102.巡らせるもの(窮奇視点)
夜の部の投稿でーすノシ
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆(窮奇視点)
ファルの気配が久しく哀愁を帯びていた。
番のリースは気づいているかは分からぬが、我ら守護妖一同はお互いに気づいているだろう。それが我らの役目の一つ故に。
ーー窮奇。
ーー長。
ーーファルが。
我が気づいたのとほぼ時を同じくして、他の三体が念話を飛ばしてきた。
それぞれ遊戯に興じながらも、守護する主人の気配には皆敏感だ。我は遊戯を終えてリースのを観戦する形でいたが、意識は常に我らの主人に向けていたのだ。それは他の三体も同じ故に、主人の心の変化にも同じときに気づけたのだろう。
(あの幼子と親しくなってからは滅多にないでいたが……)
むしろ、逆か。
あれと親しくなり過ぎた故の哀愁。
そう行き当たれば、我も納得出来た。
ーー後で告げる。ひとまず、ファル達を待とう。
ーー【御意】。
まとめ役の我の念話を一言告げれば、三体とも諾の答えをしたきり念話を解いて遊戯に集中していった。
我はリースの顔色を見つつも、先程行き着いた答えを塾考することにした。
(あの家のこともあったが、ファルはただの子ではないからな……)
我ら四凶の加護を一心に受ける血脈の子として産まれ落ちただけでも大した事であるが、その魂は異界から召喚された無垢なモノだった。
赤児の時の会合で我らはすぐに気づいたが、他の血脈の者らはまったく気づかないでいた。故に、まだ話せない彼女に念話を送り、この世界の理などを伝え、育てた。
結果、血脈の中では随一の天才となったが……それは彼女にとって幸せではなかった。
(元より、普通の貴族の家ではない故に……)
影の影。
草の底とも言われる、隠密や暗殺を生業とする暗部の家柄だ。重要な役割を担っていても外聞は決していいものではない。加えて、我らの庇護下にある血脈だからと倦厭されてしまう。
いくら魔獣でないにしろ、人型を解けば異形の姿を晒してしまう。ファルにも赤児の当初は泣かせてしまったくらいだ。
340年経った今でこそごく普通に接してくれてはいるが、奥底ではまだ怯えがあるかもしれない。
そんな彼女の今の境遇のせいか、親しい友と呼べるヒトの子はごく限られていた。
そのほとんどが、同じような家柄の人材などで砕けて話せる間柄でも大抵は『仕事』の内容。
今あの幼子やこの国の王女のように、なんの隔たりもなくたわいもない会話をする機会など、リースと出会うまで我らくらいだったのだ。
(特に先入観を持たずにファルが受け入れた存在だからこそ……ファルは別れが辛いであろうな)
王女とも親しくはあるが、同じ特技を持つ者以上に、同じ世界出身と言うところが酷く嬉しかったはずだ。
守護妖の我らが側にいても、番のリースがいても、そこは共感してやれないところだから。
(叶うことなら、幼子は無二の親友とやらになってほしい……)
唯一の理解者となったリースの御名手となり、幾多の苦難を乗り越えて王妃とはなったが、40年経った今も脱脚させようとしている勢力はある。
我らが他の家の守護妖達と出来るだけ根絶やしにしてるのは秘密だが、ファル達を思ってこそだ。子が出来ぬのはどうしようもないが、二人はまだ若い。これから機会はいつだってある。
そんな彼女達を、この国の者達とは違う意味で支えてやって欲しいのだ。
幼子自身も、いずれはこの国の正式な住人になる予定ではいる。リースの親友であるこの国の宰相の御名手となったのだから。
(ファルはおそらく城に呼びたいのであろうな。だが、あの幼子は簡単に外には出せまい)
その理由にすぐに気づいて、先程のような哀愁を感じて気配にまで帯びてしまったのだろう。
我らが慰めの言葉をかけても、それは一時的な凌ぎにしかなるまい。
複雑な気持ちにはなるものの、我らはヒトの子ではないのですべて分かち合えるわけではない。
これでも、ファルと過ごしてきたお陰で随分と感情が形造られてきたがな。
(……あとでリースには言うべきか、皆と相談して決めるか)
思考を巡らせるのをそこまでにして、もうすぐ終わりそうなリースと王女の試合に意識を戻した。
また明日ーーノシノシ