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清火  作者: さらさら
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ただの子供が二人おりまして。

 展開、遅いです。が、私はこれぐらいが好きです、です。

 戦闘とか書きたいですよね。ファンタジーですし。多分、その内魔法も剣術も出てきますし、どーんと幼稚な感じになるかと思います。

 それでもよろしければ……もとい、良かろうが悪かろうが、ぜひぜひ読んで下さい><

 ではでは。

 まだ、ビルもダムもなかった時代。ある時、一人の異能者が生まれた。

 一人の異能者は、十二歳の途中で自らに秘された並外れた身体能力に気付き、十四歳で魔法を使える事を発見した。そして、それが自分だけにある、異能であると理解し、誰にも知られないように一生を終えた。

 彼には、双子の息子が居た。二人の息子も、彼の例に従って異能者として生まれたが、長男は魔法を持たず、次男は運動音痴だった。二人は、十九歳で別れ、二十三歳で争った。二十五歳で次男が長男を殺してしまったが、次男もその後悔いて、自ら命を絶った。

 野に落ちた彼らの死体を、野犬達が貪り食った。その野犬達の糞が、土壌へと変わり、土壌からは多くの花々が咲いた。花々は、花粉を飛ばし、各地にその勢力を伸ばした。

 人間達はその花が、食用に適していると判断した。花は各地で収穫され、市場に流通した。

 こうして、異能の力は徐々にその濃度を下げながら、動植物、そして人間、全てへと広がっていった。

 異能の力が発露したのは、最初の異能者が生まれてから六十年が経とうとしていた頃だった。各地に増えていた野犬、野良猫、山猿の類が、一斉に凶暴化・知能化したのである。各地の小さな村は、自衛する間もなく、魔物と化した動物達の巧みな集団戦法の前に、次々と壊滅していった。また、動物達の一部は、魔法をも用いていた。

 それに呼応するかのように、植物の一部も、意思を持って動くようになった。特に恐ろしい物では、急速にツタを伸ばし対象の足を取り、そのまま地中へと引き込むという植物らしからぬ動きをした。人間達はこれを畏怖して魔植と呼んだが、その後これらによって動物達の猛威が少し収まると、一転して聖植と呼ぶようになった。

 そして、五年ほどの歳月を経て、ついに人間達にも異能の力が備わり始めた。

 異能の力は、先天性の物で、特に二十歳以下の未成年者に多く見られた。身体能力に異常に長けた者、魔法能力を有する者、その二つを共に得た者。気が付けば、何の能力も持たない一般人が、異端者になっていた。

 異能者達は、無能力異端者を弾圧した。無能力異端者は、様々な組織を結成しては異能者達に立ち向かい、時には勝利する事もあったが、多寡による劣勢、個人の戦力による劣勢はいかんともしがたく、急速にその数を減らしていった。

 しかし、異能者達の方にも異変が起こった。魔法を主とする勢力と、超身体能力を主とする勢力に分かれ、一種の内紛が始まったのである。その中で、どちらにとっても異端である両方を有する両能力者達は、居場所を失った。居場所を失った両能力者は、やむなく無能力異端者と和を結び、やがて一つとなった。

 数年の間、魔法能力勢力、身体能力勢力、両能力者と無能力異端者の勢力は争いを続けたが、魔物や聖植の動きが年々活発になっていく中で、国境を引いて停戦する事を決めた。

 両能力者と無能力者の国では、停戦後すぐに内紛の兆しが見え始めたが、議会を置く、という条件の下和解が成立し、紛争なく収まった。




 百年が過ぎた。三つの国同士では、小さな小競り合いが五年に一度ほどの周期で起こったが、どれも大戦争へは続かず、各国の間での紛争はゼロと言って間違いなかった。

 しかし、身体能力勢力の国は大規模な争乱の只中へと入りつつあった。どちらかと言えば知能的だった魔法能力者、穏便派の多かった両能力者や無能力者に比べ、身体能力者は好戦的な者が比較的多く、当初から火種は見え隠れしていたのだが、二十年ほど前からそれが燃え上がり、現在の大火へと繋がっていた。各地に独立した村や町が誕生し、一種の無政府状態へと陥っていたが、不介入、無関知を貫こうとする二つの国は、重い腰を上げようとはしなかった。

 そこに現れたのが、身体能力者の太祖とも呼ばれるグルーである。グルーは、小さい村の出身ながら、卓越した弓術と指揮能力の高さで、瞬く間に国の半分を統治下に落とし込んだ。残った村や現政府は連合し、彼に対抗したが、わずか三年の内に滅亡。身体能力者の政府はそれ以後、グルー政府と呼ばれるようになった。

 安定を図る二国は、グルー政府に対し、お互いの不可侵を確認すると共に、国交を取り合った。




 更に、百年が過ぎた。国同士の交流は更に強くなり、国境を越えて住み移る者も増えてきたこの頃になって、無能力者への差別がまた新たに起こった。既に魔法や、異常身体能力についてのノウハウを得ていた人間達の、無能力者への攻撃は激しく、多くの無能力者は、両能力者・無能力者の国の中でも、他国との交流を拒否する地域へと移り住み、難を凌いだ。

 また、魔法能力者の国では、技術革新が相次いだ。特に大きい物は、技術者ミルが生み出した鉄道で、これによって国内の移動に事欠くことはなくなった。この技術を輸出し、多大な利益を得た事から、魔法能力者の国をミル国と呼ぶようになった。

 グルー政府は、国名を正式にグルー帝国とし、巨大な建造物を多数作り上げた。これには、限られた土地を有効活用するという目的の他、万一ミル国などから攻め込まれた場合でも、遮蔽物によって有利に戦えるようにとの配慮が含まれていた。

 だが、彼らが心配した大戦争は、結局起こらなかった。




 それから十七年、時が流れた。

 両能力者・無能力者の国は未だに名称がなかったが、特殊な能力者の集まりである事から特国、「とっこく」と呼ばれるようになっていた。その特国でも、特区扱いである無能力者の多く住む地域に、一人の少女が居た。


「はい、次の方。どうぞ」


 彼女は、無能力特区でもかなり小さい村に住み、無宗教教会で悩み相談を受けて暮らしている。毎日、九時間。ただ座って話すだけだから、そう辛いという物でもなかったが、ただその悩みの詰まらなさと、どこか横暴な相談者の口ぶりから、若いのによく続いているものだ、と村中で言われていた。


「なんで、分数の割り算は、逆にするんじゃい」

「……それは、逆数の掛けるのに等しいからです」

「ぎゃくすう……逆数ってなんじゃい!」


 まともな教育を受けていない村人の中でも、少女はまだマシと言える部類であった。腕っ節は全くなかったので、その知識を恃んで仕方なく相談所を開いたのだった。


「では、十個のケーキを一個ずつ分けると、何人に渡せますか?」

「わしを馬鹿にしとんかい。十人じゃ」

「その通りです。では、五分の一個ずつならどうでしょう?」

「む……一個で五人に渡りよるから、五十人じゃ」

「はい、その通りです。今、十と五を掛けましたよね?」

「……っちぇ! またくるけぇの!」


 もう一年になるが、一部の村人は未だに教会を九時間も占拠するのはおかしい、と、雀の涙ほどの知識と知恵を振り絞って、彼女に挑戦し続けている。そしてそれは常に、今のように跳ね返されているのだった。


「はい。悩みなく、いらっしゃらない事をお祈りしています」


 それでも、笑顔で応対する少女。彼女の名前は、リティという。無能力者の両親の子供として、期待通り無能力者で生まれてきた彼女は、現在十六歳。本来ならば青春盛りの彼女だったが、両親の早死にもあり、既に自立して一人暮らしを営んでいた。


「……おしまいっ!」

「お疲れさま。よく続くなぁ」


 そんなリティの、この村唯一の同年代の少年が、今彼女に声を掛けて慰撫したクロである。二人とも村生まれ村育ちだったが、長く縁がなく、二人が親しく会話をするようになったのはここ一,二年の事だ。クロは両親共に健在で、これといってせねばならない事もない為に、時々リティの仕事を見に来ていた。


「皆、良い人だよ? 多分。いつもは。ここ以外では。……あー、腹立つ」

「徐々に仮面が剥がれてるよね」

「あたしゃサンドバックかーっ、って叫ぶのも、時間の内だね、こりゃ」


 大きく伸びをしながら、リティは真後ろに立っているクロを逆向きに見た。長い髪が、無造作に床へと広がる。


「自分で言う?」

「じゃ、クロが言ってくれる?」

「『あたしゃサンドバックだーっ!』」


 慌てて、リティは右手でクロの口を押さえ、残った左手の人差し指だけを立てて、声を抑えるように求めた。一瞬キョトン、としながらも、リティの意図をすぐに理解して、クロは叫ぶのを止めた。


「……今日は、巡回の日だっけ」


 一転して静かな声で、クロは確認するように尋ねた。


「そうだよ。ほんっと、クロってそそっかしいよね。ドジっ娘狙い?」

「多分、男の場合は要領が悪いのと、注意不足ってだけだと思うけどね」

「いやいや、中々可愛いですぞ? このリティ様が言うのだから間違いないっ!」

「リティより可愛いかな?」

「や、それはないかな。……んでんで、誰がサンドバッグだって?」


 リティが詰め寄ろうと立ち上がった瞬間、教会の重く大きな扉が、見た目通りの音で軋むのが二人の耳に届いた。

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