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6月2日~体育祭⑦

これにて体育祭終了です。まさか⑦まで来るとは・・・。

 体育祭の表彰式が無事に終わり俺は今校舎裏に来ている。

坂上との勝負が終わった後ここに来るという約束だったのだ。

生徒会長として陣頭指揮を執っている涼姉りょうねぇも後で来る予定になっている。

普段人が来ないので草は伸び放題になっている。

太陽の光も当たらないのでじめじめとして気持ちが悪い。

よく見ると地面が乾いてなく湿っている。

2日前くらいに降った雨がまだ乾いて無いのか。

どれだけ日が差さないんだここは・・・。

体操服で汗を拭きながら坂上を探す。

もう来てるはずなんだが・・・おっいたいた。


「待たせたな」


俺の声に振り向くと坂上はまるで親の敵を見るように見てきた。

別に恐くは無いけど。


「いえ・・・別に」


何だ、素っ気無いな。

馴れ馴れしいよりましか。


「勝負は俺たちの勝ちってことでいいな」


「確かに勝負はお前の勝ちだ」


勝負はって・・・他に何があるんだよ。


「何だ、負け惜しみか。かっこ悪いぞサッカー部の期待の新人」


自分でも人が悪いなと思いながらも嫌味っぽく言ってみる。

思ったよりも嫌だったのかさらに顔を険しくさせる坂上。

だが、坂上は急に口角を吊り上げニヤリとした。


「どうしたんだ、暑さで頭が狂っちまったか」


とことん冷たい言葉を坂上に言い放つ。

これくらいやっても罰は当たるまい。


「いえ・・・随分余裕だなと思って」


「あぁ・・・何言ってんだ。勝負に勝ったんだから余裕に決まってんだろ」


「そうだな、今は・・・だが、これを見てもそんな余裕が続くかな」


坂上がそう言った瞬間に坂上の後ろの角からゾロゾロと大柄の男たちが出て来た。

金髪、ピアス、生傷・・・所謂ヤンキーという部類のやつらだ。

気づくと俺の後ろの角からも同じようなやつらが出てきている。


「おいおい・・・部外者は立ち入り禁止だぜ」


「部外者じゃねぇよ、ちゃんとした関係者さ・・・これからお前を壊すためのな」


さすがに俺の顔から余裕が消える。

この人数じゃ太刀打ちできない。

一方的にやられるだろう。

何とかこの包囲網の外に出られれば・・・。


「おっと・・・逃げようなんて考えるなよ。もうすぐ涼さんが来るんだ。その時にお前がいなかったら・・・その場で犯す」


「なっ・・・」


こいつ、涼姉を・・・。

俺の中で大事な何かが切れる音がした。

涼姉を犯すだと。

さすがの涼姉でもこの人数じゃ・・・。


「一人じゃ何もできないのかよ、このへたれ」


「いくらでも言えばいい、結果が全てだ。俺が涼さんを手に入れるという結果があればそれでいいんだよ」


「クソやろうがぁ」


俺は坂上目掛けて走り出した。

逃げるためじゃない。


「ガァッ・・・」


殴るためだ。

坂上もヤンキーたちも俺のとっさの行動に動けなかったらしく俺の顔面へのパンチは坂上の頬にクリーンヒットした。

坂上の唇が切れて血が出ていたが構わずもう1発かまそうとした所で取り巻きのヤンキーたちに取り押さえられる。


「痛ってぇな・・・血が出ちまってるじゃねぇか」


坂上が唇を触りながら俺に近づいてくる。

俺はヤンキーたちに手と足を拘束され大の文字の状態にさせられる。


「お返しだ」


「ぐふっ・・・」


鳩尾に向かっての殴打。

それも1回じゃない。

怯んだ所をもう1回、もう1回と殴り続けられる。

昼に食った飯を戻しそうになるのを必死に堪えると次は顔へ標準を移行してきた。

俺の顔はサンドバックですかと言いたくなるくらいに一方的にボコボコに殴られる。

口の中はもう血の味しかしない。

顔も鏡を見るまでもなく腫れ上がってるだろう。

鼻血まで出てきやがった。

体操服が血で赤く染まっていくのを俺は虚ろな目で見ているしかなかった。


「はぁはぁ・・・これで最後だ」


右頬にラストストレートを打った坂上は満足そうな顔をして俺を見た。

右目が腫れてよく見れないが坂上はさぞいい笑顔をしていることだろう。

だけど・・・これで涼姉を守れるんだったら俺は何の後悔も無い。

このまま坂上が帰ればそれで終わりだ。


「あっと・・・言い忘れるところだったけど涼さんはこの後俺たちと来てもらうことになるんだよ」


「・・・・・・」


俺は言葉を発する気力さえ無くなりただ坂上を見上げるだけしかできなかった。

俺がこうすれば涼姉には手を出さないんじゃなかったのか。


「たぶん涼さんには手は出さないって言ったじゃねぇかとか思ってるんだろ。ちゃんと話は聞こうぜ先輩、ここで犯すとは言ったけど犯さないとは言ってないぜ」


さらに坂上は俺を馬鹿にするように話を続けていく。


「これからお前を脅しの餌にする。そうだな・・・これ以上弟に危害を加えて欲しくなければ俺の言うことを聞けかな。かなり乱暴な方法だけど、まぁいいか。涼さんが手に入ればそれでいい」


「お前は・・・とことん・・・屑だな」


「何か言いましたか、サンドバック先輩」


ボールを蹴るかのように放たれた蹴りは見事に俺のわき腹に直撃した。

もう痛みの叫びさえ上げられない。

助けを呼ぶことだってできない。

いや、1人いる。

俺の助けをどこに居たって聞きつけてくれる最強のヒーローが・・・。


「助け・・・て・・・佳奈姉かなねぇ


今にも消え去りそうな声で呟く。

きっと坂上にも周りのヤンキーたちにも聞こえていない小さな声。

たけど彼女はやってくる。

ほら聞こえてくるぜ、お前たちのデスマーチが。


「私の可愛い恭くんをこんなにしたのはあなた達ですか」


低く冷たく言い放たれた言葉はいつも聞いている穏やかで優しい声とは正反対のものだった。

角から現れたのは俺の姉であり最凶のヒーロー、奥村佳奈だった。

佳奈姉の顔を横目で見ると顔に血管の十字路が作られていた。

ブチ切れ状態の佳奈姉を見るのは初めてだがその姿は鬼か修羅のようだった。

ヤンキーたちは自分達が死ぬ一歩手前だということも分からず「極上の女が来たぜ」、と暢気な会話をしていた。

勇気があるのかはたまたただの馬鹿なのか。

1人のヤンキーが佳奈姉に近づき肩に手を置いた瞬間飛んだ。

跳んだんじゃない、飛んだんだ。

坂上の真横を物凄いスピードで飛んで行きフェンスにぶつかりそのまま気絶した。


「な、何だよあの女・・・」


ヤンキーたちもさっきの光景を見て臨戦態勢に入った。

佳奈姉はゆっくりと歩き始め徐々にヤンキーたちとの距離を詰めていく。


「恭くんをこんな姿にして・・・万死に値します」


「か、かかれ、相手は女1人だ」


坂上の一言でヤンキー達が一斉に佳奈姉に襲い掛かる。


「ぐへぇ・・・」


「あぶす・・・」


「のぶぉは・・・」


まるで磁石のN極とN極のようにS極とS極のように弾かれるヤンキー達。

掴みかかろうとすればさっきのヤンキーのように吹き飛ばされ、殴りかかろうとすれば逆にカウンターを貰う始末だ。

佳奈姉がヤンキー達を片付けるのに3分もかからなかった。


「あとは・・・あなただけですね」


佳奈姉に睨まれた坂上は今にも失禁しそうな顔で後ずさりを始めた。


「ち、違う。俺はそいつらに脅されて・・・」


そんな安っぽい嘘で誤魔化せるほど佳奈姉の目は腐っていない。


「簡単には終わらせませんよ、生きているのが辛いくらいにいたぶってあげます」


「うぐっ・・・」


坂上に見えない速さの手刀を繰り出し気絶させそのまま何処かへ連れ去ってしまった。

同情はしないがほどほどにしといてやってくれ、佳奈姉。




「恭平、どうしたんだ」


佳奈姉が坂上を連れ去ってから数分後、涼姉が校舎裏にやってきた。

涼姉は俺を見るなり血相を変えて俺の元へ駆け寄ってきた。


「誰にやられた・・・まさか坂上か」


限りある体力で頷くと涼姉は悔しそうな顔をして唇を噛む。

止めてくれ、そんな顔しないでくれ。

俺がやるって決めたんだ。

だから涼姉には罪は無いんだ。

それなのに何で・・・泣いてるんだよ。

いつもの凛としたかっこいい涼姉でいてくれよ。


「ごめん、ごめん・・・痛かっただろう。こんなに腫れて・・・ここもこっちも。私が巻き込んだばっかりに・・・」


涙を流しながら涼姉は俺を抱きしめた。

すぐ耳元で涼姉の嗚咽が聞こえる。

また俺は涼姉を泣かせてしまった。

涼姉は自分に何があっても泣かないくせに俺に何かがあるとすぐに泣く。

お姉ちゃんなのに弟を守ってやれなかったと言って・・・。

俺はいつも涼姉に甘えていたんだ。

小学生の時も中学生の時も、今だって。

俺は1歩も前に進んじゃいない。

涼姉を苦しませているのは・・・俺なんだ。

分かりきってたことなのに。

なのに俺は・・・。



心の中で涼姉にごめんと言い続けながら俺は意識を失っていった。

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