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第23話:誓いの言葉

「は!? ちょ!?」

突然の出来事に慌てるアシュアだったが、今になって左肩は上がらないし今の体勢だと足も動かせない。

「お……おいクオ!! な、にやって……だこのば……」

か、と罵倒すらうまく掛けられない。

そんな間にクオは傷口を舐め始めている。

「っ!」

顔が赤くなっていくのが自分でも分かる。

それがどうしようもなく恥ずかしくてさらに顔が熱くなる。

(く、くすぐったいし、ていうか頭……というか顔がすぐ近くにありすぎて色々とまずい……って何がまずいのかよく分からんが! とにかくやめんかーーーー!!)

そんな彼女の気も知らないで、クオはまだやめようとしない。

「〜〜〜〜〜!!!」

仕方ないので空いていた右手で渾身の『ぐー』を相手のみぞおちにお見舞いしてやった。

「っふご!!」

途端クオは腹を押さえて目の前でうずくまった。

即座に襟元を直して立ち上がろうとしたアシュアだったが、不覚にも腰が抜けているようで(いつ抜けたのかは定かではない)右手を使って横にスライドし、ほんの少しだけだがクオと距離をとった。

「お前ってやつは! 気でも狂ったかこの変態ッ!!!」

顔は勿論真っ赤なままで、それでも精一杯叫んでいた。

「ぅ……な! お前なあ! 俺がそうしたら変態っつーんだろ!? なんで吸血鬼にはそういう反応しないんだよアシュアの馬鹿!!!」

と、腹部を抱えて叫び返したクオは、なぜかアシュアより泣きかけだった。

「…………は!?」

アシュアはそれに少したじろぐ。

というより彼の言っていることがさっぱり分からない。

(え……と? 変態……って言われたことに怒ってるんじゃなくて……吸血鬼に……って訳分からん!)

「お、お前は結局何がしたかったんだよ! 訳が分からん!!」

「お……俺はただ……」

と、クオが俯き加減で言いかけたとき

「消毒、でしょ?」

と、女の声が割り込んだ。

ふと見上げるといつの間にかクオの後ろにソラが立っていた。

「「え」」

クオとアシュアは声を揃えて間の抜けた声を発した。

「な! そ、ソラ!! お前いつから!?」

アシュアが更に真っ赤になって叫ぶ。

くすりと『大人』な笑いを浮かべてソラは言う。

「……まあ、クオ君が来た後すぐくらいかな」

((うーーーわーーーーー))

クオのほうも頭がぐらぐらしだした。

「……って、しょ、消毒ってなんだよ!!」

アシュアがソラに尋ねる。

「え? 要するにそういうことなんじゃないの?」

と、今度はソラがクオに尋ねる。

「え……あ……」

(……確かに、言われてみれば……そう、かも……)

とクオは冷静に考える。実際あまり考えていなかった、と彼女の前で言ったりしたら本気であの世まで蹴飛ばされそうだ。

「そ、そうだ!!! 傷って唾つけときゃ治るとか言うだろ!!」

とクオは虚勢を張る。

その様子を見て思わずソラは心の中で突っ込んだ。

(それなんか違うよクオ君)

しかしアシュアのほうは真に受けているようで

「あ、あのな! それだったら別に自分で……」

と言いかけるが

(……いや、無理か……)

と首筋を見ようとするが、傷口は自分からすると死角である。

「…………でも別にいらんし」

そう恨み言のように呟いて、それきりアシュアは黙り込んだ。

クオはひとまずほっとする。

(いやー……結構無茶苦茶ねこの二人……)

と、ソラは2人を眺めていた。

するとベインが向こうのほうに見えて、

「おーい! 向こうのチンピラ共、一気に気絶したぞ!」

と手を振っている。

「親元も退治したことだし、これでやっとひと段落かー。タートル・タウンで捕まってからのことを考えると、長かったわー……」

ソラはその場でひと伸びする。

「……じゃあそいつら、手近な警察に引き渡す準備でもするか……」

と、アシュアは立ち上がろうとするが、途端にまたへたり込む。

(う)

まだ動けないようだ。

ここまで立ち直りが遅いということは、恐らく、頭を撃ちぬいたはずの吸血鬼が起き上がった時点で腰が抜けていたのだろうが、その後のクオのあれのせいで二度に渡って腰を抜かしたらしい。

「アシュア? ……立てないとか?」

既に立ち上がっているクオが、なんとなく意地悪げな表情で見下ろす。

「……う、うるさい! 立てる!」

と、手で後ろの壁を支えようとしたが

(……う)

左手も肩のせいで動かないこともあり、無理があった。

「……たく、1人で無理するからだぞ!」

と、クオが一気にアシュアを抱え上げた。

「ぅあっ! ちょっと待て! おろせ馬鹿!」

と、アシュアは足をばたつかせるが、全くもって力が篭らない。

「おろさない」

クオは既にむきになっている。

彼としてはこれ以上彼女に無理はさせられないのだ。

「なっ! 主人の言うことくらい聞け!!」

「そっちこそ剣士を置いてそそくさと先陣切るなよ!! そんなだからこんなにズタボロになるんだ!」

「う、うるさいな! お前こそチンピラ相手にえらくボロボロじゃないか! それでも私の剣士か!」


その言葉が、なぜか彼の頭の中でこだまする。

そう、彼女はとうに、剣士として彼を認めてくれているのだ。

ならどうしていつも、彼を遠ざけようとするのか。

……今ならそれが、彼にはなんとなく分かった。


「俺はこれでもお前の剣士だ!! けどな! お前の傍にいないと意味が無いんだ!! 分かるか!?」

クオが真っ直ぐにアシュアを見つめる。

その真っ直ぐさに少しアシュアは気圧される。

「お前、何か前から勘違いしてるけどな、俺は守られるためにいるんじゃない。守るためにいるんだ!」

「…………」

アシュアは、文字通り目を丸くした。

飼い犬に噛まれた、といった感じで少しばかりばつが悪くなり、俯く。

「……それに……俺は死なない」

クオはそう言った。

「……え?」

 アシュアは再び顔を上げた。

「お前の前で、無様に死ぬなんてことは絶対にしない。約束する」

そう言い切った彼は、真剣そのものだった。

「…………」

 彼女は常々思っていた。

大切なものが傷ついて、無くなっていくのを見るのはもうたくさんだ、と。

それを彼に見抜かれたかと思うと、どこか少しだけ不愉快、というより気恥ずかしかったが

「…………約束は守れ。もし破ってみろ、私がお前を閻魔の御前まで蹴り落としてやるからな」

ぶっきらぼうに脅し文句を付けてそう言った彼女は、けれど心のうちでは自分でも驚くほど安堵に似たものを感じていた。

「……ああ!」

そう頷いたクオは、いつもの少年の笑顔だった。

その、なぜか久しぶりのような気がする笑顔に照れくさくなって、アシュアは頬を赤らめつつ俯いた。


なんだかその光景がとても微笑ましく、良い雰囲気だったのだが。

「…………あのー。移動、するわよ?」

いつまでもそうさせているわけにもいかず、ソラは申し訳なさそうに切り出した。

「「!! あ、ああ!!」」

すっかりソラのことを忘れていたクオとアシュアはハモりつつ答える。

思わずそれにソラは吹き出す。

「あはははは〜いいなあ若いって!」

とやけにじじくさいセリフを吐いてソラは口笛を吹きつつ歩き出す。

「ちょ!? どういう意味だそれ!!」

アシュアがまた顔を赤くして反論する。

「そ、ソラだって十分若いだろ!!」

クオも乗じる。

「いやー。やっぱ10代とは20代って、違うもんよ?」

とソラが意味ありげに眉をひそめる。

何か考えているようだ。

「……何かあったのかな?」

クオがアシュアに小声で尋ねる。

「……おそらくな」

アシュアも小声で答える。

「何を楽しそうに話してんだ?」

と、そこにベインがやってきて会話に混ざろうとする。

「いや、別に?」

ソラが半眼でベインを見る。

「な、なんだよソラ。俺なんかしたか?」

急に彼女の機嫌が悪くなっているようでベインはそわそわと慌てだす。

どうにもベインはソラの尻に敷かれているようだ。

そんな2人を見ているのも、アシュア達にしては微笑ましかった。



まず再び町長の家を訪ね、大勢の気絶したチンピラをありったけの縄で縛り、この町の伝書鳩(まだこんなものがあったのかと4人は驚いた)を使って南隣の町に連絡を入れた。

明日には警察の輸送車が到着するだろうということだ。


 チンピラが一気に捕まったという町長のアナウンスを聞いて、町の人々が一斉に外に出てきた。さすがに高齢の町人が多く、暮らしも豊かではないだろうに、お礼ということで、アシュア達に酒を持ってきたりする人もいた。

さらに、今日1日宿を貸してくれるという人も出てきてくれた。

まだアッシュが戻ってきていないので、それは非常に有り難かった。



 宿を提供してくれたのは、気さくそうな初老の女で、昔はタートル・タウンで宿屋を経営していたらしいが、激しい経営競争に負けてここにやってきたという。本当は宿屋を続けたかったらしいが、この町のこの寂れようを見て、無理だと判断したそうだ。

「たんと食べてね。食材はご近所さんが持ち寄ってくれたから」

と、出される料理も想像以上に豪華だったりした。

この町にしては珍しく、その家は2階建てで、2階にある部屋のうち1つをアシュアとソラ、もう1つをクオとベインが使わせてもらうことになった。


 夜になって、アシュアたちのほうの部屋の窓を何かが叩いた。

「あ」

アシュアが窓を開けると、アッシュが胸に飛び込んできた。

「ご苦労さん、アッシュ。往復は疲れたか?」

アシュアがその額を撫でるとアッシュは一声鳴いて、そのまま眠りに入ってしまった。

「あらあら、随分疲れたみたいね。……まあ、私たちもおんなじか」

と、寝支度ばっちりなソラが布団の上で笑う。

「そうだな……と」

アシュアはアッシュの足にくくりつけられた紙に気付く。

彼を起こさぬようそっと解いて、広げる。

「サリエルからだ」

アシュアは黙読する。

『アシュアへ。もう吸血鳥退治は済んだ? 4人とも強そうだったから心配はしてないわ。ところで町に番長とかキース、キャシーも帰ってきてたわ! アシュア達のおかげよ! アシュアに会ったって話したら、皆会いたがってたわ、特に番長が(笑)。すぐまた帰ってきてね!   サリエルより』

(手紙でも元気だなあ……サリエルは……)

とアシュアは半分呆れつつ半分和んでいたが

(ん?)

手紙の裏にまだ文字があった。

『p.s.クオ君って可愛いけどかっこいいよね! がんばれ!!』

(な! 何を頑張るんだ何を!!!)

とアシュアは1人赤面していた。

するといつの間にか後ろにソラがいて

「ははーん」

なんて意味ありげに笑う。

「な! なんだ『ははーん』て!!」

アシュアはばばっと手紙を隠す。

「ううん、何でもない」

と笑顔でソラはまた布団に戻っていく。

アシュアも疲れていたので布団に入る。

ソラも布団にもぐって、もう寝るのかと思いきや、

「ねえ、アシュアちゃんとクオ君って、どういう関係?」

なんて尋ねてきた。

「!? ど、どういうって……主と剣士だ!」

アシュアが即答する。

それにまたソラはくすりと笑ったようだが、アシュアからは見えない。

「へー。クオ君って生粋の剣士ってやつよね? どこで知り合ったの?」

興味があるらしく、まだ眠る気はないようだ。

「……王都の近くの、カラザって町だ」

「カラザか……ベインと行ったことあるかも。砂漠の近くよね?」

「ああ」

「……そこで契約したの?」

「ああ」

「契約ってさ、確かキスじゃなかった?」

ぶはっ!!

「な! ちょ! なんでそんなこと知ってるんだ!!」

アシュアは左肩の痛みも忘れて思わず起き上がる。

(結構忘れかけてたとこだったのに!!!)

「いやあ、長いこと旅をしてるといろんなものを見るわけよ。とある町で剣士と貴族が契約する儀式を見たことがあるの。それはもう見事なキスだったわー」

と、ソラが思い出話のように話すからアシュアは少し想像をしてしまった。

我に返ってまた布団に倒れこみ、叫ぶ。

「っっ!! そのことはもう忘れた!!!」

「そうなんだー……」

ソラはまだ楽しそうに笑っているようだ。

「そういうソラはどうなんだ! ベインとはずっと一緒にいるんだろ!?」

話を逸らしたかったのか、アシュアは普段なら絶対にしない他人の詮索とやらをしていた。

「ん? そうねー。一緒に渡り歩いて、もう10年になるかしら……」

「10年!?」

アシュアはその年月に少し驚いた。

「10年なんてあっという間よ? 気がつけばもうこんな歳……」

「こんな歳って……まだ……」

「25だけどね。でもねー……」

「でも、なんだ? 昼間も何か言ってたが……」

「……ベイン、昔のほうが大胆だったわ」

ぶはっ!!

「な! 何が大胆なんだ何が!!」

「ふふ。色々とね。どーも歳を重ねるごとに奥手になってる気がするのよ、アイツ」

見えないが、アシュアにはソラが今、腕組をしているような気がした。

「だからね、今日のクオ君のあれ、実は結構儲けものよ?」

と、ソラは言った。

「も、儲けもの?」

アシュアは困惑する。

やっぱりソラの言っていることは分かりにくい。

ソラとの歳の差、実に9年。

9年というのはここまで大きな差なのか。

「……ふふ。おやすみ、アシュアちゃん」

「……おやすみ……」

と言いつつ、アシュアはしばらく寝付けなかった。

・・・・甘かったですかね・・・・(汗)。

さて、次回のお話はちょっと番外編?のようなお話になります。幕間3のレイドの回想にちらっと出てきた女神の小エピソードです。


・・・・・・もっと甘いです(ニヤリ)。

アシュア「もっと!?」(後ろにひく)


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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