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8月31日~遥かなる記憶①

やあ、皆元気してるか?

夏休みももう残すこと今日一日となってしまったが最後まで夏を楽しもうではないか。

ん、俺は誰だって?

俺の名前は大友修也。

10人に聞いたら6人くらいは好青年と言ってくれそうな男だ。

しかし、この俺の様な好青年の過ごす夏休み最後の日はなかなかスリリングな一日になりそうだ。

何でかって?

それはな・・・現在進行形で俺は逃げているからだ。

誰からだって・・・言わすなよそんな事。

あれは今から6時間前の話だ。




「・・・よし、まだ誰も起きてないみたいだな」


俺は静かに家の廊下を歩いていた。

今の時刻は午前6時。

朝日が昇ろうとしている時間に起きどこへ行くつもりなのかと問われればどこかだ。

行き先は決めてない。

ただ遥から1日だけでも離れて過ごしたいというそんなささやかな願いを叶えるために俺はこんな時間に起き行動している。

遥はいつも7時前後に起きるのでこの時間なら遥にバレることなく家を出られる。

思えば今年の夏はずっと遥と一緒だった。

家でも外でもだ。

海も夏祭りも一緒だったし、宿題だって7月中に終わらせられた。

ちゃんと文字を見ろよ。

終わったんじゃないぞ、終わらせられたんだぞ。

俺は夏休みの宿題は8月後半から死に物狂いでいつもこなしてきた。

今年だってそうすると心に誓っていた。

が、遥による強制缶詰が発動し宿題が終わるまで家から出してもらえなかった。

鬼だ、まさしく鬼畜だ。

1週間使いやっとのことで宿題が終わり早速友達の家に遊びに行こうとした矢先に遥に捕まり海へ連行される。

休むまもなく今度は山へキャンプをしに、帰ってくると休むまもなく今度は夏祭りに、止めとばかりに遥の帰省まで付いてこさせられる始末だ。

遥の両親とは顔見知りなのでそこまで緊張することはなかったけどやっぱりな・・・。


「あの人たちも俺と遥が結婚するって思ってるよな」


さすが遥の両親だ。

遥を産み遥を育てただけのことはある。

遥は病気なんだろうけどあの2人は天然だからさらに始末が悪い。

手が付けられず後が片付かない。

そんな2人と遥が同じ空間にいるんだから俺がどうなったかは聞くなよ、聞いても言わないが。

そんなことよりもだ。

今日は思いっきり羽を伸ばすぞ!!


「こんな朝早くからどこに行かれるんですか、修也さん?」


靴紐を結びながら鼻歌を奏でそうな勢いでご機嫌な俺の耳が拾った声は今一番聞きたくなかった声だった。

今、俺がどんな顔してると思う。

笑顔、絶望した顔・・・いやいや、どっちも微妙に違う。

口元ははにかんでいるのに目の瞳孔が開いているんだ。

世にも奇妙な顔面。


「ジョ・・・ジョギングに行こうかなと思ってたんだよ」


「そんな服装でですか?」


改めて俺が今着ている服を見る。

ジーパンにシャツにジャケット。

どう見ても運動向きの服装ではない。

やべー、汗が止まらねぇ。

夏だからとか運動したからだとかそんな綺麗な汗じゃない。

焦り、不安、恐怖、が主成分の何とも汚い汗だ。


「あ・・・ああ、そうだ思い出した。今日は恭と遊びに行く約束をしてたんだった、はははは」


「そうですか・・・」


遥が少し思案顔をして考え込んでいる。

このまま俺を逃がして欲しいのだが天は俺に味方するのか。


「分かりました」


おお、来た!!。

神は俺を見捨てていなか・・・。


「私も一緒に行きます。途中で翔子さんも誘いましょう。これで男女2人ずつになりますから」


か・・・神は死んだああああ。

遥は俺に「少し待っていてください」と言って自分の部屋に帰っていった。

きっとパジャマから普段着に着替えて本当に付いてくるつもりなのだろう。

俺はどうすれば良いのか。

そんなこと分かりきってるじゃないか。

素早く靴紐を結び急いで玄関を開けると一目散に逃げた。

もう走れるだけ走った。

そして今に至るわけだ。


「あっついな」


携帯で時間を見るともう12時を回っている。

何処かで軽い食事を取りたいところだ。

と、言うわけで某ハンバーガーショップにやって来た。

近くにあったことも来た理由のひとつだが何より中が涼しい。

クーラーが利いていて今の俺の体に安息をくれることが嬉しくてたまらない。

本音を言えばどこでも良いから早く休みたかっただ。

ハンバーガーを食べながら何気なく携帯を見るとちょうどメールを受信したところだった。

誰からだろう、携帯会社からかな。

メールボックスを開けるとそこには遥の文字が・・・。

今、この瞬間にメールボックスはパンドラボックスへと変化した。

開けたくないが開けないと後々後悔するかもしれないので意を決してメールを開けた。


『すぐに追いつきますから待っていてください、修也さん』


ああ・・・見なければ良かった。

食欲が急になくなってきたし下腹部が締め付けられるように痛い。

クーラー掛かってるはずなのに汗が止まらないのは何故だろう。

他人から見たら貧乏ゆすりのごとく足が震えてる。

俺はただの情緒不安定な人になっていた。



ハンバーガーショップを後にした俺が向かった先は寂れた神社だった。

向かった先と言うが歩いていたら偶々見つけただけであって意図してここに来たわけではない。

だけど、ここは身を隠すにはちょうど良いかもしれない。

神社の裏に回ると縁側のようなものがあり座ったり寝転がったり出来るくらいのスペースがあった。

木陰になっていてもいるのであまり暑さも感じなさそうだ。

ここらで一旦休憩にしとくか。

ここまでほとんど歩きっぱなしだったし。

縁側に座りボーとしていると木陰のせいか、はたまたお腹がある程度満たされたからなのか、それとも朝起きるのが早かったからなのか。

理由はどうあれ凄く眠たくなってきた。

ああ、風が凄く気持ちい。

寝転がって寝たい・・・ってかもう寝る。

欲望には逆らえない俺だった。

いやいや、睡眠欲は食欲と性欲と同じ人間の三大欲なんだ、蔑ろには出来ん。

そう自分にはいい訳をつけて寝ることにしよう。

遥と離れて緊張の糸的なものが切れたためかノンタイムで眠りに付くことができた。


そして、俺は夢を見始めた。

懐かしい・・・遥と出会った頃の夢を。

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