6月9日~家族なんだ
シリアス展開にしたことを激しく後悔
「恭平、帰るぞ」
雨音に消されることの無い凛とした声が心の中に響いた。
俺は自分勝手な行動で迷惑をかけた。
病院の人にも涼姉にも。
けど俺は引けない。
ただの自己満足と言われてもいい。
ここで引いたらまたいつものままだ。
「帰れないよ、もう帰らない」
「何を言ってるんだ恭平、ほらこんなに体が冷たく・・・」
「触るな!!」
俺の体に触ろうとした涼姉の手を払いのける。
「恭平・・・」
これで涼姉が傷ついたとしても俺の呪縛から解き放たれればそれでいい。
それでいいのに・・・。
「恭平、無理をするな」
「無理なんてしてない。俺のことはほっといてくれ」
涼姉に背を向け走り出そうとした時長時間すっていたせいか立ちくらみがしてその場に倒れこんでしまった。
すぐさま「恭平大丈夫か」と涼姉が駆け寄ってくる。
「来るな!!」
涼姉は俺の言葉にビクッと反応してその場に止まった。
ゆっくりと立ち上がりフラフラとした足取りで涼姉から距離を取っていく。
「恭平、私が何かしたから怒ってるのか。だから病院を抜け出したのか」
涼姉が今にも泣き出しそうな顔で俺に問いかけてくる。
クソッ、こんなはずじゃ。
涼姉にこんな顔をさせるために俺はこんなことをするつもりじゃなかったのに。
「答えてくれ恭平」
「だ、黙れ。俺は涼姉のことが大嫌いなんだ。だからやったんだよ」
「恭平、お前は知らないかもしれないが・・・お前は嘘をつくときに右の眉が上がる癖がある」
「なっ・・・」
慌てて右の眉を手で触ってしまった。
その後に気づいた。
やられたと。
これは涼姉のフェイク、つまり嘘だ。
嘘をついて俺の反応を見たんだ。
そして俺がまんまと罠にかかった。
「恭平、私に何を隠してる」
「何も隠してなんか」
「恭平!!」
「俺は・・・俺は」
その時心の奥から言葉が滲み出てきた。
それは徐々に量を増し濁流となって俺の口に押し寄せてくる。
もう止めることはできなかった。
「俺は涼姉に守られるのはもう嫌なんだ」
止めろ、それ以上言うな。
心で何度も言い聞かせようとするが止めることはできない。
坂道でボールを転がせると自然と転がるように川に落ちた葉が水に乗って流れていくように俺の心の言葉が口から溢れ出してくる。
「いつも涼姉に守られて俺が傷ついたら涼姉まで苦しめて俺は涼姉を苦しませたくないのに・・・それなのに俺はいつもいつも迷惑かけて・・・俺なんていなければよかったんだ」
パァン
「えっ・・・」
右の頬に痛みを感じた。
何が・・・。
「涼姉・・・」
いつの間にか俺の近くにいた涼姉に叩かれた。
涼姉は雨で分かりにくかったが泣いていた。
「いなければ良かっただと・・・ふざけるな。私はお前のことを1度も迷惑だなんて思ったことは無い。」
「だけど俺は涼姉に・・・」
「私達は家族じゃないか。血は繋がってなくとも私達は家族だ。お前が苦しんでいるのなら一緒になって苦しむ。助けが欲しいのなら無償で助ける。それが家族だ。私だって恭平に助けられたんだからな」
「俺は涼姉を助けたことなんて」
「お前は助けたと思っていないことが私にとっては救いになることだってあるということだ」
「・・・・・・」
涼姉に返す言葉が無くなった。
涼姉はそんな俺を優しく抱きしめてきた。
あの校舎裏でしたように・・・。
どんな言葉よりも温かいものが俺の心の中に流れ込んでくる。
俺は涙を堪えられなかった。
高校生にもなって泣くなんて恥ずかしいが今は雨だ。
誰にも分かりはしないさ。
だから俺は涼姉の胸で声を押し殺して泣いた。
「帰ろう、恭平」
「帰っても・・・いいのか」
「当たり前だ、お前は大切な家族なんだからな」
雲の切れ間から光が差し込んでいる。
雨はもうじき上がるだろう。
俺達を包み込んでいた苦しみの霧は雨に流されたかのように無くなっていた。
もう苦しまなくて済むんだな。
俺達は家族なんだから。
先日高校を卒業したので活動報告にてそのことに触れてます。興味のある方はご覧ください。