表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/48

幕間5

帰った後の昼食時にも夕飯時にもアシュアとキルトはどうも顔を合わせにくいのか、一言も言葉を交わさなかった。

ハインド老人はやれやれといった顔で2人を眺め、クオはクオでそわそわしながら2人を見守っていた。

「じいちゃん、明日にはもう発つから」

そう言い残してアシュアがそそくさと自宅に戻った後、キルトはまだリビングでお茶を飲んでいたクオに声をかける。

「クオ君、ちょっと外で話さない?」

「え……うん」

正直クオのほうもどう接すべきか困っているのだが、断るわけにもいかずそう答えた。


 すっかり日は落ちて、涼しい風が吹いていた。静かな夜だ。街からカタストロファーがいなくなったことはハインド老人が町長に手紙を書いて送ったそうだ。明日には町の入り口に立ててあった注意書きも撤去されるだろう。

「おかげで街から離れてた皆も戻ってこられるよ。ありがとう」

キルトは街を眺めながらそう言った。

「え……あー……お礼はアシュアに言ったほうが……」

とクオは本心から言ったのだが、言った直後にまずかったかと後悔した。

キルトは苦笑する。

「アシュアと話しづらくなっちゃったからなあ……」

正直半分泣きかけの声である。

「あ……」

こういう時、どう声をかけるべきなのか。クオはあたふたと考えるがまったく気の利いた言葉が思いつかない。

けれど。

「でもキルト、ちゃんとアシュアに言えたんだよな?」

 その点は『すごい』と思ってクオは褒めるつもりでいた。が。

「……うん。プロポーズした」

「ぷ、ぷろぽーず!?」

クオはそこまでは予想していなかったのか目の前の少年の意外な大胆さに慄く。

「……? だってさ、アシュア、いいお嫁さんになると思わない?」

キルトは不思議そうにクオを見つめる。

「え、あー……」

(……そういえばそんな妄想というか想像を俺は今日の昼間していたような……)

「思うでしょ? だから結婚してほしいって言ったんだ。彼女にはそんな、普通の生活も似合うと思うから……」

キルトはどこか遠くを見て言った。

クオも分からなくはない。同じことを昼間考えていたのだから。

「でも、そんなのは自分じゃないって。アシュアがそう言ってた」

(……それで振られたのか)

クオは思わず苦笑していた。

「……あいつらしいな」

「……僕もそう思うよ」

2人はしばしそのまま黙っていた。

すると、突然後ろから

「おい」

と、ぶっきらぼうな声がした。

「!?」

2人が振り返ると、そこにはまさに話題の人、アシュアが立っていた。

いつからそこにいたのかは分からないが、どうにも視線を泳がせていて、少しは2人の話を聞いてしまったようだ。

「あ、アシュア……」

キルトは妙に安堵したような声を発していた。もう会話することすら出来ないのではないかと途方に暮れていたのである。

「……たくお前らは。勝手に私の将来を良いように描いてくれるな」

と、アシュアは腕組をしつつ若干不機嫌である。

「あはは……」

と笑うしかない2人。

「……キルト」

アシュアは帰ってきてから、初めてキルトの顔を直視する。

やはりよく見ると、8年前よりかはずっと凛々しくなっていた。

「その……昼間は正直驚いた。キルトも随分言うようになったな……って」

それは心から思ったことだった。もうあの、言いたいことも満足に言いだせない弱虫のキルトではないのだ、と彼女は今日、思い知った。

キルトは呆気にとられていた。

クオはすっかり苦笑してしまった。

「アシュア、それはちょっと……」

なんていうか、弟が手から離れた姉のような言い草だとクオは思った。

それにつられてキルトも笑う。

しかしその笑いには涙も混ざる。

しかしその涙には、失恋の悲しみよりも『これでやっと男として認められた』という喜びの感情のほうが多く込められていた。

「へへ…なんか嬉しいな……」

 零れ落ちそうな目尻の涙を指ですくいつつ、キルトは笑った。

「え!? 嬉しいのか!?」

クオはとっさにつっこむ。

「認められるのって、嬉しいことだよ?」

キルトは嘘偽りのない笑顔で、そう言った。

それでクオも納得する。自分も主に認めてもらいたいばかりに、多少無理をするのだから。

「あーもう! 男がめそめそ泣くな! 私が悪いみたいだろ!」

アシュアは照れくさいのか顔を真っ赤にして叫ぶ。

「いや、実際アシュアが泣かせたんだし」

とクオは冗談めかす。

これでようやく妙に緊張した空気は解けた。

「うるさいな! キルト! 今日買った駄菓子持ち帰ったか!?」

「え……あ、うん。居間にあるよ」

「食べるぞ」

「え? さっき晩御飯食べたところだよ?」

「今食べないと食べ損ねるだろうが! クオ、茶を淹れろ」

「イエス、マーム」

そうして夜のお茶会が開かれたのだった。




 翌朝2人は旅支度をしてキルト達の家の前までやってきた。ハインド老人とキルトが見送りに出る。

「またいつでも帰ってくるがよい。家の面倒は見といてやるからの」

と、ハインド老人。

隣にいるキルトは早速また泣き出しそうである。

「…絶対また帰ってきてね! そのときはもっと立派な医者になってるから……!」

アシュアは苦笑しつつ

「ああ。今度帰ってくるときは、世界から黒い雲がなくなってるようにするから」

と、しっかりと言った。

ハインド老人は

「……ほう、となると、そのときお前さんはフリーなわけじゃな」

と、意味ありげに言った。

「……フリー?ああ。まあそうなるか……」

(カタストロファー退治の稼業もなくなってるわけだし……)

 と考えつつアシュアはハインド老人の言葉の裏に何か別の意図を感じ取って

「……ってどういう意味だよキルトのじいちゃん」

 と、すかさず問い詰める。

「ふふん、そのときはいい加減嫁に行く準備でもしてくれたらいいなと思ったんじゃよ」

「っ! 嫁なんか一生行かん!」

 アシュアがそう叫ぶと

「「え」」

と、なぜかキルトとクオが声をハモらせた。

「『え』ってなんだ『え』って!! 何か文句あるのか!?」

「う、ううん!じゃ、じゃあアシュアが何年経っても一人だったら僕と結婚してくれる!?」

 キルトはまたそんなことを言い出した。

「な、なんでそうなるんだ! てかまだあきらめてないのかお前は!」

 アシュアはまた顔を赤くして慌てる。

「うん!アシュアがそんなこと言ってるうちは僕もあきらめないことにした!」

キルトは笑顔だ。

「ほーう、キルト、お前もいつの間にか男になったのう……」

と、しみじみハインド老人は言った。

一方クオはそんな3人の様子を見ながら自分の気持ちを顧みていた。


『嫁なんか一生行かん』の言葉に正直ほっとしている自分がいる。

どうしてだろう?


……そんなの簡単だ。


恐らく、自分が気付いている以上に俺は彼女のことを好いている。

 ただそれだけのこと。


『好き』と『愛している』の境界線は、まだ分からないけれど。


セレンディア編、ひと段落です。ここに入ってから更新が随分と遅れたたこと、重ね重ねになりますが申し訳ありませんでした。

さて、今回はほんのり三角関係(?)でどす黒い泥沼状態になるのかと思いきや、お茶目なハインド老人のおかげでまずまずうまくおさまりました(冷汗)。

今思うとなぜか本作は男性キャラの数が多く、アシュアが逆ハーレム状態(・・何か違う気もしますが)になりつつあることにやっと気づきました(笑)。以前部活で発行していた手作り冊子で連載していたとき(以下、太楽無印)は話数も限られていたのであまり気にならなかったのですが・・・。と、無印の話が出たので少しばかり余談を。太楽無印はセレンディア編の後ぽんぽんとクライマックスを迎えたのですがThe stone of〜は少々肉付け(贅肉の間違いでは・汗)をしているのでそういうわけにも行かず、今後はまずクライマックスに向けて少し冒険に出た展開に出来たらいいなあと思っております。・・最近あとがきも長くてあれなのですがもう少しお付き合いくださると幸いです。

ここまで読んでくださった方々、ありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ