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7月22日~そうだ、海へ行こう②

 「飛鳥、お前日焼け止め誰かに塗ってもらったか?」


「・・・まだ」


「塗ってやるからこっち来い」


カバンの中から日焼け止めクリームを取り出しながら飛鳥が来るのを待つ。

飛鳥は肌が弱いので日に当たると直ぐに肌が赤くなり風呂に入る時に文字通り泣きを見るのを何回も見てきた。

それにこいつは俺以上に面倒くさがりだからな。

日焼け止めなんて自分では絶対塗らないし。

誰かが塗ってやら無いとダメだ。


「背中向けろ」


手に日焼け止めクリームを出し、飛鳥の背中に塗っていく。

冷たかったのか最初はビクッとし抵抗を見せたが後は何事も無く日焼け止めを終えた。

もちろん背中だけじゃなく足や手も隈なく日焼け止めクリームを塗った。

・・・よし、こんなもんだろ。


「11時か・・・昼飯の前にちょっと泳ぐか」


昼飯には少し早いので泳ぐことにした俺は羽織っていたシャツを脱ぎ、ビニールシートから立ち上がり手足を軽く動かし意気揚々と海へと向かおうとした時何かの気配を感じた。

ガシッ・・・。

あれ、動けない。

恐る恐る腕を見ると俺の手首を誰かが掴んでいる。

ホ・・・ホラーだ。

・・・なんて事は無く佳奈姉かなねぇが掴んでいた。

ってか、もう回復したのか。

鈴葉はまだバタンキューしてるのに・・・脅威の回復力だな。


「佳奈姉、まだ寝といたほうがいいと思うよ」


優しい口調で佳奈姉に言う。

この場合は単にこれ以上絡まれるのが嫌で言ってるだけなので深い意味は無い。

が、俺の言うことなんてお構いなしに佳奈姉は手を離そうとしない。


「あの・・・佳奈姉」


「恭くん、大事なお話があります」


うっ、この佳奈姉の顔は本気の顔だ。

どっちだ、どっちの本気だ。

頼む、真面目な方、真面目な方で。


「私にも日焼け止め塗ってください」


そっちの方か!!

真面目に何かを怒られる方がまだ気が楽だわ。

ああ、もう佳奈姉寝転がってるし。

無駄に準備万端だな。


「佳奈姉、ここ来る前に塗ってたよね」


「それは・・・」


佳奈姉が俺から目線を外す。

2回も塗る必要はないよな。

日焼け止めクリームを置き海へと走り出そうとする俺の足首を佳奈姉が異常な瞬発力で掴んできた。

もちろん俺は急に掴まれたもんだから勢い余って浜辺に顔からダイブする。

全身砂まみれだ。


「恭くんに塗ってもらった方が効果が期待できます」


誰が塗っても同じだろ。

人によって効果が違うなんて恐すぎるわ。


「何と、当社比で3倍の効果が」


「当社比3倍って何だよ」


どことどこを比べてるんだ。

そもそも当社って時点でおかしい。

今日も佳奈姉のエンジンがえげつない事になってるな。

よし、ここは・・・。


「分かった、分かったから、今から塗るから寝転んで」


「は、はい、お願いします」


仄かに顔を赤くした佳奈姉は素直にビニールシートに寝転がってくれた。

よし、今だ。

佳奈姉が寝転がった瞬間に海へと駆け出す。

このタイミングなら流石の佳奈姉でも対処できまい。

これで、俺の勝ちはきま・・・。


「そうは、させるかあああ!!」


「うげぇ」


背中に衝撃的な衝撃を受ける。

まるでアメリカンフットボールの選手にタックルされたようだ。

そして、2度目の浜辺へダイブ。

熱いいいいいいい。

肌が、肌が直接的な意味で焼ける。


「話は聞かせてもらった、私にも日焼け止め塗ってよ」


さっきまで佳奈姉の隣で伸びてた鈴葉がいつの間にか復活してやがる。

うちの家系は回復が早いっていう特殊能力でもあるのか。


「鈴葉、お前も家出る前に塗っただろ」


「お兄ちゃんに塗ってもらった方が当社比の・・・」


「お前もか!?」


さっきから聞くその当社比って何だよ。

知らないの俺だけか。

俺が変なのか・・・混乱してきたぜ。


「とにかく、俺は鈴葉に日焼け止めは塗らないし、佳奈姉にも塗らない」


「ええー!?私もですか」


「当たり前だろ」


何で佳奈姉は塗ってもらえると思ってたんだよ。

さっきのやり取りの中にそんなシーンはなかったぞ。


「飛鳥には塗ってたのに・・・家庭内格差だ!!、私は断固として抗議する」


「だってな・・・」


飛鳥は姉妹の中で唯一俺と血が繋がってるわけだし、まだ小学生だし、日焼け止めも塗ってきてなかったし。

こんなことを言っても今の鈴葉には何も聞こえないだろうから言わないけどさ。

まさか飛鳥に日焼け止めを塗っただけでこんなことになろうとは・・・。

誰が予想できるだろうか。

いや、以外にできるかもしれない。

もちろん、俺以外だけどな。


「姉さん、そんなに塗って欲しいのか?」


「当たり前です!!」


涼姉もやれやれといった感じでやって来た。

こう見ると一番年上が涼姉に見えてくるな。


「恭平、それを貸せ」


「それってこれ?」


俺の手元にあった物を取り涼姉に聞くと「ああ、それだ」と言って俺の手からそれを取った。

俺が涼姉に渡した物・・・それは。


「姉さん、鈴葉、そんなに日焼け止めが塗って欲しいのなら私が塗ってやろう、飛鳥手伝ってくれ」


さっきまで俺が飛鳥に塗っていた日焼け止めだった。

涼姉の言葉にコクコクと無言で頷き2人との距離を詰めていく。

これにはさすがの2人も焦ったようで咄嗟に逃げようと立ち上がった。

「ちょ、私はお兄ちゃんに・・・」


「涼ちゃん、落ち着いて、おち・・・」


まず、鈴葉が涼姉の大外狩りを綺麗に決められまた伸びてしまった。

そして、佳奈姉が怯んだ一瞬の隙を見逃さず関節技を掛けに行く。

これにはさすがの佳奈姉もお手上げらしく動けずにいる。

これはチャンスなんじゃないのか。


「さあ、恭平、今のうちに」


今のうちに逃げろって言いたいんだな。

言われなくても俺は逃げるぜ。


「私の背中に日焼け止めを塗るんだ!!」


「・・・・・・」


涼姉、あなたも心の根っこはそっち側なんですね。

クルリと涼姉に背中を向け海へと走り出す。


「恭平、どこにいくんだ」


「うわああああ、聞こえない、聞こえないぞーーーー」




叫びながら海へと俺は消えていった。

父さん、母さん、家の姉妹は私利私欲塗れです。

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