どうか願いを
ふと思いついて書いてみました。お手柔らかにお願いします。
「あなたさえ、いなければっ!」
あぁ、言ってしまった。
へにょりと垂れたあの子の眉毛を見て、どうしようもない罪悪感に襲われる。
違うの、違うのよ。本当にそう思っているわけじゃないのよ。
ごめんなさい、許してちょうだい。本当に違うのよ。
そんな顔をさせたいわけじゃないのよ...。
「お母様...」
「お母様なんて呼ばないでっ!」
ぽつりとこぼされた言葉。反射的に言い返して走り去る。後ろから、私が居なくなったのを見計らうように現れた子供たちが、あの子をいじめ始めた声が聞こえる。
あぁ、ごめんなさい。あの人の血を継いでいるあなたを嫌いではないのよ。でも、思ってしまうの。もし、あの人が生きていたら。あの人ではなくあなたが代わりに死んでいたら良かったのに、と。ならこんなに辛い思いはしなくてすんだのに。
あの人もあの人の奥さんだった彼女のことも大好きだったのよ。でも、彼女はあなたを産んだばっかりに死んでしまって、あの人は私を妻に迎えてからは仕事にのめり込み疲労で死んでしまった。あぁ、全てはあなたが産まれたから起こってしまったこと。いいえ、こんな事を思う私が死ねば...
「お母様...」
そっとかけられた声に大袈裟なくらい体が飛び跳ねる。もう追いつかれてしまったのね。いつもいつもあの子は私を追ってきてくれる。
「な、にかしら」
涙を飲み込んで振り返るとすぐ近くに立っているあの子の姿。いつの間に私より背が高くなったのかしら...。
あの人とそっくりな顔に彼女にそっくりな目元。
あぁ、羨ましい。そうよ、そう、私は羨ましいのよ。私の家族は私以外みんな強盗に殺されたわ。私が部屋の窓を開けたまま出かけたからよ。家に帰った時にはみんなもう冷たくなっていたわ。親戚の居なかった私は血の繋がりからくる絶対がなくなった。運良く引き取られた家では10歳ほどしか変わらない子供を2人も押し付けられ、挙句の果てには祖父ほど年の離れた相手と婚約させられそうになった。あの人が助けてくれていなかったらどうなっていたか...。
あの人は私の恩人。その恩人の子に冷たくするなんて間違っていることなんてわかっているわ。でも、でもっ!あの人が居て彼女が居て一緒に笑いながらお茶を飲むのが大好きだったのよっ!あぁ、どうして?どうしてあの人も彼女も死んでしまったの?いなくなってしまったの?どうして私を1人にしたの?残ったのはもうすぐ成人を迎える子達が3人。みんな血の繋がりはないわ。家族とは言えないから絶対じゃない。あぁ、みんないずれ結婚して出ていってしまうわ。そうなったら...そうなったらっ!
「お母様」
「お母様なんて呼ばないでっ!」
思わず振り上げた手を少しの躊躇のあとに振り下ろす。ぺちんと乾いた音が響いた。
あぁ、やってしまった。とうとう手まで上げてしまったわ。もう、どうしていいのかわからない。いっそ誰か私を殺して...
「お母様、落ち着いてください。この紅茶を飲んで?気持ちが落ち着きます」
差し出された紅茶を何も考えずに口にする。ちらりとあの子を見るといつもは見せない綺麗な笑顔。
確かにあの子の頬に手は当たったはずなのにあの子は笑っているわ。どうしてかしら?
あぁ、なんだか眠いわ。これは夢なのね?夢だからあの子は私に笑顔を向けてくれているんだわ。だって私はあの子をぶったんですもの。それにいつもはへにょりと眉毛の下がった顔しか見せてくれないもの。
あぁ、夢なら、夢ならばせめていつもは言えない願いだけでも
「私を1人にしないで...」
あなたが好きなの...
「ええ“俺”も好きですよ。もう逃がさない。まずは既成事実だな」
シンデレラは男です。継母が押し付けられた子供二人も男です。
年齢設定的に継母、約10歳離れて子供二人、丁度10歳離れてシンデレラです。
シンデレラ視点も書きます。