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8月7日~夏祭りに出陣!!②

チッチッチッチッ・・・ゴ、バタン


6時を告げる時計の音を遥に凌駕する音でリビングの扉が開け放たれる。


「ふっふっふっ・・・遂に来ました、6時です」


「そ・・・そうだね」


引くわー。

20歳が夏祭りでここまでテンションを上げている様は心にガツンと来るね。

さらに、それが俺の姉ってことでさらにコンボでグサッと来た。


「どうですか、私の浴衣姿は」


佳奈姉は鬼気迫る顔で俺に詰め寄ってくる。

恐い恐い、目が血走ってるよ。


「近くてよく見えないからちょっと離れて」


何とか佳奈姉に離れてもらった俺は佳奈姉の浴衣姿を再度確認する。

朝に来ていたのと同じ淡い青色に朝顔が描かれたメジャーな浴衣だ。

違うのはしっかりと襟や帯が整えられていることだろう。

細かいところでも直すとここまで差がでるのか。

はっきり言って朝と今とじゃ断然今の方が良い。


「朝に着てたよりも似合ってると思うよ」


「その言葉に嘘偽りは?」


「えっ?もちろん無いけど」


「や・・・」


「や?」


「やりましたー!!」


佳奈姉は俺に褒められたのが嬉しいのか腕を振り上げ大喜びをする。

そんなに動いたらせっかく整えたのにまた崩れるぞ。


「これで私達の初夜も確かなものとなりました」


「えっ?」


「え?」


・・・何この空気、超逃げ出したいんですけど。

っていうか、今日、佳奈姉と一緒に暗がりに行きたくないんだけど。


「お兄ちゃん、どうこの浴衣?」


ドタドタと階段を走って降りてきたのは鈴葉だった。

浴衣を着て階段を走るとは恐れ知らずなやつめ。

ここは兄として1つ注意しとかないといけないな。


「おい、鈴葉、浴衣着てるんだから階段は・・・」


振り向きながら注意しようと思ったがその行動は阻まれてしまった。

誰かが直接俺に対して邪魔をしてきたわけじゃない。

だが、俺の注意を止めるくらいの破壊力を持ったものがそこにはあった。


「おい・・・鈴葉、その浴衣」


「おっ、気になりますか、さすがだね」


いやいや、そりゃ気になりますって。

だって浴衣の丈が膝の辺りまでしかないもん。

浴衣のミニスカートなんて聞いたことねえよ。


「お兄ちゃん、どう感想は?」


鈴葉は後ろも見てもらおうとクルクルとその場で回ってみせる。

見える、見えるから、色々なものが。

お前も女の端くれなら少しは恥じらいを持て。


「それは浴衣なのか?」


「もちろん、最近はかなり有名になってきてるよ」


こんな浴衣、浴衣じゃねえ。

情緒も風流もどこにも感じられない。


「むぬぬ、やはり鈴葉ちゃん、やりますね」


「佳奈姉はこの浴衣のどこに感心してるの!?」


佳奈姉のセンスがまったくもって分からない。

姉妹同士だけが通じる何かがあるのだろう。

そう思いたい。


「で、感想は?」


鈴葉に催促されてようやく感想を求められていたことを思い出した。


「ん~、あれだな・・・動きやすそうだな」


「・・・他には?」


ヤバイ、ちょっと不機嫌になった。

ここで争いになるのは俺としても困る。

急いで他の褒め言葉を探さないと。


「あ・・・涼しそうだな」


「お兄ちゃん・・・ラストチャンスだからね」


うわー、間違えた。

しかも、最終通知されてしまった。

もう道が無い。

鈴葉は額に血管の十字路を作っていた。

これで間違えたことを言ったらマジで怒られる。

頭をフル回転させるんだ。

答えを・・・答えを導き出せ。


「鈴葉らしくて良いんじゃない、やっぱ明るい色は鈴葉にぴったりだな」


鈴葉の浴衣は黄色とオレンジと派手な色だったがそれが着こなせるのが鈴葉だ。

こいつの場合、際どい色でも難なく着こなせてしまうから恐い。

ショッキングピンクでも迷彩でも同じように着こなしてしまうんだもんな。

服を選ばない佳奈姉と色を選ばない鈴葉。

どっちもセンスの塊だ。


「えへへ、そうでしょ、そうでしょ」


褒められた鈴葉は体をクネクネさせて喜んでいた。

喜んでいた?


「・・・私も、着た」


後ろから軽い衝撃を受け振り返って見るとこれまた浴衣を着た飛鳥の姿があった。

紺色の生地に赤い金魚が描かれている浴衣で丈が少し短かった。

これは佳奈姉のような普通の浴衣だと裾を踏んだりどこかに引っ掛けて転んでしまわないようにするためにわざと丈を短くしているのだ。


「飛鳥も浴衣か」


俺の言葉に飛鳥は肯定を表す頷きを返してくる。

そして、無言の褒めてアピールが始まった。


「・・・・・・・・・」


・・・屈せざる終えない。

とてもじゃないがこの目には一生逆らえる気がしない。

目の中に静かな闘志が宿ってるんだもん。


「飛鳥、似合ってるな、可愛いぞ」


褒めながら飛鳥の頭をゴシゴシと少し乱暴に撫でる。

一見、酷いことをしているようにも見えるが飛鳥はこれくらいの力加減で撫でられるのが好きなのだ。

その証拠に飛鳥は猫のように目を細めてトロンとしている。

お兄ちゃんはそこら辺ちゃんと分かってるんだぞ。


「恭平、その辺にしておけ、せっかく整えた髪が台無しになる」


堂々とし、3人とは違う風格を漂わせて現れたのは涼姉だった。

涼姉の浴衣はとてもシンプルなものだった。

絵柄は描かれておらず青と紺と白の濃淡や掠れ具合で味を出している。

素人目から見てもあれを着こなすのはかなり難しそうだ。

それをさらっと着こなす辺りさすがとしか言いようがない。


「どうだ恭平、どこか変な所はないか?」


変な所どころか完璧じゃないですか。

どこに不安材料があるんだろうか。

まあ、褒めてその不安材料がなくならいくらでも褒めるけどさ・・・。


「変な所なんてないよ、めちゃくちゃ涼姉にぴったりだ」


「そ、そうか・・・それは良かった」


涼姉は俺の感想に胸を撫で下ろした。

どうやら不安材料はなくなったらしい。


「さてと・・・」


こうやって4人並べて見ると見事に個性が出てるな。

佳奈姉は無難、涼姉はシンプル、鈴葉は趣味、飛鳥は機能。

どれにも共通してることと言えば全員似合ってるってことだな。

これ以上褒めると調子に乗るのでここら辺で止めておくけど。

時計を見ると6時17分、頃合いだろう。


「そろそろ行くか」


玄関に向かおうとした時、ガシッっと後ろから肩を捕まえられる。

えっ、何!?


「恭平、浴衣はどうした」


涼姉が指摘するのも無理は無い。

今の俺の服装は朝に来ていた7分丈のジーパンと半袖のシャツとジャケットを着ている。

去年は修也と夏祭りに行ったのでこの服装でも良かったのだが今年はどうやらダメらしい。

涼姉を含めた計4名の目が据わっていたからだ。

ここで強行突破しようとすれば血を見るのは明らかだ。

一方的に俺だけだけどな。


「俺、浴衣持って無いし・・・」


その言葉を聞いて4人が円状になって作戦会議をし始めた。


「どうする、恭平は浴衣を持っていないぞ」


「・・・お父さんのは、どう?」


「できれば私達で選びたいんですが・・・」


「そう言えば、夏祭りに行く途中に浴衣を貸してくれる所があったはずだよ」


「本当ですか、鈴葉ちゃん」


「それが、本当ならそれがベストだな」


「・・・賛成」


おっ、終わったみたいだな。

4人が円陣を崩し俺に向き直る。

そして・・・

ガシッ


「え・・・」


ガシッ


「・・・はい?」


佳奈姉と鈴葉によって俺の両腕が取り押さえられる。

捕獲された宇宙人のような構図だ。


「さあ、行きますよ」


「ゴーゴー」


ズルズルと2人に引きずられ夏祭りへと繰り出した。






~道中~


「これなんて、恭くんにピッタリではないですか?」


「いや、姉さんこれなんていい色を出してるぞ」


「分かってないな、お兄ちゃんにはこれがいいんだよ」


「・・・これを、押す」


夏祭りの道中に店に入ったと思ったら4人が別々の浴衣を俺にお勧めしてきた。

しゅ・・・修羅場だ。


「さあ、どれを選ぶんですか、恭くん」


これ以上、俺にプレッシャーを掛けないで。

胃に穴が開くのは時間の問題かな・・・。

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