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第21話:吸血鬼

 翌朝、サリエルと名残惜しくも別れ、アッシュに彼女を送らせた。この竜ならあとからでも追ってこられると踏んだのである。

そしてアシュアとクオ、ベインとソラは、少し急ぎ足で次の町・ソリッドに向かっていた。

「ところで、『不死身の魔女』って異名から想像してたイメージと随分違うな、ソラは」

と、歩を進めながらアシュアが言う。昨日の時点で「さん付けはいい」と彼女から言われたので既に呼び捨てだった。ソラのほうはというと自分のほうが年上だと知って、なぜか喜んで『ちゃん付け、君付け』にしてきた。

「? それって意外と若いってこと? それはそっちも同じよ。赤髪の魔女が私より年下だとは思わなかったわ」

と、ソラは苦笑して言う。

「……いやまあ、なんというか……」

とアシュアは言葉を濁す。

ソラはベインと同い年だという。

しかし彼らを並べて見ると、どうもそれには納得いかないほど、ソラは若く見えた。もう二十歳はたちは超えているというが、まるでそうは見えないくらい『少女』といった形容が当てはまる。というより、並んでいるベインが老け顔というのも一因ではあるのだが。

「……まあいいか。ところでソラ、『落ちても死なない』って話だが……」

「ああ、それね。……実は、私にもよく分かってないんだけど……」

と、ソラは言いにくそうに言葉を濁す。

「どういうことだ?」

アシュアは少し驚いて訊き返す。

「いやね、今までのがどれもまぐれって言ったらおかしいんだけど……小さいころ間違って木から落っこちたときも、カタストロファーに追い詰められてビルから落ちたときも、盗賊に追いかけられて崖から落ちたときも、全部一応は落ちてるわけ。普通に」

(……この人ドジか?)

とアシュアは思った。

「……じゃあなんでお前、死んでねえんだ?」

と、ベインが不思議そうに訊く。彼も仕組みについては聞いたことがなかったのだ。

「……何かに跳ね返されるって感じ? 空気っていうかなんていうか。気がついたらもとの場所に戻るの」

と、けろっと彼女は言った。

「……なんだそれは」

アシュアは呆れる。

「それって結局はなんだ? 超能力か?」

「さー。でもさ、案外誰でも出来るんじゃないかなあ?」

「いや、そんなの皆が皆出来たらおかしいだろ」

「そう?」

「そうだ」

アシュアは断言した。

「……結局何かいいヒントになったか?」

とクオが訊いてくる。

「……分からん」

太陽の楽園に繋がる道かと考えてみたがどうにも信憑性が薄い。

と、前方に集落らしきものが見えてきたのでこの話は一旦止める。

「あれがソリッドか?」

「ああ、昔は都市化を進めて栄えてたらしいが今じゃ人口が減りに減って、すんげえ寂れてる。勿論警察とか、そういう機関もない。それにつけこんで外から来た居場所のねえチンピラが居座ってる。治安の悪さで有名だ」

とベイン。

「ベイン、行ったことあるような言い草だな」

とクオが尋ねる。

「ああ、随分前にな。とあるヤクザの捕縛を頼まれてソラと来たことがあったんだが」

「あの時も大変だったわ。まず宿屋はないしチンピラはからんでくるしで」

「……そんなところにあの吸血鳥が入ったらどうなるんだ……?」

「さあな。見てみりゃわかるさ」




 ソリッドの町には、人ひとり外に出ていなかった。

「……やっぱり吸血鳥が飛び回ったのを見て避難したのかな?」

とクオがあたりを見回して言う。

「……じゃあその吸血鳥はどこにいるんだ。声も聞こえないぞ」

と、アシュアが言う。

するとおもむろに、1軒の小さな家の戸がゆっくりと開いた。

「……?」

出てきたのは初老の男である。足が悪いのか杖をついている。

「……あんさんたち、どこから来たんだ?」

生気のない声で男は尋ねてきた。

「タートル・タウンだ。吸血鳥を追ってきた」

とベインが答える。

「……やはりな。あの悪魔はタートル・タウン潜んどったんだな……」

「この町に降りたんだな。今どこにいるんだ?」

「……分からん。昨日は外を何匹か飛びまわっとったんだが、今朝になると声も聞こえんくなった。ついでに、家を持たん輩の姿も見えんくなったよ……」

(家を持たない輩って……)

「この町に居座ってるチンピラのことか?」

「ああ。吸血鳥がやってきてからも面白がって銃で撃ったりしよったがな、今朝になるとそいつらの姿も見えんくなった。……鳥にでも食われたかな……」

と、男は妙に皮肉そうに笑って、また家の中へ入っていった。

よくよく見ると男の家の扉には『町長宅』と書いてある。

「しかし妙だな。鳥は血を吸うだけだろ?血を抜かれて転がってるってんなら分かるが姿が見えなくなるってのは変だ」

とベインが考察する。

「……いや、もしかすると、鳥が人になったかもしれん」

と顔を青くしてアシュアが言う。

「「「は?」」」

その場の全員が聞き返す。アシュアは昨日タートル・タウンの養鶏場で見たことをアシュアはまだ言っていなかったのだ。

手短に話す。

「そ、それはまずいんじゃねえか? もともとあの古の悪魔っていうのは人の形をしてたって聞いたことがある。それが衰えて仕方なく鳥になったって……」

とベインが言う。

「じゃあその人型になったやつは、ほぼその昔の力を取り戻してるってこと?」

と、ソラ。

「え、ちょっと待てよ。でもその人型だって血を吸う化け物には変わりないだろ? さっきのおっちゃんじゃないけど、人を食ったりするのか?」

とクオ。

「それは……さすがに、ないと思うが……」

とアシュアは呟く。そんな想像したくもない。

「……でも遥か昔、どうやってあの吸血鳥が大きな都を滅ぼすに至ったか、知ってる?」

と、ソラが神妙な顔でアシュアたちに尋ねる。

「……いや……」

「正確な記述は残ってないらしいけど、衰えを知らない頃の奴は、血を吸った相手を同じ化け物にすることが出来たって噂よ……」

「そ、それってまさに吸血鬼じゃないか……!」

クオがごくりと喉を鳴らす。

「……しかしその噂が本当だったら……」

「外にいたチンピラは吸血鬼に噛まれて、今頃奴の下僕になってるってわけね」

と、ソラが言い終えたころ、

「おい、あれ」

とベインが前方を指差した。

廃屋の陰に、人影が見える。

それは、ゆらりと歩いていたが、こちらに気付いたのか、さっと走り去った。

「追うぞ! あっちは奴らの溜まり場だったからな!」

ベインが走り出したのを見て3人は続いた。



 住宅が並んでいた近辺も寂れていたが、またそれとはうってちがって、そこは別世界だった。無駄に背の高い廃墟が並んでいて、薄暗い。このあたりはカラザの町の廃ビル街を思い出させた。ゴロツキが集まるにはちょうどいい場所なのかもしれなかった。

「……さっきの奴、どこに行った?」

数年前ベイン達が訪れたときは、ここに入ると多くの柄の悪い男達が睨んできたり冷やかしたりと賑やかだったが、今ではその面影すらなく、恐ろしいほど静寂だった。

…………カラン。

その音で静寂は破られた。

「! 上だ!!」

アシュアが叫ぶ。

見上げると、周りの建物の上に多数の男達が立っていた。

目はすでに人間のそれでなく、暗示にでもかけられたような、そんな虚ろな目だった。

「来るぞ!」

男達が一斉に飛び降りてくる。

見ている側からは集団自殺とも思える光景だったが、男達は難なく着地しアシュアたちに向かってきた。

アシュアは銃を取り出そうとしたが

「こいつら、まだ生きてるのか!?」

ふとそう思って蹴り飛ばしながら尋ねる。

「あー……」

ベインが力任せに1人の男の首を引き寄せ手を当てる。

確かに、脈打っていた。

「……生きてるなあー……」

「ちょ、それまずくない!? どうすりゃいいのよ!」

ソラが槍の柄のほうで男を殴りながら叫ぶ。

「あぃたっ!!」

ベインが首を押さえていた男がベインの手に噛み付いた。

ベインはすかさず男を殴り飛ばす。

「ちょっとベイン、噛まれたの!? 大丈夫なの!?」

ソラが顔を青くする。

「なんとも、ないが……?」

と苦笑しつつベインが首をかしげる。

すると妙に場違いな、落ち着いた声が聞こえた。

「下僕に噛まれても感染はしない。親の吸血鬼本体に噛まれた者だけが下僕になるんだ」

と。

「誰だ!?」

ベインが周りを見渡すが、いるのはチンピラだけ。

しかしアシュアとクオにはその声の主が分かった。

((レイドリーグ……!?))

姿が見えないということはどこかの影にでも潜んでいるのだろうか。

「レイドリーグ! お前一体何のつもりだ!」

アシュアが姿の見えない相手に叫ぶ。

「言っただろう? 俺にはもう帰るところもないんだ。暇つぶしだよ」

アシュアには、かの男がうすら笑っている様子が目に浮かぶ。

「っ!!」

アシュアが舌打ちするが

「おい、知り合いか?」

とベインは尋ねてくる。レイドリーグが助言めいた真似をするから彼のことを味方だと勘違いしているようだ。

知り合いといえば知り合いだが、アシュアにとってはそんな生ぬるいものではない。彼は祖父の敵で、人の形をしていても、カタストロファーなのだから。

アシュアがそのことをベインに言う前に

「おい、じゃあどうすりゃいいんだ? こいつらを元に戻すには」

姿の見えないレイドリーグに向かってベインが悠長に尋ねていた。

「おいベイン……」

「簡単だ。親の吸血鬼を倒せばいい。千年以上生きた老いぼれ悪魔をな」

レイドリーグはすんなり答えていた。

(……!?)

(セレンディアのときもそうだったが、どうして助言なんかするんだ? 奴は)

アシュアにしてみれば、妙に裏があるようで気持ち悪かった。

「レイドリーグ、お前一体何を考えてる!?」

そんな彼女の心中をクオが代弁してくれた。

「何も考えていない」

レイドリーグはそれっきり、黙った。

実際その場から退場したのである。日が昇って、影がなくなってきたからだ。


実際何も考えていなかった。

助言する必要もないのだが、なぜか口を出してしまう。 

向こうは妙に思っていることだろう。

だが、こちらとて妙なのだ。

それでも、忘れたくない面影を追い続けていた。

ただ、それだけ。


「……我ながらよく分からん生き物だな……」

レイドリーグはそう、独りごちた。



「あー! 畜生! こいつら殴っても気絶しねえぞ!」

ベインがやけになりつつ叫ぶ。

チンピラたちは倒れても何度でも立ち上がってきていた。まるで、生きているのにゾンビのようだ。

「きりがないわね……やっぱり親元を探さないと!」

ソラも息を切らしつつアシュアに言う。

「仕方ない。私は本体を探しにいく! ここはなんとかしてくれるか」

とアシュアが答えた。

それにベインとソラは頷きで返したが

「あ、ちょ! アシュア! 俺も行くっ!!」

と、すかさずクオは言う。しかし

「お前はここにいろ、ベインとソラだけじゃ数で不利だ」

とアシュアは返した。

(いや、確かにそうだけど……)

とクオが考えている間にアシュアは男達の間をすり抜けて走っていってしまった。

「あーーーーー……」

と叫ぶのも虚しくクオは置いていかれてしまった。

「まあ坊主、こいつら何とかして縛り上げるでもなんでもして早く駆けつけようぜ」

とベインが彼を慰めた。

「もーーー俺あいつの側にいないと意味ないんだってば!!!」

やけになりながらクオは男を剣の柄で殴り飛ばした。



 アシュアが廃屋街を奥へ進むと何かの工場跡のようなところに出た。周りにはもう主だった建物はない。

(……ここか?)

「!!!」

刹那、上から何かの気配を感じ、勘任せに後ろずさった。

軽い音を立てて目前に降りてきたのは、男。

奪ったのだろうか、さっきのチンピラ達が着ていたような軽い感じのシャツを纏っている。

しかし男の容貌は一目で奴らとの違いを感じさせた。

銀というより白に近い髪。

人間離れした鋭い金色の眼。

とがった耳、少々目立つ牙。

養鶏場で見たものよりかは服を着ているせいか随分と人間らしく見えるが、それは見た目だけ。

存在感は、前のものよりさらに大きい。

最初にダンテ卿の血を吸いつくしたあの大きなコウモリと同等、それ以上の邪悪さを全身で感じとれる。

「……お前は、柩の前にいた女だな……」

 男は流暢な言葉を発した。

「!」

(こいつ、喋った……!?)

騎士型のカタストロファーが喋ったときも驚いたが、このときも息を呑むほどアシュアは驚いた。

昨日のやつは、本能的に目の前にいる障害物を排除しようとしていたようにしか見えなかったし、言葉も、それとは到底言えない断末魔の叫び声しか聞かなかった。

目の前のソレは、本当に、稀代の悪魔となってしまったのかもしれない。

「……あの男の血もなかなかの味だったが……お前の血もうまそうだな。そこらのより随分上等そうだ」

男はそう言って、舌なめずりをした。

その様子が癇に障ったのか、アシュアは眉をひそめる。が、それもほんの一瞬で、次には自然と挑発をかけていた。

「……自分の血でも嘗めていろ」


作者「今回のあとがきはいつもと違った感じを出すためにゲストをお呼びしました」

アシュア「どうも」

作「ついにめっきり春めいて4月を迎えてしまったわけで、新学期等々始まりますが、本年度はあの警告赤字を出さないことを目標に頑張りたいと思います」

ア「それを目標にする時点で間違っている。他の作者を見習え、週1更新は当たり前のように更新しているぞ」

作「・・ごもっともです」

ア「貴様のブランク開けすぎ×3回のせいでどれだけ読者数が減ったと思ってるんだ全く・・・」

作「ぶっちゃけ言いますと現時点の最新話読者数は第1話の読者数の20分の1です」

ア「・・・切腹しろ・・・」

作「でも私は決めました。読者数が最後の1人になるまで書き続けます」

ア「それ、聞こえようによっては間違いを起こすぞ。要は『誰か1人でも読んでくれる人がいるなら最後まで書けます』と言いたいんだろ?」

作「そうです。いやありがとうアシュりん」

ア「アシュりんってなんだアシュりんて!!」

作「というわけで今回も読んでくださった皆さん、ありがとうございました!実は今回の章はストックできているので週1更新の約束は守れそうです。今のうちに書きためます・・!!」

ア「今後ともよろしく頼む・・・馬鹿な作者ですまない・・・」

(END)


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