6月13日~奥村家の騒がしい夜
花粉の爆発、恐いです。持病で慢性的な鼻炎を抱えているので相まって息ができません。2番目に嫌いな季節・・・春の到来は近い。
分からん。
この問題の解き方がまったくが分からん。
もうすぐ期末テストがあるのでテスト勉強をしようと数学の問題集を机に広げたのはいいが3問終わったところで俺の手が止まってしまった。
いつもなら答えを見て納得し次の問題に行くのだがこの問題に限っては答えを見てもいまいち良く理解できない。
X=4でこっちをこれに代入して・・・・・・あれ?
「分からん、絶望的に分からん」
どっちかと言うと俺は文系なので理系の問題全般が苦手なのだ。
理系は涼姉が得意なんだけどな。
涼姉は今は学校だし帰ってくるまであと1時間くらいあるな。
後で涼姉にこの問題を教えてもらうことにして今は次に進んどくか。
数学の問題集を閉じ日本史の教科書を開き暗記を始める。
1575年、長篠の戦いっと・・・。
「涼姉、後で俺の部屋に来て欲しいんだけど」
夕飯の時に涼姉に向かって話し出した。
「恭くん、涼ちゃんと2人切りで何をするつもりですか」
いきなり佳奈姉が食い気味に俺に問いただしてきた。
何って・・・勉強だけど。
「佳奈お姉ちゃんの言う通りだよ、2人には早いよ」
何が早いんだよ。
期末テストの勉強をするのが早いってことか。
「・・・・・・不潔」
意味が分からない。
2人で勉強することが不潔に繋がることが理解できない。
飛鳥の中では2人で勉強することは不潔なのか。
「恭平」
おぉ、ついに我慢の限界と涼姉が助け舟を出してくれた。
涼姉、ビシッと一言言ってくれ。
「は・・・初めてだから、や、優しくしてくれ」
「ストーーーーーーーップ」
話がかみ合わない。
主に俺とこの4人の話が。
勉強の話だよな。
ここは一回確認を取っといた方が良さそうだ。
「一応言っとくけど涼姉と部屋でやることは勉強だからな」
「「「・・・はぁ?」」」
「いや、だから、数学で分からないところがあったから涼姉に教えて欲しいんだ」
「「「・・・・・・」」」
この沈黙何だよ。
飛鳥だけもくもくと飯を食べてるが他の3人は箸を持ったまま動かないぞ。
まるで電池の切れたおもちゃのようだ。
「・・・そうですよね、はぁ心配して損しました」
長い沈黙を破ったのは佳奈姉だった。
何故か安堵の表情をしている。
俺が今から勉強すればテストでも良い点が取れるから安心ということだろうか。
「だよね、お兄ちゃんとお姉ちゃんに限ってそれはないよね」
ないって何が無いんだ。
後で鈴葉にじっくりと聞きたい気分だ。
「・・・期待させて、いや、でも夜は2人だし」
涼姉はブツブツと何かを言っている。
詳しくは聞こえなかったが俺には関係の無いことだろう。
・・・関係のないことだと思いたい。
「ここにこれを代入するからこうなるんだ」
「なるほどな」
涼姉の説明は学校の先生より分かりやすい。
詳しい答えを見てもよく分からなかったのに涼姉に教えてもらうと手に取るように分かる。
さっきまで全然分からなかった問題がスラッと解けるので苦にならない。
寧ろ問題を解くのが楽しいとまで思ってきた。
ただ1つだけ言いたいことがある。
涼姉・・・顔が近いです。
涼姉の顔が俺の顔のすぐ横にあり息遣いが聞こえるくらいに近い。
本人は気にしていないようだがこちらとしてはあまり顔は近づけないで欲しい。
集中できないからな。
「恭平、そこの式の計算が間違ってるぞ」
「えっ・・・あっ」
ほらな。
単純な計算間違いをしてしまう。
もうそろそろ集中力の限界か。
「涼姉、1回休憩にしよう」
「そうだな、まだ病み上がりなんだから根をつめてする必要もない」
問題集を閉じ背伸びをすると背中からコキコキといい音が鳴った。
ふぅ、疲れた。
「恭平、前から聞きたかったことが1つあるんだ」
改まってどうしたんだろうか。
別に聞きたいことくらいいつでも聞いてくれればいいのに。
「聞きたいことって、俺に答えられるんだったら答えるよ」
俺がそう言うと涼姉は意を決したように俺の方に向き直り口を開いた。
「お前の好きな女性のタイプだ」
「はっ?」
えっ、ちょっと聞き間違えたかもしれない。
今、涼姉は俺に好きな女性のタイプを聞いてきたのか。
・・・どうしよう。
何か、めっちゃ期待の目で見られてるんですけど・・・。
「私としては凛としていてスラッとした弟思いの女性がいいと思うんだ。どうだろう?」
どうだろうと言われても・・・。
ここで「いいと思う」と言ってしまったら取り返しのつかないことになりそうな気がする。
けど、「別にタイプじゃない」と言ったらそれはそれで大変なことになりそうだ。
どっちの選択肢もDEAD ENDフラグが立ちまくっている。
選べない、他に選択肢は無いのか。
「優しくて包容力溢れる弟思いの女性なんか恭くんにぴったりだと私は思います。」
突然部屋の天井の一部が落ちてきたかと思うとそのスキマから佳奈姉が顔を出してきた。
髪がダラリと垂れ下がっていてちょっとしたホラーになってるが本人は気にしてないみたいなのでこっちも気にしないで置こう。
「っていうか佳奈姉はどっから入ってきてんだよ」
「どこって天井裏ですよ」
「天井裏から入ってくるのが当たり前みたいに言うな」
俺の言うことはお構いなしに佳奈姉は天井裏から降りてきて見事ベットに着地する。
天井裏にいた割りには汚れていないな。
推測だが佳奈姉は天井裏を定期的にもしくは日常的に使っているのだろう。
だから天井裏の汚れが少ないということになる。
結論にたどり着いたところでさらにブルーな気持ちになった。
何で屋根裏なんかに行く必要があるのだろうか。
これ以上考えてもプラスになる要素がありそうに無かったので俺は考えるのを止めた。
「姉さん、今は勉強中だ」
「休憩中ですよね、だったら私も会話に入らせてくださいよ。私も恭くんの女性のタイプが気になります」
「佳奈姉まで・・・」
混沌とした空間にさらに混沌とした人まで入ってきてしまった。
あのポッカリと空いた天井からこのカオスが流れ出してくれればいいのだが家の屋根裏にそんな都合のいい機能はもちろん付いていない。
つまり俺が何とかしないといけないわけである。
「恭平、もちろんお前は凛としていてスラッとした弟思いの女性の方が好みだろう?」
「いいえ、恭くんは優しくて包容力溢れる弟思いの女性のほうが好みに決まっています」
何その2択。
どっちも思い当たる節があって選べないんだけど。
取りあえずこの場を落ち着かせるのが先決だ。
2人とも変な熱を帯びていることだけは確かだからな。
「ちょっと2人とも・・・」
「お姉ちゃん達、ちょっと待ったーーーーーー」
「うおおおおおお」
ベットの下から声が下かと思うとすごい勢いで鈴葉が飛び出してきた。
鈴葉、お前もか。
屋根裏はともかくベット下って・・・どこから出てきたんだよ。
「鈴葉、お前どっからベットの下に入ったんだ」
「私の部屋から」
「えっ・・・」
「壁を改造してお兄ちゃんの部屋に通じるように」
「お前は何をやってるんだあああああ」
鈴葉は家を勝手に改造していた。
そんなの普通は業者じゃないとできないだろ。
「むむむ、鈴葉ちゃんも中々やりますね」
佳奈姉、そこは怒るところだよ。
何で感心してるのさ。
「そんなことよりお兄ちゃん」
家を改造したことをそんなことで済ませようとする鈴葉の度胸の大きさに驚く。
俺にとっては一大事なんだが。
「お兄ちゃんは元気で可愛いお兄ちゃん思いの女の子が好きなんだよね~」
ね~と言われても身に覚えが無いのでどう反応していいか分からない。
これどうすれば正解なんだよ。
さっきまで悩んでた数学の問題なんてこの問題に比べれば簡単なもんだったぞ。
これこそ正解が分からない。
「さあ、恭平、どれを選ぶんだ」
どれと言われても・・・。
「当然・・・分かってますよね」
プレッシャーをかけるのは止めてください。
「私はお兄ちゃんを信じてるからね」
俺の何を信じてるんだ。
3人の視線が俺に集まる中、俺の部屋のドアがゆっくりと開いた。
見ると開けたのは飛鳥だった。
「どうした、飛鳥?」
俺は飛鳥に話を振ってそこから話を無かったことにする作戦に出た。
卑怯だと思うならそれでもいいだろう。
だが、俺の身の安全を考えるならこのやり方がベストだ。
飛鳥に近づき膝を落とし目線を飛鳥と同じくらいに合わせる。
すると飛鳥は何を思ったか俺の首に腕を回し佳奈姉たちに向かって一言。
「・・・私のことが、一番好き」
「「「・・・・・・」」」
一瞬の静寂。
例えるなら津波が来る前の海の静けさににたものだった。
そしてその静けさは津波の到来で一気に壊される。
「違いますよね、私ですよね、私のことが一番好きですよね」
「恭平、私だろう、そうだろ、そうだと言ってくれ」
「お兄ちゃん、私が一番可愛いよね、そうだよね」
もはや、包み隠さず私と言い始めたぞこの3人。
飛鳥も油を注ぐなよ。
この状況を俺にどうしろと。
誰でもいいから俺を助けて下さい。
それから2時間後何とか騒ぎを収めることができたが心身共に限界だ。
最後は伝家の宝刀、皆大好きだからを使って事なきを得た。
今日は勉強どころじゃなかったな。
明日から頑張ろう。
決してこれは明日もどうせ勉強をしないフラグではないと祈りたい。
蒼逢 葵さん活動報告のコメントありがとうございます。こんな質問に丁寧に答えてくださって感謝の極みです。




