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6月22日~涼姉とデート①

 「恭平、起きて仕度を始めろ、もう少しで家を出るぞ」


「・・・涼姉りょうねぇ?」


ゆさゆさと布団を揺らされ目を開けると目の前に涼姉が立っているのがぼんやりとだが分かった。

太陽はまだ出ていないらしく部屋の中は真っ暗だ。

どうやら日の出より前に起こされたらしい。

今何時なんだよ。

手元の時計に手を伸ばし目を擦りながら時間を見る。

5時2分。

あれ、おかしいな。

5時って何だよ。

この時計1時間くらい早いんじゃねぇの。

電波時計だからありえない話だけど・・・。


「仕度しろって・・・まだ5時なんだけど」


「早く行った方が多く乗れるだろ」


アトラクションには多く乗れるかもしれないがこんな時間じゃ電車に乗れない。

始発もまだ出てないだろ。

それに早く着いても向こうが開かないと意味がない。


「7時で十分間に合うよ」


「ダメだ、早く行かないと」


この姉は開園時間が何時からか知っているのだろうか。

試しに聞いてみよう。


「涼姉、何時から中に入れるか知ってる?」


「もちろんだ」


何だ、知ってるのかよ。

心配してそんし・・・。


「6時だろ」


「違うと思う、いや、絶対違うよね」


6時開園の遊園地なんて聞いたことないよ。

ガッツありすぎだろ。


「じゃあ、何時からなんだ」


「8時とか9時とかだろ」


「今のうちから行けば1番に入れるぞ」


別に1番に入りたいわけじゃないよ。

どこかの行列のできる店に行くんじゃないんだから朝早くから並んでもその努力は皆無だ。

こんな朝早くから遊園地前で待ってるなんて何かの罰ゲームじゃないか。

従業員もびっくりだよ。


「とにかく、俺は7時なったら起きるしあと2時間寝さしてくれ」


布団を頭から被り起きません宣言をする。

涼姉も諦めたらしく俺の布団の中に入ってくる。

・・・・・・入ってくる?


「何してるの、涼姉」


「時間まで私も寝ようかと・・・」


「俺の布団で寝ようとするな」


「何っ!?」


そこまで驚くことかよ。

当たり前のことを言ってるだけだ。


「ここまで来て自分の布団で寝ろだと、ふざけるのもいい加減にしろ」


こっちの台詞だ。

ここまで来たら俺の布団で寝るって考え方がどうかしてるんだよ。


「飛鳥とは寝てたじゃないか」


「いまさらその話持ってくるの!?」


4月頭の話じゃないか。

もう時効だろ。


「私は忘れないからな。具体的には私も恭平と添い寝をするまで忘れない」


思ったよりも軽い。

涼姉の判断基準甘すぎるだろ。

ただの焼餅じゃないか。

涼姉はそんな会話をしている最中でも無理やり布団の中に入って来ようとする。

絶対死守だ。

ここは死んでも入らせん。

俺の俺による俺だけの楽園エデンには何人たりともはいら・・・。


「(布団を)取ったどーーーー」


「布団があああああ」


俺の楽園は脆く砕け散った。






あんな騒いでたら寝るどころか目が覚めてしまった。

どうして俺は窓から日の出を見なくちゃいけないのだろうか。

清清しいはずなのに俺を襲ってくるのは疲れとだるさだけだった。

こんな調子で今日1日乗り切れるのだろうか。

前途多難にもほどがある。

眠気覚ましにシャワーでも浴びようかな。


「・・・・・・何か、嫌な予感がする」


明確な根拠はないが俺の勘はよく当たることがある。

特に家族絡みの時ほどその的中率は目を見張るものがある。

ここは俺の長年の勘を信じてシャワーは浴びないでおこう。

しかし、この僅かな眠気をどうにかして取りたいものだ。


「コーヒーでも飲むか」


台所に行くと頭から湯気を放ちながらソファでくつろぐ涼姉の姿が見えた。

どうやら風呂に入ってたらしい。

セーフ、セーフ。

あの時に行ってたら洗面所でバッタリ出くわす所だったぜ。

これ以上騒ぎを大きくしたくないからな。

行かなくてよかった。


「涼姉、コーヒー作るけどいる?」


「あぁ、頼む」


お湯を沸かしている間に食器棚からコップを2つ出しコーヒーと砂糖を入れる。

ここに俺は少しミルクを入れるのが基本だが今はすっきりしたい気分なのでミルクは入れないでおこう。

お湯が沸いたのを確認しコップに注ぐと湯気と共にコーヒー独特の匂いがしてくる。

この匂いを嗅ぐだけで眠気が吹き飛ぶ気がするよね。


「ほい、涼姉、熱いから気をつけて」


「ありがとう、恭平」


コーヒーを涼姉に渡し隣に座る。

ズズズズズズズズズズズ・・・プハァ。

たまにはこんなゆったりした朝もいいな。

何て言うかこう・・・心が豊かになる気がするよね。

心が豊かになるって今一どういうことを言うのか分からないけどさ。

ただ一つ気になることがあるとすれば隣にいる涼姉が風呂上りだということだ。

コーヒーの匂いと混じってシャンプーの香りが涼姉のほうから香ってくる。

家族だと思っててもやっぱ気にしちゃうよね。

だって男の子だもん。

この嗅ぎ慣れたシャンプーの香りに俺の心は癒される。

・・・嗅ぎ慣れた?


「涼姉・・・」


「何だ、恭平」


「何で俺のシャンプー使ってるの」


「そういう気分だったからだ」


「だったら仕方ないよね」


「そうだな」


「フフフ」


「アハハハ」


「で、誤魔化しきれると思ってるのか!?」


「えっ、ここはこのまま終わるんじゃ」


「そんな落ちあるかああああ」


何で平然と弟のシャンプーを使ってるんだよ。

通りで鼻がスーってすると思ったよ。


「代わりに恭平も私の使って良いぞ」


「使えるか」


「私のじゃ不服と言うのか」


「違うううううう」


男の俺が花の香りのするシャンプー使ったら俺からフローラルとかジャスミンとかそんな匂いがするだろうが。


「私は一向に構わん」


「俺が構うわ」


「花の匂いがする恭平・・・ありだな」


「無しの1択だろ」





ハードボイルドすぎるよ、涼姉。

どこまでも男らしい姉だった。

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