GW
彼女は凶器を両手にもって台所にたっていた。鬼気迫る顔で何かの気配を探っているようにも思える。
さすがに、この緊迫した状況で俺は声をかける勇気が出ない。君の大好きなコンビニスイーツを買ってきたよなんて言おうものなら、きっとその手にしている凶器は俺に炸裂することだろう。
とりあえず、そっとソファーへ移動する俺。
一瞬、コンビニの袋がカサカサっと音を立てた。殺気立った彼女がこっちを睨む。俺はその瞬間金縛りのように一歩も動けなくなった。
(もう一度動いたら、確実に殺される!!)
しばらくして、どこからかカサカサっと音がした。その一瞬の音に彼女は反射的に凶器を投げつける。
バシッ
バサッ
という激しいおと共に凶器は壁から床へと落ちた。そこへ行きつく間もなく、彼女はスプレイを発射した。
(ああ、とりあえず、敵はしとめられたな)
俺はそう思って、動こうとした瞬間。ヤツは、目の前を横切った。そして……お、俺の頭にぴたりと張り付く。
「動くな!」
彼女の怒声が響く。
(いや、それ、ダメでしょ。ほら……)
ヤツは声に反応して、彼女に襲い掛かった。彼女の武器は、果たして間に合うのか!!飛び道具はすでに使ったばかりで回収されていない。残るはスプレーのみ!!
だが、俺は見落としていた。彼女の手にはもう一つ武器が握られていたことに。
スパンッ
とでもいったらいいのだろうか、ヤツは彼女の第二の武器に叩き落とされた。そしてあえなくスプレレーの餌食となった。
「よっしゃぁああああ」
彼女が勝利の雄たけびをあげた。俺は死体を処分すべく台所に入る。まずは、厚手のキッチンペーパを無残につぶれ冷却された遺体にかけて回収する。そしてアルコールの消毒液入りウェットティッシュで床と壁を丁寧にふいた。二体目は原型をとどめたまま電気コンロの上で凍死していた。こちらも同じ手順で回収する。そしてその遺体と凶器一号は廃棄処分として室外のアパートのゴミ集積所に持ち込まれたのである。
凶器一号は俺のお気に入りスリッパだった。そして凶器二号は、俺の大事な卵焼き用フライパン……。
「こいつも捨てろと?」
「そうだよ。汚いし、新しいのなら安いのいくらでもあるじゃん」
彼女は勝利の笑みを浮かべている。
(さらば。俺の食生活を支えた友よ……)
俺は彼女の凶器二号に涙の別れをつげた。さらにそんな俺に彼女は今日はお泊りなしねと言って、俺のかってきたスイーツを持って、自分のアパートに帰ってしまった。
(ああ、俺の甘い一夜が……)
こうして、俺の幸せになれるはずだったゴールデンウィークは、二匹のゴキに邪魔されてまくをとじたのだった。それから三日後に、俺は彼女に一方的にフラれた。
これって GWの呪いなのか!!
【終わり】