9月15日~Let`s Start Cultural Festival.壱日目①
ドタドタドタという騒がしい音で目が覚め体を大きく伸ばした後、枕元に置いてある時計に目を向けると7時15分を少し回ったというところだった。
文化祭は10時から始まる予定なので十分余裕を持って登校ができる時間だ。
朝食を食べようと部屋を出ようとすると奥から走ってきた鈴葉とぶつかりそうになった。
咄嗟に俺が部屋に戻らなかったら間違いなくぶつかっていただろう。
「何急いでるんだよ、まだ7時だぞ」
「まだ展示ができてないから今日は8時集合なんだよおおおおおおおおお」
制服を中途半端に着て髪も所々寝癖がついている格好のまま家を飛び出していった。
あの様子だと朝食も食べてないのだろう、後で何か持って行ってやるか。
下に行くと味噌汁の言い匂いが鼻孔をくすぐった。
今日は和風の朝食か、と朝食が並べられている机へに座ると佳奈姉が熱々の味噌汁を持ってきてくれた。
今日のメニューはご飯に味噌汁卵焼きに海苔といったラインナップだ。
ここに魚が付けば旅館の朝食なのだが一般家庭で朝から魚を焼くのは難しいのでこれが限界だ。
俺は朝はあまり食べないのでこれくらいがちょうど良いんだが、と思いながら俺から見て左の席を見ると朝食を食べ終えたであろう食器がそのまま置いてあった。
あそこは鈴葉の席だ。
あいつ時間は無いのに飯だけしっかり食っていきやがった。
鈴葉らしいと言えば鈴葉らしいのだが女子として身支度よりも食事を優先する判断はどうなのだろうかと思ってしまう。
「涼姉は何時ごろ出る予定?」
目の前の席で朝のニュースを見ながらコーヒーを飲んでいる涼姉に聞くと「8時には家を出る」と、いった返事が返ってきた。
やはり生徒会で大変なのか涼姉の体からは疲労感が滲み出ているように思える。
俺も朝のニュースを見ながら卵焼きを口に運ぶ。
今日も佳奈姉の料理の腕は冴えている。
佳奈姉と同じように作っても何故かこんなにおいしくはならないんだよな。
料理の秘訣を佳奈姉に聞いたら「愛情です」と、物凄い勢いで言ってきたのは記憶に新しい。
佳奈姉の愛情たっぷりの卵焼き...凄く複雑な気持ちです。
何とも言えない気持ちで朝食を終えた後、涼姉を見送り身支度を整えた。
俺は涼姉や鈴葉とは違い10時前に始まる開会式に間に合えばいいのでこうしてゆっくりとした朝を満喫できるのだ。
できるのだが...
「佳奈姉、もうちょい離れてくれない?」
「恭くんは私に死ねと言ってるんですね」
「意味が分かりません」
ただお互いの体が少し離れるだけだというのに佳奈姉のこの必死の形相だ。
さっきから胸とか髪とかが当たって気になって仕方ないんだよ。
おぅあぁ、佳奈姉さらに押し付けてこようとするな。
「何で私はダメで飛鳥ちゃんはいいんですか」
佳奈姉が指差す方向には俺の腹にコアラのように抱きつき顔を埋めている飛鳥の姿があった。
飛鳥は朝に弱いのでこのようにして時間があると寝てしまう傾向にある。
そして、この姿にはあまり深い意味は無くただ寝やすいからというだけだそうだ(本人談)
飛鳥の話がどこまで本当なのかは俺の知るところでは無い。
「えっと...妹だから?」
「じゃあ、私も妹になります」
「佳奈姉、一旦落ち着こうか」
「私は落ち着きまくっています」
言葉遣いがおかしい、落ち着きまくってるって何だよ。
長女だろ、しっかりしてくれよ...頼むから。
「もうこんな時間だ、佳奈姉、飛鳥そろそろ学校に向かおうか」
強引に話を切りお茶を濁すことにした。
卑怯だと、片腹痛い。
この場さえしのげれば後はどうとでもなるわ。
飛鳥は俺の声に反応しムクリと体を起こし部屋から小さなポーチを取りに行った。
佳奈姉はまだ納得の行かない様子で俺に詰め寄ってくる。
「恭くん、話を逸らさないでください、私はですね...」
「佳奈姉、早く準備しないと置いていくよ」
「40秒で支度します」
某アニメ映画を彷彿とさせる台詞を口から放ちながら階段を駆け上がっていった。
あんなに早く動いたら折角セットした髪がグチャグチャになるんじゃ...。
しかし、俺の心配を跳ね返すかのように佳奈姉の髪はセットしたままの形を保っていた。
本当に佳奈姉の人間としてのスペックは高いな~(呆)
学校に着いた俺は佳奈姉たちに先に学校内を見てもいいと言い教室へと向かった。
教室の扉を開けるとクラスの半分くらいが既に登校して来ておりそれぞれの話に花を咲かせている。
カバンを机に置き席に座っていると程なくして修也、安住、片桐が登校し俺の元にやってくる。
「ついに文化祭ですね」
「修也さん今日は一緒に回りましょうね」
「俺の意見は?」
「受け付けません」
「やっぱりですか」
「諦めろ修也...俺もだ」
自由は無く常に姉妹という鎖で繋がれている哀れな人形、それが俺さ。
悲しすぎるぜ。
今は佳奈姉と飛鳥だけだがいつ涼姉や鈴葉が乱入してくるか分かったもんじゃない。
この大変は言葉では言い表せないほどの深みを持つ。
本場のカレーよりも奥深い感情という名のスパイスが俺の心を容赦なく削っていく。
何故カレーで例えたかは気にするな、その場のノリだ。
「よーし、お前ら席に着け」
教室に担任が入ってきたことにより皆々自分の席に着いてこの話は終わったのだがまだ文化祭が始まってすらいないと思うととても心的に来るものがある。
文化祭って楽しいものだよね、俺ってそんな経験1度もないんだけど。
毎回姉妹に振り回されて終わるんだよね。
それは文化祭に限ったことじゃないけどな。
ハハハハハ......はぁ。
担任からの諸注意を受けた後、文化祭開始を告げるチャイムが校内に鳴り響いた。
さて、文化祭という戦へと旅立とうじゃないか。
姉妹という名のモンスターに俺の体がどこまで持つか分からないけどな。