なんだよな、この親子。

 とは言え、公爵は偶然を装っているように言ったが、どうせ側仕え達が騒いでいたのに混ざって調べているはずだ。

 フィーが間にいるから完全には無理だろうが、何よりもカティアは異邦人。この世界で生まれてない者として、痕跡はどこにもない。


「ええ、そうですわ。ゼル? この母に教えてくれないの? あなたをそこまでさせた子のことを」

「…………」


 そりゃ言えねぇよな?

 何せ、その幼子が御名手(婚約者)になっているなんて重大事項は。


「私も是非聞きたい」


 先王まで圧力をかけて来やがった。

 どうするつもりだ?


「…………………黙秘させていただきたいです」


 ……敢えて見てねぇが、絶対鉄仮面をがっちり固めて表情を読み取れねぇようにしてるだろう。カティアがいたら、多分無理だったろうが。


「ふむ。なら、今夜の晩餐にでも招こうか?」

「「「「はぁ⁉︎」」」」


 ゼルも含め、俺達子の世代全員で同時に声を上げてしまった。

 言い出したのが、先王だからだ。

 この発言に、親世代や大后も同意するように手を叩いた。


「良い提案よ、デュアリス。先先代もきっとそう仰いますわ」

「と言うより、もう会いに行っている可能性が高いですね母上。これだけ皆が気にかけている子のようですし、先先代もどこかで噂を聞かれたはずです」

「待てよ、先代(・・)


 母子の会話に、その孫のエディが割り込んだ。

 口調は荒いままだが、呼び方を変えたと言うことは王として発言するつもりだな?


「なんだね?」

「あいつは同席させるにもまだ幼過ぎんだよ。それと式典中は王族とその近親者だけが集まる……そう言う習わしのはずじゃなかったか?」

「いつもは共に過ごしているのだろう?」

「私生活じゃ庇護下に置く必要があるからだ」

「先先代がもし連れてきても?」

「………………」


 あ。揚げ足取られたなこりゃ。

 つか、やりそうだなあの人なら。


「…………創世神のフィーですら別室で取るようにしてんだ。一緒にさせる」

「そこまで会わせたくないのか? つれないな」


 形勢が不利になっていく……と言うか、親子の言い合いでエディが勝てた試しがないんだよな。

 先代王妃の方は何故かずっとだんまりと言うのも珍しい。

 と思っていたら、


「私達に隠し事があるのでは? エディ?」

「っ⁉︎」


 母からの愛称呼び。

 これは、滅多にないことだ。

 公私混同させないためもあるが、我が子は今は王。

 国を統べる者と対等ではいけないと、国母でも退位した者に変わりないと公的にもだが私的にも滅多に呼ぶことはなくなった。

 それを破ると言うことは、王ではなく"息子"のうやむやな態度が腹立たしかったのか。

 あくまで、俺の予想だが。


「先先代がご興味を持たれたこと……それがおそらくゼルを変えたかもしれない小さなお客人。あなた達は何をそんなに庇っているの? 不義ではないのでしょう? 習わしはたしかに大切なこと。けれど、我が王家は破天荒者が多数いて普通ですもの。今更でしょう?」


 じっと息子や娘を見据え、切々と思いの丈を打ち明けた。

 その視線の中に多分俺も含まれてるだろうな……。


「……后妃。正直に言うと、だ」


 母に言い含められたと思いきや、エディが反論しにかかった。


「何かしら?」

「……あいつに必要以上に緊張感を与えると思うんだ。大后やあんたらだと」

「あら、そんなに幼い子なの?」

「一応80歳くらいだが……」

「「「まあ⁉︎」」」


 これにはアナ以外の女性達すべてが声を揃えた。


「そんなに幼い子がゼルを変えたの? 何故なの!」

「グラウディア、落ち着きなさい」


 公爵夫人がエディに飛びつかんばかりになった。

 そうはさせまいと公爵がすぐに止めたが。もう昔のように気軽に抱きつけない体格差だしな。

 后妃を見ると、扇を閉じて諦めたような表情でいた。


「……そう。それなら突然の予定は組まない方がいいわね?」

「それに式典中はやることがあんだ。邪魔させないようにしてほしい」

「残念ね」


 まさか、中層や下層で料理してるとは言えないよなぁ。

 城内外で新風を巻き起こした、魅惑のデザート。

 俺は昨日夕餉に呼ばれた時にそれを食えたんだが、正直に言ってピッツァの時より美味いと思った。

 そのティラミスっつーのも、異世界の菓子とは誰も思わないだろう。この秘密も当然漏らすことなど出来ない。


「だけど」


 パンっと一気に后妃は扇をまた広げた。


「式典後に一度離宮に呼んであげたいわ。お茶会なら良いでしょう?」

「賛成だわ。ジャスティン!」

「殿方にはお控えしてもらえばいいんじゃないかしら?」

「ずるいですね、母上」

「…………ダメに決まってんだろ!」


 もうエディがキレた。

 俺も力むのをやめて肩を落としたが、さっきから黙り込んでるゼルが不思議だと横を向けば、口元が引きつりそうになった。


「だ、大丈夫かよ?」


 鉄仮面を引き剥がして青ざめながら落胆していた。


「…………会わせたくない」

「夫人にか?」

「絶対バレる……」

「だろうな」


 あの無駄に明るい夫人を止められる者はほとんどいないのだから。


また明日〜ノシノシ

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