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9月14日~文化祭準備始めました①

夏の暑さが少しはマシになってきた9月の終わりごろ、俺の通う丹波高校では生徒たちが慌しく動き回っていた。

グラウンドを見れば昼休みだというのに5,6時間目のための準備をしているやつらも見える。

教室ではそのことに話の花を咲かせる者たちも数多くいる。

クラスメイトたちのテンションが上がるのも無理はない。

何を隠そう再来週の土日を使って丹波高校の文化祭が行われるのだ。

初日は3年生たちが出店を行い、1年生がクラス展示を開く。

そして、2日目には2年生によるクラス発表がある。

このクラス発表は丹波高校の近くにある文化ホールを貸しきって行われるものだ。

クラス発表は内容はどのようなものでもよく演劇からダンス、演奏や合唱などクラスによって出し物は様々になる。

ただし、条件がひとつだけありクラス全員出し物に関わるものでなければならないというものだ。

この条件のおかげで一部の人間だけがクラス発表を独占するという行為を防いでいる。

クラス発表の中でバンドが入ってこないのもこの条件のためだ、バンドは人数がどうしても限られるからな。

因みに俺のクラスの出し物は演劇になった。

劇の内容はこれからの5時間目に決定されるはずだがなるべく俺には楽な配役を演じさせてほしい。

村人Aとか町人Bみたいな役になりたいが俺のように適当にサボりたいやつがこのクラスの中にもいるはずだ。

それもかなりの数が予想される。

きっと激戦を極めることになるだろう。

それでも俺は勝ち取らなければならない。

最も楽な役を!!



劇はなんと既存のものを使うのではなく創作することになった。

0から作るとなると手間も時間も多く掛かることになるので文化祭までに間に合わないのではないのかと思われたが演劇部に所属しているクラスメイトが出し物が演劇を決まった時点で脚本を書き始めていたためその点は心配ないらしい。

あらすじとしては学園もののラブストーリーらしい。

何というか、高校生らしいというか安直というか夢を見すぎとも思ったが自分が創作できないことを考えると文句の1つも言えない。

それに脚本を見た女子のウケが良かったので文句を言うとクラス内の女子による総攻撃に見舞われると思ったからでもある。

配役に関してはシンプルで主人公とヒロイン、あとは数人の名前の付いた役とその他と分かりやすかった。

ここで選ばれなかった者は大道具、小道具などといった裏方が待っているらしいのでどこに配属されてもサボれそうにないな。

非常に残念です。


「さて、これから配役を決めていこうと思うんだけど」


チョークを持った委員長がクラスを見ながら黒板に主人公と書かれた下に大友修也と書きながら厳粛に会議が始まった。

そして、隣のヒロイン枠にはいつの間にかリアル嫁の安住遥と書かれている。


「ちょ、待ったあああああ」


「何よ、今から他の配役決めるんだけど」


修也の制止を隠そうともしない嫌そうな顔で受け止めた委員長は一旦チョークを黒板に置き修也に向き直る。


「おかしいだろ、何で俺が主人公なんだよ」


「それは、遥さんからの強い要望...ゴホン、修也君が一番適任だからと思ったからよ」


「前半明らかに裏で取引があっただろ!?」


「不正はなかった」


委員長の目は虚空を見ながら微動だにしなかった。

汚い目してるだろ、こいつ委員長なんだぜ。


「こんなの...こんなの絶対おかしいよ」


諦めがつかないのか修也は喚き続けたが安住の鳩尾に沈む貫手によって鎮静化された。

修也よ、安らかに眠れ。




立候補や推薦などで劇の役は順調に決まっていった。

俺は劇ではモブの一人として出演しそれ以外は大道具を手伝うことになった。

桐原も俺と似たようなものでモブと小道具を兼ねるようだ。

クラス内の大半がこれに当たりそれ以外のやつは劇でメインを張るようなやつか各グループのまとめ役になっている。

本格的に動くのは明日からなので今は何とも言えないが俺の役職は中々楽なんじゃないのか。

大道具の手伝いと適当に劇に出ればいいだけなんだし。

それに比べて修也のやつは不幸だよな。

さっきから俺の横で涙を流しながら台本を見てるよ。

時々不意に顔を上げたかと思うと「死にたいな」と言うのだけは切実に何とかしてほしい。

本気で腕のいい心療内科当たりを探しておいたほうがいいかもしれない。

俺も将来的に使うかもしれないから。





家に帰り今日のことを佳奈姉かなねぇ達に話すと佳奈姉が立ち上がり怒り始めた。


「どうして、恭くんが主役じゃないんですか!?」


「主役をやりたかったわけじゃないから別にどうでもいいんだけど...」


「私の『恭くんとの思い出~17's』が増えないじゃないですか」


「初耳だぞ、何だその恭くんとの思い出って」


17'sってことはそれ以前のものもあるのか。

いつの間に作られてたんだ、そんなの全然気づかなかったぞ。


「私も姉として恭平には堂々と主役を張ってもらいたいな」


涼姉りょうねぇまで俺に期待されても困る。

俺は俳優でもなければ役者でもない。

どこにでもいるようなブラコンな姉妹たちに愛されている人に過ぎないのだから。

あれ...これって普通じゃないんじゃない。


「恭くん安心してください、私の手にかかればPTA何か敵じゃありません」


「PTAに何をする気だ」


佳奈姉にPTAをどうにかするだけの力があることに驚きだ。

...あれ、そんなに驚くようなことかな、佳奈姉なら普通にありそうに思えてくるから怖い。


「よし、私も校長と明日にでも話を付けてこよう」


「涼姉も変な気を起こさないで」


こっちはこっちで学校の最高責任者と戦おうとしている。

家の家族は電光石火の勢いで喧嘩を売るようにできているのだろうか。


「鈴葉と飛鳥もあの2人に何とか言ってくれ」


情けないと思うが妹達に助けを求めることにした。

とても俺の力じゃあの2人に敵わない。

竹槍と核爆弾程の違いがある。

核爆弾には同じく核爆弾をぶつけるしかない。

さあ行け、妹核爆弾よ。


「ねぇ飛鳥、明日デモでも起こそうか?」


「......(コクコク)」


ダメだったあああああああ。

ぶつけた結果、元に戻らないほどの放射能を撒き散らしやがった。

もうどうすることもできないのか。


「そういえば、劇の内容を聞いていませんでしたね、どんな劇をするんですか?」


佳奈姉の質問に無気力的に学園ラブコメと言うとさっきまでリビングに漂っていた殺伐とした空気が一瞬で消えてなくなった。


「リンゴが剥けましたよ」


「さてと、明日の天気は...」


「お風呂入ってくるね~」


「......(もぐもぐ)」


「えっ、この切り替えの早さどうしたの!?」


「だって、恭くんの出演する劇、ラブコメなんですよね?もちろん主人公とヒロインの」


「うん、そうだけど...」


「だったらそのままでいいです。けど、もし何かの間違いで恭くんが主役になったら全力でもみ消しに掛かります」


「一応、聞いとくけど...何で?」


佳奈姉はフワリと花が咲いたような笑顔で


「恭くんが他の女と仲良くしてるところなんて見たくないですから、もしそんなところ見たら何をするか分かりません。主に...というか女の方に」


と言い吐き捨てた。

佳奈姉の言葉に納得してしまう自分が怖い。





因みに、他の3人にも聞いてみたところ佳奈姉と同じような答えが返ってきた。

う...家の姉妹は仲良しだな~(棒)

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