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6月9日~恭平の思い・涼の心

シリアス展開にしたことを少し後悔しています

 昔の話だ。

俺は両親が再婚してこの町に引っ越してきたばかりのころ周りに打ち解けられず苛められていた。

初めは無視なんかが多かった。

だが苛めはだんだん酷くなり最後は暴力を振るわれるようになった。

主に上級生からだ。

その時にいつも俺を助けてくれたのは涼姉りょうねぇだった。

涼姉が助けに来たら上級生達は顔をしかめて何処かへ行ってしまう。

涼姉はかっこよくて強くて俺のヒーローだった。

だったんだ・・・今は違う。

後で知ったんだが俺が苛められた原因は打ち解けられなかったこともあるが涼姉の義弟ということもあったらしい。

要するに羨ましかったんだ。

俺のことが羨ましくて妬んで憎かったんだ。

涼姉はこのことを知らない。

俺は自分で解決しなきゃいけない事を全部涼姉に押し付けて今まで生きてきた。

だからもうこんなこと止めよう。

涼姉にこれ以上迷惑を掛けられない。

履き慣らしたスニーカーを履き病院の裏口から気づかれないように病院を出た。

外は雨が降っていたが関係ない。

傘も持たず俺は雨の中へと歩いていった。



目的地があるわけでもない。

これもただの逃げなのだろう。

涼姉から逃げてそれで・・・その後は。

雨の降る中俺は当ても無く歩き続けた。

いくら雨で濡れても車の水しぶきが掛かっても気にしない。

雨は一向に止む気配を見せずさらに勢いを増していくばかりだ。


「・・・寒い」


夏間近だが雨は俺の体温を確実に奪っていく。

病人には辛すぎる環境だ。

流石に疲れたな。

近くにあった公園のベンチに座ることにしよう。

ここは近くに大きな木があり雨があまり当たらない場所になっているため休憩にはもってこいだ。

ベンチに座り一息つく。

今頃は佳奈姉かなねぇあたりが迎えに来てる頃だろうか。

病院は大騒ぎしているだろうか。

涼姉はまた自分を責めるだろうか。

俺はどうすればいいんだろうか。

誰か・・・教えてくれよ。

誰か・・・・・・助けてくれよ。

俺が放った心の叫びは灰色の空に飲み込まれていった。






私は恭平が苛められていることを知っていた。

だが姉として恭平を助けようとは思っていなかった。

恭平の心が弱いから苛められているとあの頃の私は思っていたのだ。

今思えばあの時の私はどうかしてたと思う。

姉なんか関係なく家族が困っていたら助けるのが道理だ。

恭平の心が弱いと思っていたというのもただの言い訳に過ぎない。

恐かった。

私が苛めの標的にされるのが恐かったんだ。

恭平を助けることで今度は私に来るんじゃないかとずっと思っていた。

だから避けた、気づかない振りをしていた。

恭平が何をされてようと私は目を閉じ耳を塞ぎ逃げた。

自分可愛さのために・・・。

だけどあの日にそれは一変した。



学校からの帰り道、私はいつも通らない道を歩いていた。

冒険のつもりだったのだろう。

知らない道を通るというのは中々面白いものだった。

少し疲れたと思い公園で水を飲もうと立ち寄った時私は信じられないものを見た。

恭平が苛められている姿だった。

遠くから見たらじゃれ合っているように見えるがよく見ると6人の上級生が寄って集って恭平を踏み倒している。

あたりには恭平のランドセルから飛び散ったであろう教科書が散乱している。

恭平は体中に傷を付けられ苦しそうに咳をしており目も虚ろだ。

上級生達はそんなことはお構いなしに今度は恭平の腕を持って引きずり回し始めた。

ここら辺は人通りが少ないらしくあたりに人の気配がしない。

これでは助けを呼べない。

どうすれば・・・。

恭平を見ると無残に引きずられぐったりとしている。

声を出そうにも力が出ないらしく口をパクパクさせるだけだ。


「・・・・・・・・・・・・(誰か助けて・・・お姉ちゃん)」


そう言ってるような気がしたんだ。

今思えばそんなことは言ってなかったのかもしれない。

けれど動くにはそれだけで十分だった。


「私の弟に触るな!!」


近くにあった木の棒を掴み振り回しながら同級生の前に躍り出た。

私が急に飛び出てきたので同級生達は事態がうまく掴めずにいた。

「何で奥村がいるんだよ」とか「どうするんだ」という話し声が聞こえてきたがそんなことはどうでもいい。

私が恭平を守らないといけない。

そんなちっぽけな使命だけが心の中で燃えていた。

木の棒を振り回し同級生達を威嚇しながら叫ぶ。


「これから私の弟に手を出したら許さないからな。何人掛かってこようが返り討ちにしてやる。まずは誰が来る」


私の鬼気迫るものに恐れをなした同級生達は自分達のランドレルを持って風のように逃げていった。


「恭平、大丈夫か」


木の棒を捨て恭平に近づくと恭平は私を見て笑った。

ボロボロの体になりながらも私を見て笑ったんだ。

何で笑えるのか恭平に尋ねたら


「だって涼お姉ちゃんが助けに来てくれたから・・・」


涙が止まらなかった。

ずっと現実から目を背けてきた私を、何度もお前を見捨てた姉を信じてくれてたなんて。

そんなお前を私は裏切り続けていたんだ。

今さら許しなんて請おうとはしない。

だがこれからは私が守る。

私はその時から恭平をこの身に変えても守るとその笑顔に誓った。

だから恭平・・・無事でいてくれ。





病院を抜け出してから何時間経っただろうか。

体は冷え切り体力ももう無い。

病院の場所さえろくに分からない。

雨は止まない。

空は晴れない。

ここまでは俺の予想通りだった。

ただ予想外だったのは・・・。


「恭平、見つけたぞ」


「涼姉・・・」


公園の入り口付近に立っている涼姉を見つけたことぐらいだ。


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