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短編小説

何の因果か知らないが。

作者: 本樹にあ

 他サイト様の企画で書き上げた恋愛小説です。

 5000文字以内という制限があったため、物語の展開がかなりの駆け足になってしまっていますがご了承ください(`・ω・´)

 というか恋愛小説は初めて書きましたね実際。

 秋。季節は秋。誰がなんと言おうと秋。

 そして、俺は秋が大好きな高校2年生、月見(つきみ) 秋人(あきと)だ。

 先程も言ったが、俺は秋が好きだ。春夏秋冬の中で、四季の中で最も秋が好きな男。それが俺。


 で、なぜ秋が好きかというと……だ。それは“モテるから”だ!!


 ……いやそんな『何言ってんだこの人』みたいな目で見ないでいただこうか。

 たしかに、モテるというのは言い過ぎかもしれない。いやぶっちゃけ言いすぎたけどもね。

 恋愛の季節は春や冬の方がイメージが高いが、いろいろ考えた結果恋愛の季節は秋なのである。


 ……おっと、教室も近づいてきたことだしこの話はここまでにしておこうか。


 というわけで、俺は教室へと歩みより自分の席へと着席した。

 そんな中、決まってアイツが話しかけてくる。


「アッキーおはよっ!」


「うぃー……」


 俺のことをアッキーと呼ぶこの馴れ馴れしい奴は、春宮(はるみや) 桜花(おうか)。性別は一応女。

 茶色で肩までの長さのちょっと癖のある髪。どこか活発な雰囲気を感じさせるその髪型の名称が、今の俺にはわからない。というか男の俺に女性の髪型の正式名称を求めるとか酷な話じゃあないだろうか。

 そんな桜花と俺は、幼・小・中・高とすべて同じクラスといういわゆる腐れ縁という間柄なんだが、なぁに、そんな特別なことなど何もない。

 何度も何度も同じクラスになるもんだから、自然災害的な感じで、お互いに『またお前か』と口を揃えたことがきっかけで始まった、ただの友達的関係。


 それ以上でも、それ以下でもない。ごく普通の……友達だ。


「ねぇねぇ、アッキー。秋はやっぱり冷えるねぇ」


「そうだなー……」


 黒板を背にし、教卓から見て、縦五列、横八列の計40人構成でひとクラスが成り立っている。それなのに桜花の席は俺の席の目の前。一番窓側の前から三つ目の席が桜花の席なのだ。

 そんな席関係だからか、桜花はいつも俺に話しかけてくる。しかも会話の内容は至極くだらないときたらこれはもう適当に相槌(あいづち)打っておくのが最善の策だろう。

 まぁそれでも周りからしてみれば、俺ら二人の仲の良さを見たらそりゃもうからかいの対象になるらしく。


「おや? おやおや秋人くん春宮さんおやおや? これは手編みのマフラーフラグですかなおやおや?」


 やたらとおやおや言いながらニヤけつつからかってくるコイツは、俺の斜め前の席の住人(つまり桜花の隣の席)であり、俺の親友でもある海川(うみかわ) 夏樹(なつき)。性別は男。

 いやはや、俺も自分の口からはあまり口外したくはないのだが、いかんせんコイツには結構弱みを握られているからさ。俺の目の届く場所においておかないと、どこで何を言い回るかわかったもんじゃないわけで。

 そういうわけで、夏樹には仕方なく俺の親友というポジションを与えているわけだ。


 ……つーか夏樹テメェ。


(冬華ちゃんの前で誤解されかねない発言すんじゃねぇええ!!)


 俺は夏樹に顔を近づけると、夏樹だけに聞こえるように声のボリュームを絞って叫ぶ。


(あっはっはっは! わりぃわりぃ、すっかり忘れてたわ!)


(あっはっはっは! じゃねえよ!!)


 そう、実は俺はある女の子に絶賛片思いしているんだ。

 その相手はそう! 白雪(しらゆき) 冬華(とうか)ちゃん……!!

 冬華ちゃんとは中学の頃に出会って、それから俺は一目惚れ。黒髪ストレートロングで前髪パッツン。髪型はやっぱしストレートに限るよね!! シンプルイズベストだよね!! 現代に舞い降りた大和撫子とは冬華ちゃんのことに間違いないよね!!


 そして聞いてくれよみんな。ロマンスの神様ってのはいるんですよみんな。

 俺の隣の席。俺の隣の席にご注目くださいみんな!!!


「……ん? 秋人くんどうしたの?」


 ズッキュゥゥゥゥゥゥン!!!!!!!!!

 か、可愛すぎんだろおおお!!!!! ニコッて! ニコッて! ニコッて反則やろおおお!!!!!

 というわけで、俺のお隣さんは冬華ちゃんなのである。ウフフ。

 ちなみに俺の誕生日は12月で“冬”というわけで、名前に冬が入っている冬華ちゃんと俺はもう結ばれるべき運命なのだと思う。そうに違いない。


「い、いやなんでもないよ冬華ちゃん!! 気にしないで!」


 ちなみに、俺と冬華ちゃんとの仲は普通に良好です。それはまぁほとんど夏樹のおかげと言っても過言ではないんだけども。例えば修学旅行の班決めの際、夏樹に冬華ちゃんと同じ班にしてもらったりとか。

 でもそれでも一応俺だって冬華ちゃんにお近づきになれるよう中学の3年間でだいぶ頑張ったんだからねっ!!


「はぁ、それはそうと今週の日曜は暇だなぁー」


 桜花が謎のアピール。

 それを聞いた夏樹は、何故か俺の方を見てウインクした。このウインクは『俺に任せろ』の意だ。長いあいだ親友をやっている俺にはわかる。

 その証拠に夏樹がこう提案する。


「じゃあみんなで動物園行かね? てか行こうぜ」


 おいバカヤロウ。みんなで動物園とか行ったら『春夏秋冬が動物園行ったぞ! 動物たちは異常気象で死ぬぞ!!』と笑い話にされてしまうぞ。だから俺は絶対に行かな……。


「行く行く!」


「あ、私も行く!」


 桜花に続き冬華ちゃんまでもがはしゃぎ始めた。

 うん、冬華ちゃんが行くならこれはもう行くしかないよね――――――――――――





 


 ――――――――――そしてあっという間に動物園当日。俺はもう楽しみすぎて全然寝れなかった。

 待ち合わせ場所の動物園前に、約束の時間よりも1時間も前に着いてしまった。


「髪型よし。口臭よし。パーカーよし。名前がわからないイイ感じのズボンもよし。うん、完璧」


 自分の身体の隅々まで念入りに確認し直し、おかしいところはないのがわかると安堵する。が、再び気合を入れ直した。

 そう、俺は決意したんだ。この動物園で楽しんでいい感じになったら……。


「俺、冬華ちゃんに告白する!!!」

 

 い、いかん声に出してしまった。ちょっと気合を入れすぎたようだ。

 動物園にご来場の皆様になんか変な目で見られてるよ。スッゲェ恥ずかしいよ。


 だが俺は負けない。これはおそらく、俺が冬華ちゃんに告白するに足りる器なのかどうかをロマンスの神様が試しているんだ。これから来る試練の幕開けってか。上等だロマンスの神様。

 絶対に俺は……こんなものに屈したりしなぁああああ


「アッ……キー……?」


「秋人……くん……」


「お前……ぷっ」


 あああああああああああああああああああ聞かれてたあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!

 しかもみんな居るじゃねえかぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!


 よし、死のう。


「あ、秋人くん……あ、あの……わ、私……」


 この心底気まずい状況の中、最初に言葉を発したのはなんと顔を真っ赤にした冬華ちゃんだった。

 え? なんで顔赤いの? キレてんの? それとも照れてんの? ねぇ、どっちなの!?


 この状況を見て、息を呑まないものなんていない。そんな強者がいるとすれば、さっきから俺を指差して腹を抱え転げまわっている夏樹だけだろう。

 そう、誰もが静まり返る中、彼女はこう言った。


「私……ずっと好きだった!!」


 俺は絶句した。言葉が出なかった。驚きのあまり言葉ではなく眼球が飛び出そうになった。

 ロマンスの神様というものはなんて残酷なのだろう。だってさ。


「私はもう、自分の気持ちを抑えられない……ずっと好きだったんだよ……“アッキー”!!」


 涙を流し、そう叫びながら俺に抱きついてきたのは、冬華ちゃんではなく……桜花だった。

 その瞬間、夏樹が昇天する。笑いすぎたことによる窒息死だろう。

 だがそんな夏樹を気にしている余裕が今の俺にはない。


「小さい頃から……ずっと耐えてた……!! ダメだって、自分に言い聞かせてた……でも、もう耐えられない!! アッキー、私はアッキーのことが好きなの!!」


「お、桜花……」


 桜花が俺のことをずっと思っていてくれていたことに、俺は気づかなかった。いや、それだけじゃない。

 俺は、一人で必死に耐えている桜花に、冬華ちゃんと仲良くなれる方法とか色々聞いて……恋愛相談までしてもらっていた。

 桜花の気持ちなんて、微塵も考えてはいなかった……。


「ごめん桜花……。俺、お前が苦しんでんの……気づかなかった……」


 俺は……俺は……。


 気づけば俺は涙を流していた。

 悲しみで震える桜花の身体を、抱きしめることができない自分の身勝手さに……腹が立って。悔しくて。


「俺はなんて……ちっぽけな男なんだ……」


「秋人くんはちっぽけなんかじゃないわ!!」


「……冬華……ちゃん……?」


 目の前の桜花を抱きしめることすらできない自分を否定していた俺を、さらに否定してくれたのは……俺が長年片思いを続けていた相手、冬華ちゃんだった。   


「秋人くん。実は私もあなたのことが好きだった」


「……う、嘘だろ……!?」


 冬華ちゃんが……そんな、まさか。


「正直、両想いだったなんて思ってなかった。今でも心臓の鼓動が激しく鳴り止まないし、膝だって震えてるよ……。だから。だからね秋人くん」


 一歩、また一歩と俺に近づいてくる冬華ちゃん。

 そしてとうとう、俺の目の前まで接近してきた。だがしかし――――




「私と、付き合わないでください」


「え……?」



 ただ一言だけ告げると、冬華ちゃんは桜花をそっと抱き寄せた。

 まるで子犬を抱くかのように……とても優しく。


「と、冬華ちゃんなんで……?」


 そう問いかけたのは、冬華ちゃんの腕の中ですすり泣く……桜花だった。


「だって……こんな状況で結ばれても、悲しいだけじゃない?」


 そう言い放つ冬華ちゃんの顔は、涙を流しながらもとても優しい笑顔。

 その顔を見て、俺は決意した。


 そうだ……俺はこんなところで突っ立ってる場合じゃないんだ……。


 涙をぬぐい、自分で自分の頬を叩き、俺は気合を入れなおす。

 そして――――。


「――――俺は冬華ちゃんが好きだ。すごく好きだ。たまらなく好きだ。……でもさ」


 俺は冬華ちゃんが好きだった。今でもそれは変わらない。

 でも、俺はひとつだけわかってしまった。

 冬華ちゃんと同じくらい、俺には好きな人がいるんだってことに。


「それと同じくらい、俺は桜花のことが好きなんだ」


 俺の言葉に、桜花がピクっと体を震わせる。


 そうだ。俺は桜花の事が……ずっと好きだったんだ。

 でも昔から俺の隣には桜花が一緒だったから、その気持ちに俺自身が気づけなかっただけなんだ。


「だから……今の俺にはどちらかを選ぶなんてことはできない。ごめん」


 俺は二人に頭を下げた。

 はっきりしなくて、ごめん。


「ほほーぅ。それならさ、どっちが先に秋人の好感度を上げられるか勝負すりゃいいんじゃね?」


「なっ、夏樹お前何を言って!?」


 いつの間にやら、夏樹は俺達の隣に立っていた。

 そんな夏樹の提案に……。


「う、うん。そうだよね……! 私にもまだチャンスはあるんだもん、泣いてなんていられないよね!」


「お、桜花お前までなに言っ――むぐっ!?」



 ―――――突然。俺は桜花に、唇を奪われた。



「アッキー。大好きっ!」


「お、桜花ちゃん!?」


「ふっ、早いもの勝ちだよ冬華ちゃん」


「あ、抜け駆けはズルいよ!」


「むぐっ!?」


 今度は冬華ちゃんの唇が、俺のと重なる。

 

「なっ……ちょ、お前ら……!!」





 ――――――俺は女の子に両手を惹かれ、散りゆくもみじのカーテンをくぐり抜けて。



「秋人くん」「アッキー」



 ――――――何の因果かわからないけれど、これだけは言える。





『初デートは、動物園でいいよね?』





 俺達の秋は……まだ始まったばかりなのだ、と――――――――――。

◇ご愛読ありがとうございました! ポンジュニア先生の次回作にご期待ください!!

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