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8月7日~夏祭りに出陣!!①

時計の短針が10時に達しようとしている。

俺は部屋で夏休みの宿題を終わらしている最中だ。

溜まるとやっかいだからな、今のうちにやっとかないと。

1度ギリギリまで溜めて痛い目を見たことがある俺は夏休みが始まると同時にコツコツと宿題を終わらせていきこの数学のテキストが終われば大体終わったも当然だ。

数学は正直得意では無いが時間を掛けて教科書を見れば何とかできるようになっている。


「・・・よし、終わりっと」


最後の記述問題を終えテキストを閉じ背伸びをする。

これでほとんどの宿題は終わったな。

さてと、昼飯まで時間あるしマンガでも読んでいようか。

本棚に手を伸ばしマンガを取ろうとした時、勢いよく俺の部屋の扉が開けられた。


「さあ、恭くん、夏祭りに行きますよ~」


「・・・はい?」


今起こってる状況が理解できない。

夏祭りは当然夜からだ。

ここからの移動時間も考えれば6時くらいに家を出たらちょうどいいくらいの時間に向こうに着くだろう。

なのにだ。

佳奈姉かなねぇはもう浴衣姿に巾着を持って行く気満々だ。

まだ10時だというのに。


「のんびりしてないで、早く支度してください」


「早いよ、まだ夏祭りは始まらないよ」


「ええええ!?」


そんなに驚かれても・・・。


「じ・・・じゃあ、何時に家を出るんですか?」


「6時くらいかな」


「そ・・・そんな」


音が聞こえそうなくらいに血の気が引いていく佳奈姉。

本当に今から行くつもりだったんだ。


「り、涼ちゃん、涼ちゃーーん」


佳奈姉は堪らず涼姉を呼び出した。


「何だ、姉さん、そんなに大きな声を出さなくても聞こえる」


隣の部屋から出て来た涼姉はハーフパンツに無地のシャツと完全にくつろぎスタイルだ。


「姉さん、どうして浴衣を着ているんだ?」


やっぱりそうですよね、気になりますよね。

まだ昼にもなってないもん。


「だって、お祭りが・・・」


「祭りは夜からだ」


涼姉は佳奈姉の言葉を一刀両断する。

口をパクパクさせ二の口が開けない佳奈姉にさらに涼姉が詰め寄り、


「姉さん、浴衣の着方が少し違うぞ。ほら、帯が少し曲がっている。襟もおかしな方向に折れてしまっているじゃないか。まだ、時間があるから脱いで形を整えよう」


と止めの一撃をお見舞いした。


「で、ですけどせっかく着たんですし・・・」


「姉さん・・・脱いで」


「・・・・・・はい」


佳奈姉は涙目になりながら涼姉の言葉に従う。

未練がましく最後は俺に助けを求めてきたが気づかない振りをした。

これ以上の問題を抱え込むのはナンセンスだ。

佳奈姉には大人しく涼姉の言葉に従ってもらうとするか。





「納得できません」


あれから佳奈姉のご機嫌は日本の株価以上に下降気味だ。

今の佳奈姉を一言で表すなら激おこプンプンだ。


「あのまま着ていたら絶対に着崩れしていたし汗もかくだろう」


「つーん」


涼姉がいくら説得しても聞く耳すら持たない。

これは完全にへそを曲げたな。


「あー、でも佳奈お姉ちゃんの浴衣かわいいと思うよ」


「・・・・・・(コクコク)」


鈴葉や飛鳥がフォローしても一向に機嫌が治る気配が無い。

そうとうご立腹のようだ。

おかげで昼飯は超手抜きのそうめん。

手抜きの癖に量が多いから悪意しか感じない。


「・・・おい、恭平、何とかしろ」


小声で涼姉が俺に助けを求めてくる。

って、言ってもな。

俺に何をしろと言うのだろうか。

チラッと鈴葉のほうを見ると口パクで何かを伝えようとしていた。

えっと・・・なになに。


「・・・・・・(褒めごろせ)」


「・・・・・・(コクコク)」


鈴葉、何ていう事を俺に要求してくるんだ。

飛鳥もそれに乗っかろうとするな。

涼姉もこっち見てくるし。


「・・・チラッ」


佳奈姉も何かを期待するような目で俺を見るな。

これって・・・俺が何とかしなきゃダメなの。

もっと探せば皆が幸せになれる方法があるはずだよ。

それを探していこうよ、どんなに時間がかかってもその方が絶対に・・・。


「・・・(いいから早くしろ)」


「・・・(お兄ちゃん、ここは男を見せるときだよ)」


「・・・(コクコク)」


「・・・(お姉ちゃん、期待してるからね)」


4人から様々な思惑が見え隠れする視線を送られる。

逃げ場なんて俺にはなかったんや。


「か、佳奈姉の浴衣姿良かったと思うよ」


「ほ、本当ですか」


「う、うん」


こ・・・これでいいか。

ガン!!


「!?」


突如として俺の足、もっと具体的に言うと脛に強烈な痛みが生じた。

痛みを生み出したであろう人に非難の意味を込めて涙目の視線を送る。


「・・・(もっとだ、もっと褒めろ)」


痛みの元凶である涼姉はしれっとした顔でそうめんを食べながら視線を送ってきた。

人を殺せそうなくらい鋭い視線だ。

視線じゃなくて死線だ。

まだ、こんなところでくたばる訳にはいかないのでここは涼姉の命令に従うとしよう。

涼姉が恐かったわけじゃないからな、本当だぞ。


「ど、どうせだったらさっきよりもきっちり着込んだ佳奈姉の浴衣姿見てみたいな、きっと綺麗なんだろうな」


よくもまあ、こんな台詞がペラペラと言えたものだと自分でも引いてしまう。

これも何かとつけて佳奈姉が不機嫌な時にあの3人が俺を佳奈姉の生贄に差し出すからだ。

そんなところで無駄な経験値ばっかりが堪ってしまった。


「そ、そうですか。恭くんにそこまで言ってもらえるなんて・・・私、感激です」


そして、この経験値が役に立つところが不思議なところである。

佳奈姉限定だが・・・。


「「「・・・・・・(ふうー)」」」


そこ、何とかなったみたいなため息止めろ。

俺が一番その「ふうー」を言いたいんだから。


「それじゃあ、恭くんの期待を裏切らないようにちゃんと着こなして見せますからね」


「あ・・・ああ、楽しみにしてるよ」


ご機嫌になりすぎて恐いんだけどこれでいいのか?

俺の視線は誰からも相手にされずただ呆然と受け流された。



ひ・・・酷すぎる。

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