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4月6日~奥村家の朝は騒がしい

未だに、行間のタイミングが分からない

ピピピピピと枕元においてある目覚まし時計からアラームが鳴り響いた。

なれた動作で目を開けずにアラームを止める。

今日は新学期なので学校に行かなければいけない。

これから憂鬱な学校生活が始まると思うと、気が重い。

体まで重く感じるくらい、学校に行くことに気乗りしない。

それに俺は、朝に強くないのでベッドから起きられずにいた。



「恭く~ん、起きてる?」

ガチャ、というドアの開く音と共になぜか佳奈姉かなねぇの声が聞こえてきた。

あぁ、そうか春休みボケでおきられないと思ったから佳奈姉に一言かけてくれって頼んだんだっけ。

「ほら、早く起きないと、遅刻するよ」

佳奈姉がカーテンを開けて俺にベッドから出るように催促してくる。

カーテンを開けるとちょうど朝日が...うっ、眩しい。

「あと、5分」

そう言って、布団を顔まで持ち上げ朝日を遮断する。

「ダメです」

佳奈姉が無理やり布団を俺から引き剥がす。

しかたがない、起きるとするか。



「......」

あれ、いつもならここで「早くしないと朝ごはん冷めるよ~」の言葉が来るのに今日は来ないな。

「恭くん...それは何ですか」

「えっ?」

ゆっくりと目を開け、佳奈姉が指差す方向を見る。

...うわぁ、マジか。

飛鳥が仰向けで寝ていた俺の体にコアラのように抱きついて寝ていた。

よだれまで垂らして...。



「恭くん、説明してください」

「説明って...何の?」

「この状況のことです」

たぶん、飛鳥がトイレか何かに起きた時に寝ぼけて入って来たんだろう。

これが、初めてじゃないし。

まぁ、見つかったのは初めてなんだけど...。

そのことを佳奈姉に包み隠さず報告する。

「どうして黙ってたんですか」

「えっ、別に佳奈姉に言うほどのことでもないし」

「大問題です!!」

体を震わせて俺に詰め寄ってくる。

よく見ると目にうっすらと涙が見える。

何が佳奈姉をそこまで怒らしたんだろうか?

...分からん。

「いいですか、この際ですから恭くんに言っておきますよ」

いつになく佳奈姉が真剣な表情をしている。

これは少し説教をされる覚悟を決めておくか。

スゥー、と佳奈姉が息を吸い込み、そして発した言葉がこれだ。



「どうして、私とは添い寝してくれないんですか」

「......」

「年上は嫌いですか、やっぱり年下がいいんですか」

「年上も年下も関係なく、兄妹だからしないんだよ。」

それにやっぱり年下がいいってなんだ。

俺の言葉を無視して、さらに、佳奈姉はヒートアップしていく。

「恭くんは、年上の魅力を知らないから、年下っていう間違った方向に進むんです」

「恭くんは、年上の包容力を知らないだけなんです」

「お姉ちゃんが教えてあげるから、今夜、一緒に寝ましょう」

「いえ、一緒に寝ないとダメです。もはや宿命です。運命です。フェイトです」



佳奈姉のマシンガントークが炸裂した。

運命とフェイトって同じ意味だよ、佳奈姉。

俺の知ってる賢く、朗らかな佳奈姉の姿はどこいもなかった。

今、俺の目の前にいるのは、弟に添い寝を強要する狂った姉の姿だけだ。

天は二物を与えずという言葉があるが、二物以上を与える代わりにとんでもないものまで与えてしまったらしい。

「とりあえず、落ち着こう佳奈姉」

「私は、十分に落ち着いています」

呼吸が荒いし、目が血走ってるし、体が震えてるし。

何かの禁断症状みたいになってるんだけど。

こんな状態の人を少なくとも落ち着いているとは言わないだろう。



「うるさいぞ、朝から何の騒ぎだ」

俺の部屋に涼姉りょうねぇが騒ぎを聞きつけ入ってきた。

涼姉の部屋は俺の部屋の隣にあるので佳奈姉の荒ぶった声が聞こえてきたんだろう。

そして、俺の上でまだ寝ている飛鳥の姿を見て顔が変わった。

いや、この表現じゃまだたりないね。

人が変わった。

「おい、恭平、これはどういうことだ...説明しろ」

うわー、怖いね。

般若はんにゃみたいな顔になってるよ。

心なしか声も低くなってる気がするし。

「いや、飛鳥が寝ぼけて入って来たんじゃないかな」

じっと俺の顔を見た涼姉は苦虫を噛み潰したような顔をしてボソッと呟いた。

「やはり、お前は年下のほうがいいのか」

「何故そうなる」

奥村家では俺は年下好きとして見られてたの?

そうだとしたら、かなりショックだよ。



「涼ちゃん、違うのよ。恭くんも悪気があったわけじゃないみたいなのよ」

ナイスフォローだ、佳奈姉。

俺に悪気の有無以前の問題だと思うのだが、この際、解決できればそれでいい。

「どういうことだ、姉さん」

涼姉も落ち着いてきたし、これで一件落着だな。

よかった、よかっ...。



「恭くんは、年上の好さを知らないだけなのよ」

何故、その話をここで蒸し返す。

ほら、涼姉がこっちをじっと見てくるじゃないか。

「だから今夜、私が恭くんと一緒に寝ることにしたの~」

「何っ、本当か恭平」

全力で首を振る。

もう、千切れるんじゃないかってくらい振る。

「そうだよな。この歳で一緒に寝るなんて...」

「本当にそれでいいの?...涼ちゃん」

ボソッと佳奈姉が涼姉に耳打ちをする。

「どういう意味だ、姉さん」

「ここで、一緒に寝たら恭くんが年上の好さを分かってくれるかもしれないのよ」

「そうなると...どうなるんだ」

「姉である私たちのことが大好きになるかもしれないのよ」



涼姉の目がカッと見開いた。

声をつけるなら「その手があったか」といわんばかりの顔だ。

「その手があったか」

本当に言いやがった。

ゴフン、ゴフンとわざとらしく咳をした後

「し、しかたがない。弟が変な趣味に目覚めないうちに正しい道に戻すことも姉の務めだな」

と顔を赤らめて言った。

ちなみに、変な趣味って年下好きってやつですか。



「私も一緒に寝てやろう。か、感謝しろよ、恭平」

話がややこしくなりました。

あれ~、おかしいな。

涼姉まで変なことを言い始めたぞ。

「今日は、私が恭くんと寝るから明日は涼ちゃんね」

「分かった。それで構わない」

何で、一緒に寝る方向で話が進んでるの。

早く止めないと、本当に今夜佳奈姉と明日は涼姉と寝ることになってしまう。



「ちょっと、ま...」

「その話、ちょっと待ったーーー!!」

あっ、いやな予感。

ドアの方を見ると案の定、鈴葉が立っていた。

止めて、これ以上話をかき乱さないで

「お兄ちゃんは、妹であるこの私と一緒に寝たほうが嬉しいに決まってるでしょ」



嫌ぁーーーーーーーー。

朝から俺の部屋で、小さな修羅場を作らないで。

もう俺のHPは0だ。

そんな俺のことなんて誰も見えてないらしい。

姉と妹になる戦争が始まろうとしていた。



「...ぅん」

そして、やっとこの騒ぎの原因である飛鳥が起き始めた。

よくここまでうるさい中で寝れるものだ。

「飛鳥、もうそろそろ降りてくれないか」

小学二年の体重なんてたかが知れてるのだが、ずっと同じ体勢を維持し続けるのはかなりきつい。

まだ、目が覚めきっていないのかボーっと俺の方を見ている。



グーーー。

その時、飛鳥のお腹がなる音がした。

そういえば、まだ朝飯を食べていなかった。

「飯、食いに行くか」

そう言うと、飛鳥は頷き、俺の体の上から降りた。



まだ、姉と妹の戦争は継続中で、俺が話しかけても何も返事が返ってこなかった。

しかたがない、飛鳥と二人で朝飯を食べに行くか。

「飛鳥、行くぞ」

頷くのを確認した後、飛鳥と共に俺の部屋をあとにした。



騒動が終わったのはそれから10分後だった。

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