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6月22日~涼姉とデート③

自分の文章を書く才能の無さにorz

 1時半、遅めの昼食を済ませハイアールパーク午後の陣がまもなく始まろうとしていた。

午前の陣もなかなか心身共に来るものがあったのだが午後からは午前を上回るであろう心身の疲れが予想される。

それは圧倒的に午後の方が所謂絶叫系のアトラクションが多いことに限るだろう。

午前中は2個だけだったが午後はその倍の4個に乗ろうとしているのだ。

しかも、その内の1つはあのアルティメットスクリューなのだ。

けれど、この涼姉りょうねぇが考えた予定によるとアルティメットスクリューは最後に乗るみたいだ。

最後なら失神しようが気絶しようが引きずってでも帰ることができるのでその点に置いては心配しなくていいだろう。

いざとなれば佳奈姉かなねぇに頼んでここまで迎えに来てもらうのも1つの手だ。

あと約5時間、俺の戦いは続くのかと思うと胃のあたりがキリキリと痛む。

きっと幻痛だ。

切実にそう思いたいよ・・・俺は。



俺の心配はどうやら杞憂に終わったらしい。

午前のうちに涼姉は絶叫系のアトラクションにある程度の耐性が付いてきたらしく俺の右手を握りつぶそうとすることを止めていた。

けれど、やはりまだ恐いのか袖の端を握りながら小さな声で、「ヒィイイイイ」と聞こえてくるが俺に直接的なダメージがあるわけではないので容認しておく。

いや、寧ろいつもの涼姉とのギャップにドキッとさせられてしまう。

いつもなら


『私に付いて来い、恭平』


『やだ・・・かっこいい・・・』


となるくらい男勝りな涼姉だ。

めったにこんな姿見れないだろう。

写真に収めることはできないので目に焼き付けておくとしよう。

これが最初で最後かもしれないからな。




「次はここに行くぞ、恭平」


再びノックダウンから回復した涼姉が向かった先にあったのはお化け屋敷だった。

古びた館風の建物がこの明るく楽しげな音楽が流れている遊園地という空間から明らかに離別している。

窓は割れ、建物の壁には蔦が伸び放題になっていて人が手入れしていないことが分かる。

もちろん、これは演出上のためのデザインなのだが分かってはいてもやはり不気味さを感じずにはいられなかった。


「確かここって結構恐いって話じゃなかったっけ?」


「ああ、コースの途中でリタイヤする者もいるくらい恐い」


「・・・・・・」


どうしても先の絶叫系のアトラクションの結果から踏まえて一抹の不安を感じてしまう。

これはジェットコースターやフリーフォールなどとは違ったベクトルの絶叫系だ。

いくら耐性が付いてきたからといってもまだ絶叫系が苦手な涼姉にとってこのお化け屋敷はハードルが高いと思う。


「本当に行くの?」


「ああ、行く。心配は要らないぞ、もう慣れてきたからな」


大丈夫かなと思いながらも涼姉に逆らうことができない俺はしぶしぶ涼姉の後を追って館の中に入っていった。





中は薄暗く足元だけがなんとか見える状態になっていた。

天井や壁には蜘蛛の巣が張り巡らされており不気味なことこの上ない。

しかし、このまま入り口付近にいるわけにはいかないのでとりあえず前に進まないと。

・・・・・・。


「・・・涼姉、何やってるの?」


涼姉の気配がしないので後ろを振り返ると涼姉はまだ入り口付近におり何故かしゃがみこんでいた。

おかしいなと思いながら涼姉に駆け寄り「大丈夫?」と聞いてみる。


「あ・・・当たり前だろっ。ただ・・・その靴紐を結びなおしてたんだ」


「ふーん」


涼姉は靴紐を結びなおそうとしているが手が異常なまでに震えている。

・・・やっぱり無理だろうか。

俺のそんな雰囲気を感じ取ったのか涼姉が立ち上がりガシッと俺の腕を掴んできた。


「さあ、準備は整った。行くぞーーー」


涼姉・・・・・・声が上ずって震えてるよ。

まだ入り口付近なのに。






恐ろしく長くなるので結果だけ教えよう。

何とかリタイヤだけは避け俺達はゴールをした。

ゴールしたと言っても途中から涼姉がダウンし俺が肩を貸しながらの進行だったので完全クリアとは言い難いだろう。

いや、言えないだろう。

取りあえずまたと言うかやっぱりと言うか涼姉の体力の回復をベンチに座って待つことにした。

今回は派手にやられたらしく隣で「う~ん」と唸り声しか聞こえてこない。

これは重症だ。


「何か飲み物買ってくるからここで待ってて」


そう言うと涼姉は首だけを縦に動かしそのまま力尽きた。

5分くらい歩き自販機を見つけ水を購入し早足で涼姉の元に帰る。

少し回復してると良いんだけど・・・。

そう思いながら涼姉の座っているベンチを見つけ近づこうとすると涼姉の周りに3人の男の姿があった。

身なりから察するに大学生くらいだろうか。

1人はベンチに座りもう2人で涼姉を囲むように立っている。

今さらだけど涼姉はモテる。

今日はジーパンにTシャツ、短めのジャケットとボーイッシュな感じの服装をしているがそれが逆に体の線をはっきりを浮き彫りにしている。

スラリと長い足、細いウエスト、こんな女子が1人でいたら男なら声を掛けずにはいられないだろう。

つまり、涼姉がナンパにあっていた。

いつもならキツイ口調と態度で一蹴するのだか今はさっきのダメージが残っているらしく追い返すこともできてない。

それをいい事に男たちは涼姉の手を掴み少し強引に連れて行こうとする。

さすがにこればっかりは見過ごせるわけも無く急いで涼姉の元に駆け寄った。


「ん、誰だお前、今良いところなんだから邪魔すんな」


周りに立っていた1人に止められてしまう。

まあ、どう見ても俺じゃ涼姉に不釣合いだから分かるけどさ。

正直・・・凹む。


「いや・・・その、その人俺の連れなんですけど」


そう言うとベンチに座っていたリーダーと思しき男が盛大に笑い出した。


「お前がこいつの連れだと・・・冗談言うなよ、は、腹痛え」


「冗談って・・・事実なんだけどな」


「ああ、今何って言った」


聞こえないように呟いたつもりがどうやら聞こえてしまったらしい。

突然笑うのを止め立ち上がり俺の胸倉を掴みかかってくる。

さすがにこれには取り巻きの2人も予想外だったらしく慌ててその男を宥めにかかった。


「ジョウさん、さすがにここで暴力沙汰はヤバイっすよ」


「うっせー、このガキに一発入れてやらねえと気が済まねえんだよ」


「ですけど・・・」


「お前俺に逆らうのか、ああん?」


「いえ、そんなつもりは・・・」


リーダーの矛先が自分に向けられそうになるのを恐れ取り巻き2人はただ見てるだけになってしまった。

それに満足したリーダーが遂に俺に向かって拳を振り上げ殴りに掛かってきた。

いつもならここで俺はそのまま殴られていただろう。

しかし、今は俺が倒されると涼姉が連れて行かれてしまう。

俺は勇気を振り絞り顔を引くのではなく相手に向かって突き出した。

相手の拳が俺に当たる前に俺の強烈な頭突きが炸裂した。

うわあーーー、目がクラクラする。

頭もグワングワンして超痛い。

しかし、これには相手も堪らず俺の胸元から手を離し尻餅をついてしまった。

その隙を逃さず涼姉の腕を掴み走り出した。

取り巻きの2人はどうすればいいか分からずその場に立っているだけなので逃げるのは簡単だった。

しかし、この後見つかる可能性は十分にある。

どこかに身を潜められるような場所はないのか。

そんな時、グットタイミングで目の前に観覧車乗り場を発見した。

急いで観覧車に駆け込み椅子に涼姉を座らせると対面の椅子に座り一息つく。

これであいつらは俺達を見失うだろう。

けど・・・これに乗ったらもうアルティメットスクリューに乗るのは無理かもしれない。

数あるアトラクションの中で最も人気のあるものだ。

列も長蛇のものとなっているだろう。

太陽はもう沈みかけてきている。

涼姉・・・残念だろうな。

あれだけ楽しそうにしてたのに俺が離れたせいで・・・。

自己嫌悪に陥りながら夕焼けと見ていると観覧車が3分の1程度進んだ所で涼姉が目を開けた。

何て言えばいいんだろう。

謝るべきだろうか。

それともこのまま黙ってる方が良いんだろうか。

俺が決めかねている間にも観覧車は動き続け頂上まで来てしまった。

涼姉も俺と同じように窓の外の夕焼けを見つめていたが不意にポツリと言葉を漏らした。


「恭平、格好よかったぞ」


「えっ・・・」


涼姉は依然として外を見続けているが耳が真っ赤になっていた。

それは夕日のせいなのか恥ずかしさの表れなのか俺には分からない。

けれど、涼姉がそう思ってくれていたんだったら嬉しいと素直に思った。


「アルティメットスクリュー・・・乗れなかったね」


「・・・そうだな」


俺の言葉に涼姉は寂しそうとも悲しそうとも映る表情を浮かべる。

楽しみだったんだから仕方ないよな。

けど、これだけは言わないとな。


「また・・・来よう」


「!!」


涼姉が驚き俺の方をジッと見てくる。

まるで信じられないと言った風だ。


「ほ、本当か?」


涼姉の言葉にただ黙って首を縦に振る。


「だって、私と来ても大変だっただろ。だから、もう・・・私と来たくないと思ってた」


最後に行くにつれどんどん声が小さくなっていくのを苦笑しながら聞く。

確かに、涼姉を介抱するのは大変だったけどそれ以上に楽しかったからな。

チャラってことにしとくよ。


「また・・・一緒に遊びに」


「ああ、また遊びに来よう、涼姉」


涼姉の今日1番の笑顔が夕日に当たって輝いて見える。

実際輝いているのかもしれないと思わせるほどに・・・。

思わず姉と知っていてもドキッとしてしまう。

それくらい惹かれる笑顔だった。


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