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6月2日~体育祭⑤

この体育祭話・・・いつまで続くんだろうか。作者である私も分かりません。

 『第5種目~綱引き』


午後から始まるこの綱引きと全員リレーはトーナメント制になっている。

あらかじめ抽選で決めた相手と綱引きをするのだ。

クラスやチームは関係ない。

運が悪ければ同じチームと戦うことになるし良ければ1位、2位、3位をチームで独占することもできる。

午後からは1発逆転ができる競技が揃っているのだ。


「じゃあ、修也も安住も頑張ってこいよ」


昼食休憩が終わりさらにぐったりとした修也と何故か肌が潤いに満ち溢れてる安住がグラウンドの中央に歩いていくのを旗を持ちながら見送った。

まだ俺たちのクラスの番じゃないから応援に行かないが順番が来たら旗を持って応援に駆けつける予定だ。


「俺たちのクラスが最初に戦うのってどことだっけ?」


近くにいた桐原に聞くと手元にあったプログラム表を見て「1年2組です」と答えた。

強さは分からないが同じチームじゃ無かっただけましというものだろう。

そんなことをしてるうちに俺たちのクラスの番がやってきた。


「よし、応援しに行こうぜ桐原」


「そうですね、行きましょう」


近くに行くと縄の中央近くに安住、そして縄の最も後方に修也がいた。

相手のクラスを見ると何人か大柄の体格の者がいたが戦力的には互角・・・いや、俺たちのクラスのほうが勝っているだろう。

だが、グラウンドの状態や体調などで左右されるからな。

油断はできない。


パーーーン


開始のスターター音と共に両者が一斉に綱を引っ張り始める。

最初は均衡していた綱の中央の赤い布が徐々に俺たちのクラスの方へと寄ってきた。

行けっ、そのまま・・・。


パーーン


そのまま時間切れとなり赤い布が俺たちのクラスの方に来ているので俺たちのクラスの勝ちだ。

1年も相手が上級生だから少し縮こまってるからいつもよりも力が出せないのだろう。

だが、まだもう1回ある。

綱引きは1戦が3回勝負で先に2本取った方が勝ちとなっている。

互いの位置を交換しもう1回試合を開始する。

結果は俺たちのチームの勝ちだった。

これで2回戦に進める。


「修也・・・大丈夫か」


「大丈夫だ、むしろ綱引きの間は遥と離れるから落ち着ける」


・・・修也、不憫な子。




俺たちのチームはかなり強かったらしくその後は苦戦を強いられずに順調に勝ち進んでいった。

そして気づけば決勝戦だ。

相手は・・・うげぇ。

3年4組、めちゃくちゃ強そうだ。

野球部や柔道部が揃いに揃っている。

女子がほとんどいないし・・・。

本気すぎるだろ。

で、でもやってみないと分から・・・。


パーーーン


パーーーン


「・・・・・・」


一瞬だった。

ズササササと砂煙を上げて引っ張られていくクラスメイトを俺はただ見守ることしかできなかった。

あぁ、何人かは引っ張られた時に転んだのは土だらけになっている者もいた。

可哀想に・・・。


「これは圧倒的だな」


「そうですね、このままじゃ・・・」


この3年4組は坂上のクラスの同じチームなのでここで負けてしまうと逆転されてしまう。

何とかしないと。

・・・・・・そうだ。


「安住、安住・・・ちょっと」


場所移動の時に安住に近づいて手招きをする。


「何でしょうか?」


近づいてきた安住に小さな声で話し始める。


「この勝負、勝てそうか?」


「正直厳しいかと・・・」


安住は表情を険しくさせて答えた。

やはり厳しいか。

こうなれば禁じ手を使うしかない。


「勝てたら修也を好きにしていいと思ったのに・・・」


「・・・今何て言いましたか?」


「俺が安住が好きな場所に修也をおびき出し・・・誘ってあげようと思ったのに」


「何とかしましょう」


「えっ・・・」


振り向いて綱引きに戻る安住の後姿は某映画の主人公の背中のように頼もしいものとなっていた。

言葉なんてあの後姿には無意味だ。

そう思わせる大きな背中だった。


「つっ・・・」


俺は無意識の間に敬礼を取っていた。

それは安住に向けてなのか修也に向けてなのか分からなかったが俺は敬礼をしていたんだ。

安住頑張れ・・・修也、ガンバレ。



けど改めて考えて見るとこの相手チームに勝つことなんてできるのだろうか。

さっきの結果だけ見れば戦力差は一目瞭然だ。

安住にあんなこと言ってしまったが果たして勝つことはできるのだろうか。


パーーーン


「はっ・・・」


赤い布が・・・・・・均衡を保ってる。

あんなに一瞬で負けたのに。

いや、微かにこっちに来てる。

ポカーンとしてるのは俺だけじゃないらしい。

俺のクラスも相手のクラスも今眼前で起こってることに思考が付いて来れてない。

それほど異様な光景だった。


「あ・・・安住は」


い、居た。

さっきと同じ場所で綱を引いている。

めちゃくちゃ涼しい顔だけどあれで本気出してるのか。

信じらんねぇ。


パーーーン


「か、勝っちまった」


赤い布が僅かに俺たちの陣地に入っていた為判定勝ちとなった。

俺たちのクラスが喜びに満ち溢れているが何故勝てたのか分かるやつは1人としていないだろう。

修也くらいは分かるかもしれないが・・・。

3本目の勝負はクラスの代表がじゃんけんをして好きな場所を選んでから始まる。

ちなみにじゃんけんはこちらが勝ったので場所はそのままだ。

さぁ、3本目が今始まるぞ。


パーーーン


「こ、これは・・・」


さっきの結果を見てか相手のチームが本気を出してきた。

少しずつだが引っ張られている。

あぁ、やばい、負けちまう。


「すぅ・・・・・・」


俺は見逃さなかった。

安住が息を吸い込み体勢を低くし目を閉じ力を蓄えている姿を。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴって効果音が相応しい佇まいだ。


「・・・はっ」


安住が一気に綱を引っ張る力を入れた。

まずは赤い布の動きが止まった。

そしてゆっくりと中央へと戻っていく。

それを見た相手チームはさらに力を込めてくるが赤い布が中央に戻っていくことを阻止できない。

そして、そのまま中央を通り過ぎた布はこちらの陣地に近づいてくる。

頼む、このまま・・・。


パーーーン


「あ・・・あぁ」


俺たちの口から出て来たのは歓喜の言葉でも勝利の興奮でもない。

ただただ心から漏れ出した言葉だけだった。


「・・・勝ったのか」


「・・・勝ちましたね」


桐原と顔を見合わせる。

桐原は驚きを隠せない様子だった。

たぶん俺も同じような顔をしているだろう。

その勝利の興奮は雪解け水のように周りに広がっていく。


「・・・勝ったんだよな」


「あぁ、信じられねぇが」


「い・・・」


「「「イヤッターーー」」」


一斉に綱引きのメンバーに駆け寄る俺たち。

当人たちも困惑している様子だったが勝ったことに変わりは無い。

揉みくちゃにされているメンバーの中から安住を見つけ出しお礼を言うことにした。

あいつのおかげで勝てたのだろうからな。


「本当に勝つなんて思いもしなかったぞ」


「約束ですからね。これで明日は筋肉痛ですよ」


「修也に看病してもらえ」


「そうですね、そうします」


安住はすっすらと汗をかいていたが特に体に支障があるようには見えなかった。

華奢な体と色白の肌のどこからそんな超人的な力が出てくるのだろうか。

ぜひ俺に教えて・・・欲しくない。


「ちゃんと約束守ってくださいよ」


「もちろんだ。後で修也にどこに向かわせるか考えといてくれ」


「分かりました」


修也の弾けるような笑顔を壊すことが本当に残念だ。

けど、仕方ないよね。

安住は喜ぶし、涼姉りょうねぇは守れるし一石二鳥だな。

まぁ、その一石で関係の無いやつまで巻き込んじまったけど・・・。

神様も許してくれるよね。



その後、修也は安住がおいしくいただきました。



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