107.式典祭1日目ーティラミスの意味ー
本日より第四章ですノ
旧作を読まれてる方は重複内容となりますのでご了承ください(*・ω・)*_ _)
◆◇◆
式典祭当日。
僕は朝ごはんを終えてから、この日のために用意していただいた服に着替えていました。
「どーぅ? クラウ?」
「ふゅゆゆゆゆ!」
着替えてからクラウに振り向けば、クラウはテンション高く翼と手足をぴこぴこさせてくれたよ。
と言うことは、似合ってるみたい? コロネさんお手製の蒼いコックスーツ。
いつまでもここの普段着や青い私服じゃ汚れた時に困るからだろうと、合間合間にコロネさんが作ってくれてたようで今朝受け取れたんだ。
サイズもぴったり、フィット感もちょうどいい。
サロンはズボンと統一で黒だから引き締まってる感じ。
「じゃあ、中層行こっか?」
「ふゅ!」
今日から一週間程、僕がお世話になってるこのお城ーー宮城ーーでは式典祭が開催されるので一部は国民にも一般公開がされるそうな。
そこまでは毎年一緒なんだけど、今年は節目と言うことで中層も大食堂だけは公開するんだって。
だからとっても忙しいんだけど、僕が部屋でクラウとぽつねんとしているよりはと皆さんのお気遣いで中層や下層で下働きさせてもらうことに。
初日の今日はシフトの関係で中層へ。クラウはつまみ食いしなきゃ大人しいので同行しても大丈夫と言われています。
まあ、中層の人達からの熱い要望もあったらしいけど。
「えーと……ここの角曲がって……」
「あ、カティアちゃんやないの⁉︎」
「ほえ?」
この独特の発音と口調。
黑の世界に来てから一度しか遭遇した事がない。
くるっと振り返れば、山吹色の髪に好奇心を隠さない水色の瞳に騎士さん達のような服装。
たしかお名前は……。
「えと……シェイルさん?」
「うちの呼び名覚えとってくれたん⁉︎」
「ふぇ!」
お姉さん近い近い近い⁉︎
クラウ抱っこしながら後ずさりしたかったけど、壁ドンされそうだったんでなんとか耐えた。
「ふゅぅ?」
「………………なにこのむっちゃかわええの」
「ぼ、僕の守護獣で、クラウです」
「ふゅ!」
深く突っ込まれる前に自己紹介させちゃいますよ!
クラウは相変わらず自分の凄さをわかってないから、のんきにお手手上げてるけど。
「こ、こんなかわええ子がもう守護獣⁉︎ 生まれたて?」
「ま、まあ」
下手なこと言おうとしちゃダメダメダメ!
「ほへー? ところで、その恰好からしてカティアちゃん中層の厨房で働くの?」
「え、ええ。けど、どうして僕の名前を?」
あの時は特に自己紹介はしなかったような?
途端、シェイルさんの目がキラーンと光った気がした。
「カティアちゃんのことはほぼ城中に知れ渡っとるでー⁉︎ 名前は仲良い中層の調理人から聞いたんやけど、なんかここ二日程で人気出だしたデザートの考案者!とかで持ちきりやよ!」
「あ、はぁ……ティラミスですか?」
「あれティラミス言うん⁉︎ あたしまだ時間合わなくて一回も食べれてないんよ‼︎」
「そ、そんなに?」
ティラミスの売れ行きはどうやら上々のようだ。
僕への評価がよくわかんないけども。
「これから食べに行きたいんやけど、見回りや護衛の任務とかで当分行けそうにないわー」
「お、お疲れ様です」
つまり、今さっき呼び止めれたのは偶々なんだ?
「うー、カティアちゃんも無理せんと頑張りー」
「はい」
と言うことで、シェイルさんとはここでお別れ。
ただここからが、
「「「「カティアちゃんだ!」」」」
「「「調理人の服も可愛い‼︎」」」
「え、白いの守護獣? ちっちゃい!」
「あのデザート考案したのって本当?」
などなどなど。
賞賛の声やインタビュー並みの呼び止めにあっぷあっぷしながらも笑顔でかわし、クラウを落とさないように抱っこしながら中層の食堂に向かった。
「はぁ……はぁ……ちょっと遅れちゃったかな」
「ふゅぅ……」
なんとか正面扉に。
幸い、今は午前中だからか前みたいな人だかりがないから僕はゆっくりと開けてみた。
「お?」
「ふゅ?」
今はお客さんゼロ?
と言うかセッティング中??
「あら、カティアちゃんにクラウちゃん。いらっしゃい」
「シャルロッタさん!」
「ふゅぅ!」
覗いてるのもなーと中に入って扉を閉めたら、シャルロッタさんがちょうどやって来てくれました。
「まあ、その服装可愛らしいわ。もともとカティアちゃんの髪色で見つけやすいけど蒼だったら尚更目立つわ」
「コロネさんが作ってくださったんです!」
「コロネ副女中? なるほど、さすがね」
余談ですが、コロネさんはメイドさん達の中でもトップクラスだそうです。長はお母さんのサシャさんだって。
「おう、カティア。来たな」
「こんにちは、イシャールさん」
今日も自信満々のイシャールさん。
この人もサイノスさんと同じエディオスさん達の親戚さんとは思わなかったな……あ、そうだ。
「イシャールさん」
「ん?」
「どうしてエディオスさん達の親戚さんって教えてくれなかったんですか?」
「なんだ、エディ達話したのか?」
「ええ」
「なんてことはねぇ。家の後ろ盾とかで贔屓目されたくねぇからだ。俺は次男だから家継がなくてもいいんで好きなことやらせてもらってんだけどよ」
「それが料理人?」
「おう」
お家の事情とバックアップで敬遠されないため、か。
まあ、お貴族さんでもイレギュラーな人はいるとかラノベなんかでもあったから、特別不思議じゃないよね。
「あんま驚かねぇのな?」
「人は人それぞれですから」
「……カティアちゃんほんとに80歳?」
「あ、あははは」
こっち年齢で280歳とか言えませーん!
「まあ、のんびりしてらんねぇからカティアの仕事言うぞ」
「あ、はい」
そうだった。今日は遊びに来たんじゃないもの。
「カティアの仕事はティラミスの途中までの仕込みと盛り付けだ」
「はい」
「仕上げは大皿と小分けの両方だ。補助にはシャルをつける」
「え、いいんですか?」
副料理長さんなんて物凄く忙しいんじゃ?
「いや、お前が提案してくれたティラミスはかなり売れ行きが良くてな? シャル以外にも何人かで作らせてんだが追い付かねぇんだよ。あと、お前のが大元だから味の誤差の確認も兼ねてな」
「あ、なるほど」
砂糖の加減やなんやらは、僕の方がオリジナルだからね。
「カッツクリームや生クリームはあらかた仕込んである。生地は今日から式典祭つーことで卵ケーキはちゃんとしたのを用意した。この話が終わったらシャルについてって取り掛かってくれ」
「はい!」
「お前専用の台車も中層や下層には用意してある。不備がありゃすぐに俺に言えよ」
「了解しました!」
「ふゅ!」
いやいや、クラウ?
君は浮かんでるか僕の頭にしがみついてるだけでしょ?
まあ、返事がしっかりしていることはいいことだけどね。
「とにかく、たくさんあるの。二人で頑張りましょう!」
「はい!」
なので、厨房の中へ早速。
台車は落ちにくいように補助的な柵もついてる脚立でした。高さもスペースなんかもちょうどいいです。
しかし、これまた。
「器の量凄くないですか……?」
小分けのもだけど、大皿がパーティサイズくらいの10個って。
「カティアちゃんにとってはなんて事のないデザートかもしれないけど、ティラミスは画期的だったのよ。他国でも一切出回ってないコフィーとクリームの組み合わせに、問い合わせとかも殺人的だったわ……」
「さ、殺人的ですか?」
新作スイーツが流行し過ぎて長蛇どころじゃない人集りが殺到的な?
そんなに難しいスイーツじゃないのになぁ。
けども、
「ティラミスって言葉は『元気が出るお菓子』って意味のようですから、皆さんのやる気に貢献出来たのならなによりです」
「あら、やっぱりそう言う意味だったの?」
「ほえ?」
「ティラと言うのは引き上げ、ミは己、スは上昇を意味するの。だから、意訳して『自分を元気付けさせる』のかなと料理長達とは話し合ってたの。語学力が堪能な人にも多分わかってもらえてるわ」
「なるほど」
お話しながら材料を持ってきて調理台に乗せていく。
シャルロッタさんが言った言葉の意味は大体イタリア語のティラミスの意味と同じだったね。他のもわりかし似てるのかな?
文字の組み合わせはローマ字っぽいけども。
「さて、ひとまずもう一度味の確認のために一つ作ってもらえるかしら?」
「はい!」
なので、グラスカップくらいのティラミスを手際良く作っていきます。
「……見た目は、部下が作ったのとそこまで差は見受けられないけども」
問題は味ね、とシャルロッタさんはスプーンでひと口。
途端、警戒してた猫がゆるゆると懐くように眉尻が下がっていく。
「この砂糖の加減は、悪いけどあの子達より繊細で絶妙だわ! コフィーに合わせて濃過ぎず後味がさっぱりしているし」
「えへへ」
そりゃ、一応はイタリアンレストランの見習いでしたから出来るとこは誇りますよ!
「これは今日の売れ行きはいつも以上の予感がするわ! グラスカップなら絶対足りない!」
「そ、そこまで?」
「新しく作ってからイシャール料理長にも味見させてあげて!」
「あ、はい!」
なので、出せるようにもと合わせて50個くらいシャルロッタさんと作って、表に持って行ってからイシャールさんのところへ行きました。
「ん、どした?」
「一昨日までの比じゃないですよ、カティアちゃんのティラミス!」
「は? 今更じゃね?」
「とにかく、料理長もこれ食べてみてください!」
「お、おぅ?」
シャルロッタさんの勢いに押されて、イシャールさんはとりあえず彼女が手にしているグラスのティラミスとスプーンを受け取ってくれました。
「見た目はあいつらとそんな変わんねぇが……」
ひとまずひと口、と大きめにスプーンですくい上げてぱくりと。
「なっ⁉︎ なんで前に食った時よりあっさりしててうめぇんだ‼︎」
「でしょう⁉︎ カティアちゃん、コツは⁉︎」
「こ、コツですか?」
気迫せまるお二人に答えようと首を捻ってみても、特に思いつかないんだよなぁ。
あ、でも。
「コフィーの濃さと銘柄に合わせてですかね?」
「へ?」
「銘柄?」
「豆は産地によって風味と味も違うじゃないですか?」
「おう」
「そうね」
「淹れる手法も人によって誤差はありますし、先に味見して砂糖の量を変えたりもしてるんです」
違うと言えばそれくらいかな?
ケーキやクリームとかはほとんど誤差はなかったもの。
「……意識したことなかったな」
「カティアちゃん、そんな繊細な知識どこで手に入れたの?」
「え、あははは」
他所の世界の知識なんて言えませんとも!
活動報告にも書きましたが、本日から毎日一話ずつの更新に戻ることになりました。
作者の都合に振り回す形となり申し訳ありませんが、無理なく続けていくためです。
また明日もよろしければお越しくださいノシノシ




