表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/64

7月22日~そうだ、海へ行こう⑤

「じゃあ、取り合えずバタ足からやってみるか」


やっと、海に入ることができたのでさっそく練習に移る。

飛鳥に聞いたところ顔を水につけることはできるらしいのでその次のステップ、基本中の基本、バタ足に挑戦しようというところだ。


「ほら、俺の手を掴め」


飛鳥が泳ぎやすいように飛鳥の手を握り、支えとなる。

これで多少は泳ぎやすくなっただろう。

俺の手を支えにして飛鳥はゆっくりとバタ足を始めていく。

バタ足はできている・・・いや、本当にできているのだろうか。

飛鳥のバタ足は水しぶきは立たず、水の中で足を上下に動かしているだけだ。

このままじゃあ、俺が手を離した瞬間に海に沈んでいくぞ。


「飛鳥、もっと強く足をバタバタさせるんだ」


「・・・・・・」


んー、まだまだだな。

さっきよりはマシになってけどまだバタ足と言うには程遠い。


「もっと、もっと強く。勢いを付けて」


パタパタパタ


もう少しでできそうだ。

あとは、勢いだけ・・・。


「飛鳥、思い切りバタ足だ!!」


バタバタバタバタ


「へっ・・・ぶほぉおおお」


ちょうど、飛鳥の真後ろにいた鈴葉に思い切り水が掛かった。

俺の立ち位置ですでに鈴葉の姿が見えない。

き・・・消えただと。

運動神経が良いだけじゃなく、超能力的なサムシングを使えたのか。

いやー、家の妹は凄いな。


「し・・・死ぬ、死んじゃう」


ガバッ、と俺の足元から急浮上してきたのは鈴葉だった。

さすがに超能力までは使えないらしく潜ってきたらしい。

ケホケホ言いながら俺の足に掴まっている。

ここ、そんなに深くないんだけどな。

・・・気にしたら負けか。

鈴葉のことは取り合えず置いておき飛鳥の泳ぎの特訓に再度、取り掛かる。

今度は鈴葉も真面目に、足がこうだとか、この時の手はこうだとか言うのを俺が必死になって解読しそれを飛鳥に伝える。

鈴葉も言っていることは理に適っているのでこれで教え方が上手ければ俺もこんなに苦労することはないんだけどな。

だけど、飛鳥がメキメキと上手くなっていく姿を見るのは教えた自分が報われていく感じがしてとても気持ちいいものだな。

将来、先生でも目指そうかな。

修也あたりに話したら笑われるだろうけど・・・。




「・・・・・・どう?」


で、できてる。

まだ、バタ足を始めてから1時間くらいしか経ってないのにもうクロールができるようになってる。

平泳ぎも形は良いからすぐに早く泳げるだろう。

このままじゃあ・・・俺、何年後かに鈴葉どころか飛鳥にも泳ぎで負けるんじゃないのだろうか。

妹達に負ける兄。

考えたくねぇ。

家庭的では最強の佳奈姉。

勉学では他を圧倒する涼姉。

運動神経ならずば抜けている鈴葉。

全てにおいてオールマイティな才能を持つ飛鳥。

そして、凡才の神に愛された男、恭平。

泣きそうだ。

修也以上に俺のこの立場に泣きたくなる。

何ぞこれは・・・。

血が繋がって無いから当たり前ちゃ当たり前なんだけど。

これはさすがに酷すぎる。

何か特技はあっただろうか。

・・・・・・姉妹に愛されること。


「ちょ・・・お兄ちゃん、何で泣いてるの!?」


「現状を省みた結果だ」


「・・・?」


鈴葉と飛鳥は俺が何を言っているのか分からないようだったがそんなことは今は関係ない。

飛鳥が泳げるようになった。

これが重要だ。

とにかくこれで取りあえずは落ち着いて海を満喫できる。

波にでも揺られてゆっくりしようか。

それとももう一泳ぎしておくか。

頭の中で思考に耽っていると右側から突然柔らかいものが当たる感覚を覚える。

これは・・・まさか。


「お兄ちゃん、飛鳥の用事が済んだんだったら今度は私と遊んでよ」


案の定、鈴葉が俺の右腕に抱きついていた。

鈴葉はここが公衆の面前だと分かってやっているのだろうか。

・・・分かってるだろうな。

こいつは強かだからな。

胸も少し意識する程度に止めて押し当ててくるし。

鈴葉の将来が本気で心配だ。

いや、俺の将来の方がもっと心配だ。

鈴葉が将来、手の付けられないほどのテクニックを身につけたなら・・・。

おお、寒気がした。


「・・・ダメ、まだ練習・・・見てもらう」


飛鳥も負けじと俺の足に抱きつく。

あれ・・・こんな光景前にも見たことがあるような。

・・・・・・悪い。

俺に対する流れが圧倒的に悪い。

こういった悪い流れはかなり広くまで伝染するんだよな、感覚的に分かる。

ニュータイプ並みに分かる。


「何をしているんだ、恭平」


浜辺の方、もっと正確に言うのであれば俺たちのレジャーシートから大きな、そして叫び声が聞こえてくる。

声が聞こえてきた方向を見ると、この世のものではないものを見たような顔をした涼姉の姿があった。

足は震え、目は光を失いつつある。

これは、何だろう・・・本能的に不味いような気がする。

そう感じた瞬間に涼姉は着ていたシャツを脱ぎ捨て、物凄いスピードで俺たちの元へやって来た。

こんな時でもクロールの形は超絶に綺麗ですね。


「恭平、公衆の面前で妹とイチャイチャするとはな・・・何事だ」


「これがイチャイチャしてるように・・・見えるか」


見えるよな、絶対に。

自分で言うのもなんだけどかなり浮いてると思う。

海だけにね。


「わ、私も恭平と色々したいぞ」


涼姉はそう言って目にも止まらぬ速さで俺の左腕を確保する。

俺は捕獲された宇宙人か何かですか。

右腕には鈴葉、左腕には涼姉、足には飛鳥、そう来るとやっぱり来ますよね・・・あの方が。


「楽しそうなことをしていますね・・・恭くん」


冷たい空気と共に現れたのはもちろん我が家の長女、奥村佳奈。

ビックボスの襲来だ。

いつどのタイミングで来たのか知らないが佳奈姉はいつの間にか俺の背後に立っていた。

マジで超能力でも使えるんじゃないのか。


「佳奈姉・・・お、遅かったね」


「恭くん、最近、私って空気じゃありませんか?」


「全然、むしろ一番キャラが濃いくらいだよ」


これで空気なら地球上にいる人類のほとんどが空気と化すだろう。

高スペックのくせに妙にメンタルが弱いんだよな。

それは涼姉か。

佳奈姉は、スペックと共にメンタルも最強だった。


「あら、まだ背中が空いてますね」


背中に柔らかな感触を受け思わず仰け反ってしまう。

これは反則ですよ。

だって核弾頭が2つ俺の背中に突きつけられてるわけですよ。

こんなことされたら男である俺は屈服せざるえないわけで・・・。


「姉さん、それは反則だろう」


「そうだよ、私達は腕で我慢してるんだよ」


「・・・・・・ずるい」


3者3様に文句を佳奈姉にぶつけていくが佳奈姉はケロッとした顔で


「ここしか空いてなかったんですから仕方がありません」


と言ってヒラリと交わした。

空いて無いって・・・元々どこも空いて無いよ。


「佳奈お姉ちゃん・・・覚悟」


ついに我慢の限界が来た鈴葉が佳奈姉に襲い掛かる。

運動神経なら奥村家一の鈴葉なら佳奈姉を実力行使で倒せるかもしれない。

佳奈姉はスッと俺の背中から離れ、直進してくる鈴葉に面と向かう。


「・・・フッ」


「あだああああ」


佳奈姉は鈴葉の最高速の突っ込む攻撃を柔道の一本投げの要領で投げ飛ばした。

もちろん、鈴葉は背中から海へと落下。

音的にめちゃくちゃ痛いタイプの落ち方をしたな。

鈴葉、お前って海に来てから酷い目に合いすぎだろう。

また、家に帰ったら慰めてやるか。


「姉さん、私は・・・その邪魔はしないから、平和に行こう・・・平和に」


「ダメです」


鈴葉をやったついでに次は涼姉に向かって佳奈姉の牙が剥く。


「・・・クッ」


佳奈姉の攻撃を紙一重でかわしていく涼姉。

しかし、攻撃には移れず防御だけで精一杯だ。


「足がお留守ですよ、涼ちゃん」


「うわああああ」


涼姉は水中で足を崩されそのまま海に沈んでいった。

飛鳥は鈴葉がやられた時だろうか。

俺の足から退散し今はレジャーシートに座りながらジーとこちらを見ている。

1人だけ安全地帯に、ずるいぞ。


「さあ、恭くん、邪魔者は居なくなりました。お姉ちゃんと一緒に楽しい遊びをしましょう」


「佳奈姉・・・何、その楽しい遊びって」


「それは・・・ふふふ」


だ、誰か助けて、お願い。

鈴葉、涼姉、飛鳥、誰でもいいから。


「ふふふふふふふふ」


「ああああああああああああ」





帰りの車中


「俺・・・汚されちゃった」


「ううう、私は、何もしないから・・・・・・許してくれ」


「か、体中が痛いんですが・・・」


「・・・クゥー、クゥー」


「楽しかったですね、来年も来ましょうね」


シクシクと泣く俺とうなされる涼姉と体中を押さえ口元をヒクヒクとさせる鈴葉と遊びつかれて眠り込んでいる飛鳥と何故か肌の艶が良い佳奈姉の姿がそこにはあった。



俺に何があったかなんて・・・聞くな。

これは墓まで持っていく。

そう心に決めたんだからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ