エピローグ
再びクオにはピアスが、アシュアにはイヤリングが戻ってきた。太陽の剣もクオの手に収まる。
「よし、これで元通りだ」
「……元通りなのはいいから、さっさと手を離せ、クオ」
契約のときのままの体勢だったので、アシュアは顔を赤くしたまま呟いた。
そんな彼女を見て、クオはしばし考えてから
「なあ、アシュア。俺……」
と何か言いかけたとき
ばふっ!
妙に久しぶりな気がする、アッシュの炎が顔にかかった。
「あちっ!」
反射的に2人は離れる形になり、アッシュは満足そうにアシュアの肩に乗った。
「アッシュ、無事でよかった」
アシュアがアッシュの頭を撫でると、アッシュは嬉しそうに鳴いて、それからクオのほうをぎろりと睨んだ。
(う! こいつ……)
クオは恨めしげに竜を眺めつつ、それでも本当に安心したようなアシュアを見て、まあよしとした。
2人がギリアート家の屋敷に戻ると、なぜか門の前に車が出ていて
「あ! アシュアちゃんとクオ君だ!」
ソラが窓から身を乗り出す形で叫んだ。
運転席からベインが、後部席からメリアも降りてきて、
「無事だったんだな! 今から探しに行こうと思ってたとこだったんだ!」
ベインが涙を拭いながらクオの頭をかきむしった。
「ほんと、ほんとにっ、良かったですわ!」
メリアも泣きながらアシュアに抱きついた。
「心配かけてすまなかった。全部、終わったよ」
アシュアが、そう言った。
大陸の北を覆っていた影が消えたという知らせは、瞬く間に大陸を駆け巡った。
「ふわー! 世界も平和になったものねえ……」
ギリアート家のテラスで、ジュースをかき混ぜながらソラが言った。
「ほんと。このままいくとマジでギリアート氏が王様になっちゃうのかな。すると私は王様お抱えの医者になるわけかー。給料上がるかな」
その傍らでサングラスを掛けたジュリ女史が昼間からカラフルなカクテルを飲んでいた。
「……だらけすぎだろ、お前ら」
その傍らに座っているアシュアは、頭の上にアッシュを乗せたまま武器カタログなる物騒なものを読んでいた。
「アシュアさん、そんなものを見てどうしたんですの?」
その向かいに座って紅茶を飲んでいるメリアが興味津々に尋ねてきた。
「え? いや、石を楽園に返しちゃったから新しい必殺武器がいるかなーって……」
と、アシュアはカタログをめくる。
「ちょっとアシュアちゃん、こんな平和な世界にそんな必殺武器とかいるの? いらないでしょー」
とソラは笑う。
「いや、このご時勢まだまだ何が起こるか分からないだろ? ソラはいいよ、もうすぐ主婦になるんだもんな」
と、珍しくアシュアはからかい気味にそう言った。
ソラは顔を赤くして
「なっなな! そっちこそクオ君とはどうなってるのよ!」
と反撃した。
「なんでそこでクオが出て来るんだよ! あいつはただの剣士だって言ってるだろ!」
とアシュアが言い返すと
「ふーん? ただの剣士と2回もキスするのー?」
ソラがにやりと笑う。
「え、2回も? したの? この子が?」
と、ジュリ女史はサングラスをずらしつつ驚く。
「あらあら」
とメリアも手を頬にあてて笑う。
「んな!? ちょ、なんでソラがそんなこと知ってるんだよ! ていうか! それは契約の儀式だろ!」
アシュアの慌てる様子を見て、3人はくすくすと笑う。
アシュアの顔はどんどん赤くなって、しまいにそっぽを向いた。
すると町へ出ていたクオとベインが庭先から戻ってきた。
「アシュア、南の洞窟で正体不明の怪物が出たって噂が町で流れてるぞ!」
クオが下から言う。
「怪物? 竜か?」
アシュアがテラスから身を乗り出す。
「さあ、そこまでは。とりあえず集落の長が懸賞金出したって!」
それを聞いてソラも身を乗り出す。
「いくらくらい?」
「そこの集落の近くに金脈があるらしくってな、結構な額をくれるらしいぞ」
ベインがそう言った。
「よーし! 行きますか!」
ソラが歓声を上げる。
「おい、主婦になるんじゃなかったのか?」
アシュアが言うと
「結婚資金も結構いるのよー! さあアシュアちゃん、クオ君、どっちが先に狩れるか勝負よ勝負! ベイン、行くわよ!」
そう言ってソラはテラスから飛び降り、ベインに抱きついた。
「うっわー、見せ付けるわね」
ジュリ女史が独身を代表してそう言った。
「……クオ、行くぞ」
アシュアもテラスから飛び降りようとするが
「彼に向かってダイブ?」
と横からジュリ女史が言うので
「んなことせんわっ!」
と叫んでいたら、
「あ、アシュアさん、危ない!」
メリアが注意したとおり、アシュアは足を踏み外した。
「え」
気が付けば、彼女はクオに抱えられていた。
「アシュア、大丈夫か?」
「ぷっ! 結局そうなるのね! ひゅーひゅー」
と上からジュリ女史が冷やかすので
「う、うるさいなっ! 早く降ろせ馬鹿!」
アシュアはぱしりとクオの頭をはたいた。
(……八つ当たりだー)
クオはしぶしぶ彼女を降ろす。
「皆さん、気をつけていってらしてね。お土産も忘れずに〜」
上からメリアがちゃっかり土産を所望しつつ手を振った。
「賞金稼げたらちょっと分けてね〜」
その隣でジュリ女史も手を振った。
そんな2人を背に、アシュアとクオは目を合わせる。
「……結局こんな生活か」
アシュアは溜め息をつくが
「いいじゃん。まだお嫁さんに行く予定はないんだろ?」
クオが笑う。
「ふん! 馬鹿言ってないで行くぞ、クオ!」
アッシュを肩に乗せて、アシュアが走り出す。
「あ、待てよ! アシュアっ!」
クオがその後に続く。
蒼天に昇る太陽の祝福を受けて、2人はまた、世界へ飛び出した。
1年半にわたる連載、ここに完結&終了・・・。
連載中断とかものすごくはさんだので実際もうちょっと短いはずなんですが(汗)!
その節は本当に申し訳なかったです。でもまた書き出そうと思ったのは中断中にコメント送ってくださった方がいてくださったり、読者数がじわりじわりと伸びていたことを受けてのことなので、本当にこの作品、最終回を迎えられたのは読者様のおかげです。ありがとうございます!
さて、このお話は中学生のときからずっと頭の中で創ってきた作品なので、今持っている作品の中では1番歴史が古いですし愛着も1番作者としてはあります。これからもあべかわの代表作といえばこの作品を挙げますし、うちの看板娘&息子はいつまでもアシュアとクオです。
ほんと、書きたいことは全部小説の中で書いたような気がするので意外とあとがきに書くことがないなあ・・・(笑)。それにしてもこの作品、ちょっとどころか結構シリアスですよね、ははは。最後のほう、ちょっとはらはらしてほしいんですがどうでしょう・・・いや、私がハッピーエンドしか書かない人だというのをよくご存知の方は生温かい目で見てくれたでしょうか・・・。とりあえず色々暗い部分も多かったこの作品なんですが、全体を通して愉しんでいただけたら幸いです。
・・・と締めくくったところで、えっと、以前行ったキャラアンケの時にお約束したおまけエピソードはこの作品のアフターエピソードとして私の携帯サイト、PCサイトの両方で掲載を予定しています(9月中には出来れば挙げたいと)。興味がございましたらお好きな環境のほうでご覧下さい。ちなみにアフターエピソードになると余計に甘くなる傾向が私の中であります、フフフ。何が足りないってラブラブが足りない!
ついでに(汗)現在PCサイトのほうで太楽の漫画も始めました。こちらも興味がございましたら(以下略)。
・・・というわけで長々とやってきましたが一応本編はここまで、ということで(じーん)・・・。
もうここまで長いお話は書くことないかなーと思いつつ、苦しかったけどやっぱり楽しかったです。それではこのあたりで。
最後まで2人の旅に付き合ってくださった皆さん、本当にありがとうございました!
またどこかでお会いできることを願いつつ・・・・。
p.s.評価感想、いつでもお待ちしています!評価なんてなくても感想だけでも充分ですので気が向いたら送ってやってください。
9月14日追記。
アフターエピソード、携帯サイト&PCサイトに本日アップしました。
両サイトへはこの小説のTOPページにリンクが貼ってあります。