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8月7日~夏祭りに出陣!!③

俺の浴衣を選んでいたら夏祭り会場に着いたのは7時前になってしまった。

浴衣は佳奈姉かなねぇが持ってきた無難なものにしておいた。

理由は消去法といういたって簡単なものだ。

涼姉の持ってきた浴衣を着こなす自信が無かったし、鈴葉の持ってきたのは色が派手すぎてとても着れたものじゃない、飛鳥の選んだものは少し子供っぽかったので止めておいた。

そして、残った佳奈姉のを選んだというわけだ。

自分の持ってきた浴衣が選ばれたためか佳奈姉はいつになくご機嫌だ。

何で分かるかって?

そりゃ分かるさ、鼻歌とか歌っちゃってるもん。


「絶対に私の選んだ浴衣の方がお兄ちゃんに似合ってたよ」


後ろのほうで鈴葉がブースカと文句を垂れ流していた。

確か鈴葉が持ってきた浴衣って・・・ああ、あの真っ赤の浴衣か。


「いやいや、お前の持ってきたのが一番なかったわ」


「えー、何で?」


「俺にあの色は着こなせない」


浴衣で真っ赤はダメだ。

だって考えても見ろよ。

行き交う人の中で1人だけ真っ赤の浴衣を着てるやつが前から歩いてきたら・・・。

俺だったら間違いなく二度見するね。

その後、去り行く姿をガン見するね。

そのくらい夏祭りという空間で違和感バリバリの浴衣なのだ。

赤色の浴衣を着ても通常の3倍のスピードで動けるわけではないので却下。

即・却・下☆。


「久しぶりに夏祭りに来てみたがかなり混雑しているな」


涼姉の言うとおり芥川神社は多くの人と露店で埋め尽くされていた。

鳥居を越えた先は今いる位置とは比べ物にならないくらいの人集りだ。


「どうしてこんなに人がいるんでしょうか?」


「去年まではここまで多くはなかったはずなんだけど・・・」


佳奈姉と話しながら手元のチラシを見ているとこの人集りの原因の一役を買っているであろうイベントを発見してしまった。

チラシの左下の方にスケジュール表がありその中にそれがあった。


花火大会・芥川湖 10:00~


花火大会は去年まではなかったイベントだ。

客寄せのためかそれとも今年からたまたま始めただけか分からないがもし開催者の思惑が前者ならその思惑は大成功になるだろう。

そのせいで俺たちは困っているんだけど・・・。


「姉さん、10時から花火があるらしい」


「本当ですか、楽しみです」


「私も花火みたい~」


「・・・・・・(コクコク)」


女性陣は大盛り上がりだ。

あれ・・・この状況を困ってるのって俺だけ。

いやさ、花火は好きだよ。

けど、その好きを上回るくらいに人ごみが嫌いなんだよ。

今の俺にはこの先に広がる人ごみに入っていくだけのテンションがない。

回れ右して家に帰りたいんだけど・・・許してくれないよね。


「花火が始まる前にお祭りを楽しまなきゃね、お兄ちゃん」


「そうですね、さあ恭くん、行きますよ」


右腕を鈴葉に、左腕を佳奈姉に持たれ引きずられるように人ごみの中へと連れて行かれてしまった。

俺は今日という日を五体満足に過ごせるのだろうか。





「よっしゃあ、俺の勝ちだ」


「ぐはあーー、負けた」


「・・・悔しい」


心配なんてしてたのが嘘のように夏祭りをばっちり楽しんでた。

鈴葉と飛鳥に金魚掬いで勝ってガッツポーズしてるくらいにテンションは上がりまくっている。

年下相手に大人気ないかもしれないがこれって・・・勝負なのよね。


「また金魚が増えたな」


「金魚鉢の大きさ、足りるでしょうか・・・」


飛鳥が屋台のおっちゃんからビニール袋に入った金魚を貰っている所を見て佳奈姉と涼姉はため息をついていた。

それもそうだろう。

夏祭りに家族で行くと決まって俺と鈴葉と飛鳥による金魚掬いバトルが始まるので家にある金魚鉢の人口密度・・・いや、魚口密度はパンパンに膨れ上がっている。

今度、水槽かもう一つ金魚鉢を買ってくるか。

鈴葉の持っていたフライドポテトを2,3本取って食べながら屋台を見ていく。

カキ氷、たこ焼き、スーパーボール掬いと様々な屋台が並ぶ中お目当ての屋台が見つけられずにいた。

そう、焼きそばである。

さっきから、ちょくちょくフライドポテトやフランクフルトなんかを摘みながら歩いているがいまいち腹に溜まらない。

もうそろそろ腹に溜まるものが食べたいな。


「恭平、あそこに焼きそばが売ってるぞ」


「本当!?」


涼姉が指す先には確かに焼きそばの文字が。

やっと、飯らしい飯にありつける。

けど、けっこうな人数が並んでるな。

20分くらいは待たなきゃダメだろうか。


「俺が買って来るからどこか適当な場所で待っててくれ」


「じゃあ、私も行く!!」


1人で焼きそばを持つのはちょっと厳しいかな。

ここは鈴葉の手でもありがたく借りとくか。


「よし、鈴葉も来い」


「ラジャーー!!」


念願の焼きそばが見つかりテンションがおかしい俺とお祭りごととなるとテンションの上がりようが止まることを知らない鈴葉が焼きそばの列の最後尾に突撃していく。


「恭くん、奥の社の近くに居ますからね」


「・・・・・・飲み物」


「そうだな、行く途中にでも買っていくか」


佳奈姉の奥の社の部分だけを聞き取り手を振り分かったと合図をする。

鈴葉はもう最後尾に並んだみたいだ。

相変わらず早いやつだな。

人ごみを掻き分けてなんとか鈴葉の隣に並ぶ。


「ふふふ、お兄ちゃん」


「なんだよ・・・って、腕を組むな、腕を」


鈴葉は俺の腕を自分の腕で絡め取り胸を押し当ててくる。

これはあれか・・・恋人がイチャイチャする光景ってやつなんじゃないのか。


「暑いから離れろって」


「せっかくお姉ちゃん達がいないんだから有効活用しないと」


「少しは恥じらいを持て!!」


「恥じらいなど当の昔に捨てた」


「お前まだ15だろ!?」


これから恥じらいを覚えていく年頃なのにこいつの中では恥じらいはもう存在しないらしい。

グッバイ、鈴葉の羞恥心。


「それにこれくらい普通だって、ほら前の人たちもやってるじゃん」


顔を上げ前を見ると確かに2人組みが俺たちのようにイチャイチャしている。

男の方は嫌がってるけど女の方が積極的に仕掛けて行ってる辺り俺たちと同じだ。

男の方に同情を覚えるよ。

・・・それにしても女性の方はかなり美人そうだ。

後姿からでも美人オーラが滲み出てるもんな。

それに浴衣を着慣れてる感がある。

涼姉の浴衣姿も凄かったがこの人の場合は普段から着物とか浴衣とかを着ているのだろう。

涼姉と違い周りに溶け込むようにして着こなしている。

艶のある黒髪も浴衣との相性はバッチリだ。

そんな人とイチャイチャするのを拒むなんてなんて贅沢な。

男の顔が見てみたいよ。

そんな時だった。


「・・・ん?」


「・・・あれ?」


さっきの2人組みの様子がおかしい。

さっきまでのイチャコラ雰囲気が一変して禍々しいオーラを放ちだした。

主に・・・っていうか、女性の方だけが。

あっ、女性がじれったいのに我慢できなくなったのか強引に腕を組み行った。

腕を組んだ、技的に。

俺と鈴葉のようなカップルがするような腕の組み方じゃない。

言ってみれば警察官が犯人に対してするような痛みを伴い、尚且つ逃げられないようにする組み方だ。

そうとう痛いのだろう。

男の方は痛みに体をねじって堪えている。

あれだけ激しい動きをしても女性の浴衣は崩れる様子は無い。

すげぇ・・・。

変なところに感心してると痛みに堪えるためか男はさらに体を捩り、顔がこちらを向くような体勢になった。

その男と目が合った瞬間、2人とも言葉を失った。

そして、数秒たった後、絞り出すような声で2人とも呟く。


「よ・・・よう、恭平、元気そうだな」


「・・・修也、お前も・・・な」




俺たちの前に並んでいたのは悲しい愛の奴隷、大友修也だった。

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