この世の奇跡
去年の冬。
遠い都会の病院から一人の子やってきた。
その子は心臓に重い病気を持っていて。
手術すらも不可能で。
治療の手段がないのなら、せめて家の近くに。
ご両親が毎日面会に来られる病院に。
そして私の勤務する病院に来たのだ。
この病院は、ご両親の家から近いと言っても車で片道1時間半。
でも、設備の整った都会の病院は2時間半。
しかもその都会の病院は。
2時間半かけて面会に行ったご両親が許された面会時間は30分だった。
この病院は面会時間に制限はかけなかった。
とはいえ、ご両親が体調や生活に、
響かない程度で退室を促したりはした。
この病院に来たご両親、特にお母さんは。
毎日4-5時間、病院でその子と過ごした。
毎日。
毎日。
毎日。
一日の休みもなく毎日。
それが半年以上続いたある日。
退院が決まったんだ。
この病院に来た時は。
正直もうここで看取るのだとさえ思った子。
信じられないほど心機能は悪かった。
だけど目だけは力強く輝いて。
その子は自分の力と母の愛情で退院を勝ち取ったんだ。
もう。
奇跡だと思った。
ふっくらとしてきた頬。
あやすと声を上げて笑う。
離乳食をしっかり食べる。
最初の頃は人工呼吸器につながれて。
何本もの点滴につながれて。
安静のために薬で眠らされていた。
それが。
それがこんな。
でもまだハッピーエンドではない。
明日も物語は続いていく。
この子の物語は、この先も厳しいのかもしれない。
でも。
それでも。
母は語る。
「この子に約束された未来はないかもしれないけど」
そう。
未来を約束できるほど心機能は良くはない。
でも。
以前と比べたら症状は遙かに改善している。
約束された未来ではないけれど。
この子とは母は、自分たちで今日を積み重ね未来を創ってきた。
その奇跡。
これこそが。
この世の奇跡。




