溜まった鬱憤
朝、寝室に上北沢が入ってくる。
布団にうずくまり顔すら見せなかったが、何の不満も抱かず口を開いた。
「アニマ様、もうそろそろお仕事の時間ですが…?」
「行かない、もう辞める。」
「フォルテ様からの仕事を優先するのですか?」
「とにかく今は休みたい。」
ほっといてくれ、そうは言えなかった。
上北沢は何も悪くない、そう思いたいが、俺が思っている以上に上北沢とフォルテは繋がっていたようだ。
しかし、だからといってどうというわけでもない。
そもそも、自分が何に落ち込んでいるのかすら分からなかった。
昨日、雨の中何もささずに帰って来た。
門番の人が、途中まで必死に傘を渡そうとしてくれたのは覚えているが、仕事が仕事のためしばらく歩くとついて来なくなった。
無駄だと思うのに、なぜ覚えているのだろうか。
それも疑問で仕方なかった。
誰かに相談しようか?そんな気も起きない。
だが、うじうじしていても何も変わらない。
ただ悪口を言われただけで何だ、相手はただの子供じゃないか。
そう暗示をかけながら、俺はなんとかベッドから起き上がった。
気付けばお腹が空いていて、昨日夜に何も食べていない事を思い出す。
朝食を食べながら上北沢に愚痴を言う、これもいいなと思いながら、寝室から飛び出した。
「あら?もう少し眠られてから起きるのかと思っていました。」
「いや、気が変わった。さっさとフォルテの頼みを終わらせてあいつを一発殴ってやる。」
「終わらせてから殴る、ですか。」
やることもやらないで殴るのは筋が通らない、そう言おうとしたが、食欲が足をテーブルの場所まで進めていたので言わないでおいた。
それに気付いた上北沢が、瞬時に朝食を並べる。
相変わらず立派な朝食だが、今は少しばかり物足りなくも感じた。
俺はイスに座り、パンを一つ取りちぎって食べながら上北沢に愚痴を言う。
「あのフォルテってやつなんなんだよ、人がちょっと考えてる時も待たないで煽りやがって。」
「フォルテ様が煽る?珍しいですね、普段はそう言う事はないのですが。」
でも、セナ様も似たような事を申されていた気もします。
と、上北沢が小さな声で言う。
愚痴を聞いているなので気を使ったのだろうが、仕事上の立場でもあるので小声にしたのだろう。
「この飯食ったらすぐに行く、準備なんてどうせ別世界だし必要ないだろ?」
「いえ、武器くらいは必要ですが、希望の武器はありますか?もちろんすぐに揃えますが。」
「そうだな、扱いやすいやつを2つ。それだけでいいや。」
「つまり双剣ですか。」
「ナイフは使ったことないし、それでいいかな。剣も使ったことないけどナイフよりは使いやすいだろ。」
「ナイフにも種類はありますものね。」
自然に話しているが常識的にかんがえるとおかしな話だ、だが気にしないことにする。
朝食を食べ終え、席を立つ。
「武器は今用意できる?」
「はい、場所を取りましたがある程度の武器なら倉庫に用意してあります。」
扱いやすいやつと言って正解かもしれない、扱いやすいと言ったら、一番用意されるであろう武器と言う事、つまりすぐに手に入る。
狙っていた訳でも無いが、後付けで考える。
上北沢が数秒ほど廊下に出て、宿のウェイターに声をかけた。
そしてすぐに持って来て貰えるそうだ。
「持っていく場所はあの館にしてくれ、偉そうなガキがいるあの館だ。」
葉楽館という名前があるらしいが、そんな事は気にしない。
そして俺は、マイペースに葉楽館に向かった。
「あぁ…来ましたか。」
門番が声をかけてきた。
「ああ、来たよ。」
「あのー、例の件ですよね?別世界行って異変解決ってやつ。」
「そうだよ、出来れば今すぐ行きたい。」
「あ、はい、わかりました。では早速儀式にうつらせて貰いますね。」
「儀式?ここで出来るものなのか?」
「はい、すぐに終わります。本当に一瞬ですので、あっちで慌てないでくださいよ?」
「わかった、早速頼む。」
「じゃあ…初めます。」
門番が一言唱えると、俺は姿を消した。
これでようやく鬱憤が晴らせる、フォルテへの怒り、アドへの疑問、その全てをぶつけてやろう。
その流行病と言われている、異変と言う奴に。
とりあえずお疲れ様でした。完結となっていますが、これから本編にはいります。正直こっちは読まなくても本編の話しはだいたいわかるようにしていますので別作品として投稿させていただきます。本編は力を入れて投稿ペースを決めようと思っていますので、よろしくお願いします。第一話投稿は明後日、それから2日1話ペースになると思います。これに付き合って下さった方には本当に感謝してます、やっと本題に入りますので、お楽しみにしていてください。