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7月22日~そうだ、海へ行こう③

海から戻ってくるとレジャーシートの上に佳奈姉かなねぇと鈴葉が折り重なるように打ち捨てられていた。

泳いでもいないくせに2人とも唇まで真っ青だ。


「2人とも大丈夫か?」


一応、生きてるか確認だけはする。

このまま返事が無ければ海へと帰そう。

きっとその方が地球にとっても俺にとっても優しい選択だろう。


「恭くん、た、助けて下さい」


瀕死状態だった佳奈姉が急に起き上がり俺に抱きついてきた。

ああ、そんなに抱きつくと豊満なお胸様が・・・。


「佳奈姉、お、落ち着いて、深呼吸だ」


既に落ち着いていない俺が言っても効果があるのか分からないが俺の言うことは素直に聞くことに定評のある佳奈姉には俺の状態なんて関係ない。

佳奈姉は俺の言ったとおりスーハースーハーと深呼吸を始めている。


「落ち着いたか?」


「ええ、何とか」


落ち着きを取り戻した佳奈姉を無理やり引き剥がし事の経緯を聞ことにした。


「恭くんが海に逃げた後、涼ちゃんに私は関節技を決められ、最後は投げ飛ばされるわ、鈴ちゃんは意識を取り戻した瞬間にもう1度夢の世界に旅立たされるわで大変だったんですからね」


プンスカと佳奈姉はお怒りのご様子だ。

確かに、逃げたことは謝るが元々といえば佳奈姉たちが変な事をしだしたのが原因じゃないのか。

口には出さないけどさ。


「・・・あれ、そう言えば涼姉りょうねぇと飛鳥はどこ行ったの?」


ここに居るのは俺と佳奈姉と今だ夢の世界をトリップ中の鈴葉だけだ。

こんな所に伸びてる女を置いていくなんて涼姉も度胸があるな。

2人に何かあったらどうするんだ。

いや、案外大丈夫なんじゃないのか。

・・・・・・大丈夫な気がしてきた。


「恭くん、今失礼な事考えてませんでした」


「か、考えてないよ」


若干棒読み気味になったが佳奈姉を誤魔化すことに成功した俺は鈴葉の顔をパチパチと叩いて夢のトリップから現実へと帰らせる。


「う~ん、あれ、お兄ちゃん、もしかして夜這い!?」


イラッ。

もう1度夢の世界へダイブしてもらおう。

きっと、全員許してくれるだろうし。

そんな俺の表情を読み取ったのか「冗談、冗談だよ」と言って佳奈姉の後ろに隠れてしまった。

鈴葉、お前気づいて無いかもしれないけど佳奈姉、一瞬だけどめっちゃ恐い顔したからな。

すぐにいつもの顔に戻ったけどさっきの顔は人に見せていいようなものではない。

R-18指定物だ。

色々と気をつけようよ・・・佳奈姉。




涼姉と飛鳥はトイレに行っていたらしくさほど時間も経たないうちに戻ってきた。

さて、全員揃った所で昼飯だ。

今日は家から弁当を作って持ってきてある。

おかずは佳奈姉、おにぎりは俺と飛鳥で作った。

涼姉と鈴葉はもちろん大人しく待ってもらっているのでこの弁当の安全は保障済みだ。


「おい、鈴葉、俺の皿から取るな」


「えー、だって私の座ってる位置からだとおかずが取り難いんだもん」


俺の紙皿から唐揚げを強奪した鈴葉はノータイムでそれを口の中へと入れてしまった。

取り難いって手を伸ばせば十分届く距離だろ。

仕方なくもう1度唐揚げとついでに卵焼きを紙皿に取り鈴葉の強襲に備えながら食べ進めていく。


「恭くん、お茶ここに置いておきますからね」


「ありがと、佳奈姉」


俺の横に座り水筒から冷たい麦茶を渡してくるその姿はまさに良妻賢母の鏡のようだ。

これがさっきまで俺に日焼け止めを塗れと強要してきた人物と同じだなんて思いたくは無いよ。


「姉さん、ちょっと恭平とくっ付きすぎじゃないか?」


「そうですか、これこそが姉と弟との正しい距離だと思うんですけど」


確かに、涼姉の言う通りちょっと近い気もする。

佳奈姉の右腕と俺の左腕が当たりそうなくらい近い。


「もっと恭平から離れてくれ、ただでさえ暑いのにもっと暑くなるだろう」


「大丈夫ですよ、私、体温低い方ですし」


涼姉の猛攻をヒラリヒラリと言葉で交わす佳奈姉。

佳奈姉と涼姉の言い争いは今に始まったことでは無いので俺たち3人は黙々と飯を食っている。


「大体、姉さんは場所を弁えず恭平とくっ付きすぎだ」


「鈴葉、肉ばっかじゃなくて野菜も食え、野菜も」


「じゃあ、今度からは場所を弁えて恭くんとイチャイチャしますね」


「分かってるって、後でちゃんと食べるから」


「姉さんは何も分かっていない。私は姉弟きょうだいの正しい距離を言っているんだ」


「飛鳥、届くか?何か食べたいのがあったら言えよ」


「涼ちゃんだって人のこと言えないじゃないですか」


「・・・・・・大丈夫」


「なっ、それはだな・・・」


これで食事が成立してるんだから不思議だよな。

まるで俺たちは佳奈姉達がいないように振舞うし、逆に佳奈姉たちは俺たちがいないように振舞う。

これが7年間の家族の証か。

いやだな・・・7年間の家族の証がスルースキルって。

空しすぎるよ。

涙が止まらないよ。





仲が良いのか悪いのか、分からない振る飯を食べ終えた俺はもう一泳ぎする前にトイレに行くことにした。

したのだが・・・。


「あっ・・・俺、トイレの場所知らないわ」


涼姉はどっか行ってしまったし、どうしようかな。


クイクイクイ


「・・・ん?飛鳥どうした」


飛鳥が俺のトランクスタイプの水着をグイグイと引っ張っている。

あの・・・あんま引っ張らないでくれますか。

公衆の面前なので。


「トイレ・・・知ってる」


そうか、飛鳥はさっき涼姉と一緒にトイレ行ってたんだっけ。

女子トイレの近くにきっと男子トイレもあるだろう。


「よし、じゃあ案内してくれ」


グシャグシャと飛鳥の髪の毛を撫でてやると嬉しそうに目を細めた。

こういう所はまだまだ子供だよな。

必要以上にすると飛鳥の髪の毛がとんでもない事になるのでほどほどにしといてトイレへと案内してもらう。


「飛鳥、逸れるといけないから手を繋ぐぞ」


「・・・・・・分かった」


飛鳥と手を繋ぎ歩いていくとダンダン人が多くなってきた。

俺たちが陣取ってる所は中心から少し外れた所にあるからな。

ここまで来たらゴミゴミして仕方が無い。

飛鳥と手を繋いでて正解だったな。

もし、繋いでなかったら逸れてたかもしれない。


「・・・あそこ」


飛鳥が指差す方を見ると海の家から少し離れた所に白い豆腐のような建物があった。

あれがトイレらしい。

女性トイレはかなり混んでいるが男性トイレはそれほどでもなさそうだ。


「飛鳥、すぐに戻ってくるからここで待っててくれ」


飛鳥をトイレの傍で待たせ急いでトイレを済ませる。

それほど混んでなかったがトイレを済ませるのに3分も掛かってしまった。

飛鳥はしっかり者だから大丈夫だとは思うがやはりちょっと心配だ。

ちゃんと待ってるだろうか。

飛鳥の待つ所へ戻ると俺の言うことを聞いて1歩も動かずに待っていた。

そこまで厳格に守る必要はないけどね。


「飛鳥、お待たせ」


「・・・うん」


また飛鳥と手を繋ぎなおし佳奈姉達の所に戻ろうとする飛鳥を引き止める。


「・・・・・・?」


「飛鳥、ソフトクリーム食べたくないか?」


海の家の方を見ながら飛鳥に尋ねるとフルフルと首を横に振った。

飛鳥はしっかり者過ぎるところがあるな。

俺のことを考えて遠慮してるのか。

少しは鈴葉に見習わしたいものだ。


「俺が食べたいから良いんだよ」


そう言いながら飛鳥と海の家へと歩いていく。

一応、トイレに来る前に財布を持ってきておいて正解だったな。


「いらっしゃい、何にしましょうか」


タンクトップを来た体格の良いスキンヘッドのおっちゃんが俺たちに100%スマイルを向けてくる。

笑顔と頭がが眩し過ぎるぜ。


「ソフトクリームを2つお願いします」


「おっ、兄ちゃん達兄妹かい?」


ソフトクリームを作りながらおっちゃんは話しかけてきた。

話しながらでも作れるのは熟練の技なのだろうか。


「分かりますか?」


「そちゃもちろん、男前の兄ちゃんに別嬪のお嬢ちゃんときちゃ間違いなく兄妹に違いねぇ」


そう言うとおっちゃんはカカカと笑いながら2個目のソフトクリームを作りに掛かる。

飛鳥は別嬪と言われて満更でも無い様子だ。

ってか、飛鳥、お前小学2年生で別嬪の意味が分かるのか。

すげえな。


「はいよ、お待ち、御代は優しい兄ちゃんに免じて500円でいいぜ」


おっ、ラッキーだな。

普通なら800円するところが500円になるのは俺としてはかなりお得だ。


「ありがとうございます」


「・・・・・・ありがと」


丁寧にお礼を言った後、店先にあった椅子に座りソフトクリームを食べ始める。

中々、濃厚なソフトクリームだな。

これなら400円の価値はあるだろう。

飛鳥も満足そうな顔だ。

あのおっちゃん・・・やるな。


「飛鳥、ちょっと顔こっち向けろ」


飛鳥がソフトクリームを食べるのを一旦止めこっちを向くと頬の辺りにクリームが付いていた。


「動くなよ・・・よし、取れた」


飛鳥の頬に付いたクリームを取ってやる顔を赤くして俺から顔を見られない角度でソフトクリームを食べ始める。

かわいいやつめ。




終始、さっきのおっちゃんがニヤニヤしながらこっちを見ていたのは何だったのだろうか。

俺、気になります。


30万PV達成しました。詳しくは活動報告で。

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