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8月7日~夏祭りに出陣!!④

焼きそばを買い、ついでなので修也達も引き連れて佳奈姉達が待っている奥の社へ着くと何故か人だかりができていた。

何かあったのだろうか?

・・・うん、いまさらですよね。


「佳奈姉、焼きそば買って来たよ」


人だかりを押しのけるように進んでいくと社の近くにあるベンチに予想通り佳奈姉達が座っていた。

周りの人から浴びせられる「えっ、お前誰?」的な視線をサラッと受け流しながら佳奈姉に焼きそばが入ったビニール袋を渡す。


「以外に早かったですね、30分くらい掛かるかと思ったんですが」


「思ったより焼きそばが早くできたんだよ」


この会話の最中にも周りのギャラリー達の話し声が聞こえてくる。


「えっ、こんなパッとしない男が・・・」


パッとしてなくて悪かったな。


「これなら俺のほうがカッコいいじゃねえか」


嘘つけ、似たようなもんじゃねえか。


「恭平ずるいぞ、俺にもお零れを、佳奈さんの笑顔のお零れをくれ」


修也、お前にはいるだろう・・・いろいろな意味で。

はっ・・・今、修也の気が消えた気がする。

微かに悲鳴も聞こえたし。


「・・・・・・食べる」


我慢の限界が来たのか、飛鳥は佳奈姉の膝に置かれていた焼きそばの入ったビニールをガサガサと探り始めた。


「飛鳥ちゃん、ちょっと待って下さい、今から配りますから」


佳奈姉達の関心が完全に自分達に向けられないと悟ったのかいつの間にかギャラリーはほとんどいなくなっていた。

そして、そのギャラリーがいた場所には頭を押さえながら地面に転がっている修也とその傍らでニコニコと不気味な笑顔を発している安住だけがいた。

どうやら、正妻による制裁が行われたらしい。

こんな状況になっても冷静になってる自分が怖い。

本当に慣れって・・・恐ろしいものだ。


「おーい、生きてるか?」


倒れこんでいる修也の肩をポンポンと叩きながら生存確認をする。

こんなやつでも俺の友達だからな。


「ああ、大丈夫だ」


起きて来ないがたいしたことはなさそうだな、こいつは異常に打たれ強いし。


「この川をこの船で渡ればいいんだろ?」


「うおーーー、帰って来い、修也!!」


その川は有名な渡っちゃいけない川じゃねえか、なに気軽に渡ろうとしてるんだ。

無理やり上半身を起こし首が飛んでいく勢いで前後に揺する。


「うぷっ、この船よく揺れるな、船頭さんもっとうまく渡ってくださいよ」


乗っちゃったよ、こいつあろうことか船になんの躊躇もなく乗り込みやがった。

変なところで変な度胸見せなくてもいいんだよ。


「安住、ヘルプ、ヘルプミー」


主犯は安住だがこの際どうでもいい。

俺の手ではどうすることもできなくなってしまった修也を託すにはもう安住しかいない。


「あらあら、うふふ」


あららら、うふふ・・・じゃないよ。

早く来いよ安住、修也が逝っちまうぞ。


「そんなに焦らなくてもここをこうしてここを押し込めば・・・えい」


ちょうど両肩甲骨の間に膝を置いてそこから体重を乗せて押し込んだ。


ぐきゅあ


「ふぐぉっ・・・」


めちゃ嫌な音がしたんだけど。

大丈夫なのこれ・・・。


「ん・・・ああ、遥か」


おお、目覚めた。

ずげえ、安住すげえ。


「今、死んだ婆ちゃんと会ってたんだ、めっちゃ元気だったぞ」


「はいはい、向こうで聞きますから・・・それでは皆様私達はこれで」


大丈夫そうじゃない修也に肩を貸しながら安住は露店のある方向へと帰っていった。

修也が激しく心配だが後は安住に任せるとするか。


「お兄ちゃん、焼きそば冷めちゃうよ」


「今から食う」


せっかく買ってきた焼きそばが冷めてしまったらおいしさも半減だ。

温かいうちに食べないとな。

涼姉からラムネを貰い焼きそばを食べ始める。

ここの露店の焼きそばはソースが濃いめに掛かってて上手いことこの上ない。

それにこのラムネの喉を潤していく清涼感。

たまりませんな。


「お兄ちゃん、今何時?」


手元の時計を見るともう9時30分を回っていた。

時計を鈴葉に見せると慌てて立ち上がり俺の手をとって半ば強引に立たせる。


「早く行かないと良い所取れないよ」


「まだ始まるまでに30分近く残ってるぜ」


花火大会は10時からなのでここからなら芥川湖まで10分も掛からないだろう。

佳奈姉や涼姉からも鈴葉に少し落ち着くように言って欲しい。


「確かに、花火を良い場所で見るには早く行かないとな」


「混まないうちに行っちゃいましょう」


戦力にすらならなかった。

ちゃっかり飛鳥も準備万端だし・・・。


「ゴーゴー、レッツゴー」


鈴葉に押され佳奈姉に引っ張られ無理やりに連行されてしまう。

こんなペースじゃ5分と掛からないぞ。

ちょうど長針が45に指しかかろうとした時に俺たちは芥川湖の湖畔にたどり着いた。

まだ開始まで15分もあるのに湖畔にはそこそこの人だかりができていた。

15分前でこれなのだから開始することにはどれくらい集まることやら。

帰るときに逸れないように注意しないと。


グイグイグイグイ


「・・・・・・はあ~」


お決まりの飛鳥の裾引きが始まってしまった。

言葉数が少なくてさらにこんなザワザワしたところじゃ聞こえ難いのは分かるけどさ裾を引くのは時と場合を考えて欲しい。

浴衣なんかの裾を引いたら形が崩れて大惨事になりかねないじゃないか。

膝を折って飛鳥に顔を近づける。

この距離くらいなら聞こえるか。


「どうした飛鳥、トイレか?」


飛鳥はフルフルと首を振ると空を指し


「・・・見えない」


と言った。

確かに、この人ごみの中で小学生が花火を見るのは困難だろう。

飛鳥の目線に立ってる俺ですら見えない。

どうしたものか・・・。


「・・・肩車」


「えっ・・・」


マジっすか、飛鳥さん。

悪い冗談だと非常に嬉しいのですが・・・。


「抱っこじゃダメなのか?」


「・・・肩車」


どうやら向こうは引く気は無いらしい。

このまま放って置くこともできるがそれはあまりにも可哀想だろう。

ここは甘んじて飛鳥の要求を受け入れるしかなさそうだ。


「ほら、今のうちに乗れ」


首を前に倒し飛鳥が乗りやすいようにする。

すると、程なくして首に微かな重みが加わったことを確かめると飛鳥の足を持ちながら立ち上がる。

これなら飛鳥もバッチリ見えるだろう。


「あー、飛鳥ずるい、私も肩車して欲しい」


鈴葉が騒ぎ立てるがここは無視だ。

飛鳥はともかくお前はもう無理だ。

いくら中学生でも俺の許容範囲を優にオーバーしてる。


「あっ、始まったみたいですよ」


佳奈姉の声に騒いでいた鈴葉も声を潜め空を見上げる。

俺と飛鳥も花火の撃ちあがる音に合わせて空を見上げるとそこには見事な大輪が咲き誇っていた。

ドーン、ドーン、パラパラ

様々な花火が夜空へと撃ち上がって行く。

大きなもの、小さなもの、土星や星、赤、青、黄色、緑。

見ていて飽きることは無いだろう。

首の疲れなんて忘れて永遠に見続けていられるが次が最後の1発らしい。

ドーン、と今までで1番大きな音と花を発した花火が終わった後は寂しさの残るパラパラとした音。


「・・・終わっちまったな」


「そうですね」


「帰るとするか」


人ごみで逸れないよう涼姉は鈴葉の近くに、佳奈姉は俺と飛鳥の近くに寄り最初にいた鳥居を目指して歩いていく。

帰りは行きとは違い思ったほかにスムーズに歩けた。

涼姉達と逸れることなく鳥居に着いた俺達はそのまま俺の着ている浴衣を返しに行った。


「また、来年も行こうよ」


「そうですね、来年も花火をやってくれるでしょうか」


「以外に人気だったみたいだし、またやるだろう」


「・・・また、花火見たい」


「ま、来年の話だけどな」


家に帰る途中、花火の話や露天の話で盛り上がったあと、佳奈姉が俺のほうを見て聞いてきた。


「ところで、恭くんはいつまで飛鳥ちゃんを肩車してるつもりなんですか」


「えっ、ああ、忘れてた」


花火も見終わったんだしいつまでも肩車してる必要は無いよな。

飛鳥を肩から下ろそうとするが飛鳥が離れない。

主に足で俺の首を手で頭をガッチリ持ってるため離れる気配が無い。

・・・諦めよう。

下ろすことを諦めた俺はそのまま家まで飛鳥を肩車して帰る羽目になった。




その間、3人の嫌な視線を浴びるように受けた俺は家に帰った瞬間、飛鳥を下ろし風呂に入り直ぐにベットに潜った。

俺はさっさと夢へと逃げるぜ。


来年、夏祭りに行くのが恐くなっちまった。

修也でも誘って2人で行こうかな。


何だかんだで、2人とも邪魔されそうだけど・・・。

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