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この世の奇跡

作者: 朝樹
掲載日:2016/06/29



去年の冬。

遠い都会の病院から一人の子やってきた。


その子は心臓に重い病気を持っていて。

手術すらも不可能で。


治療の手段がないのなら、せめて家の近くに。

ご両親が毎日面会に来られる病院に。


そして私の勤務する病院に来たのだ。



この病院は、ご両親の家から近いと言っても車で片道1時間半。

でも、設備の整った都会の病院は2時間半。


しかもその都会の病院は。

2時間半かけて面会に行ったご両親が許された面会時間は30分だった。



この病院は面会時間に制限はかけなかった。

とはいえ、ご両親が体調や生活に、

響かない程度で退室を促したりはした。



この病院に来たご両親、特にお母さんは。

毎日4-5時間、病院でその子と過ごした。



毎日。

毎日。

毎日。

一日の休みもなく毎日。



それが半年以上続いたある日。





退院が決まったんだ。






この病院に来た時は。

正直もうここで看取るのだとさえ思った子。


信じられないほど心機能は悪かった。

だけど目だけは力強く輝いて。



その子は自分の力と母の愛情で退院を勝ち取ったんだ。





もう。

奇跡だと思った。



ふっくらとしてきた頬。

あやすと声を上げて笑う。

離乳食をしっかり食べる。



最初の頃は人工呼吸器につながれて。

何本もの点滴につながれて。


安静のために薬で眠らされていた。


それが。


それがこんな。




でもまだハッピーエンドではない。


明日も物語は続いていく。

この子の物語は、この先も厳しいのかもしれない。



でも。

それでも。



母は語る。

「この子に約束された未来はないかもしれないけど」



そう。

未来を約束できるほど心機能は良くはない。


でも。

以前と比べたら症状は遙かに改善している。



約束された未来ではないけれど。


この子とは母は、自分たちで今日を積み重ね未来を創ってきた。



その奇跡。




これこそが。

この世の奇跡。








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― 新着の感想 ―
[一言]  葵枝燕と申します。  「この世の奇跡」、読ませていただきました。  子どもって、生まれてくるのが既に奇跡なのかもしれないですね。そして、成長していくのは奇跡の連続かもしれません。でも、当た…
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