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違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜  作者: 岩波備前


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違う、そうじゃない。〜犯人は俺なんだ〜

※推理もの、ミステリー作品ではありません。ミステリー風味のラブコメです。

※主人公はほんのりと変態です

「犯人は••••••貴方です。田宮さん!」


「••••••••••••上手くいったかと思ったのですが••••••因果応報いんがおうほう••••••悪事は明るみに出るものですね」



俺の目の前で探偵による犯人の追求が行われていた。


探偵は幼馴染おさななじみ霧崎綾乃きりざきあやの


被害者はこの館の主人、榊原さかきばらさん。


犯人はこの館の執事、田宮さん。



殺害現場は榊原さんの書斎しょさい

榊原さんはデスクの椅子から倒れ込むように床へ横たわっていた。顔面からの出血で顔の半分が真っ赤。

死因は鈍器による頭部への一撃。

殺害に使われた鈍器はデスクの上に置いてあった猫の置物。血がついていたらしい。


犯人の動機はその昔、館の主人の事故に巻き込まれて子どもを1人亡くしている。その事を長年恨み、殺害に至ったとのこと。






犯人も動機も手段も分かった。

実にわかりやすい。単純明快だ。


探偵が推理し、犯人が認める。

うん、様式美ようしきびだな。


ドラマやアニメならこのまま、犯人の自白から後日談、エンドロールの流れでフィニッシュだろう。


うんうん。テンプレだ。






違う、そうじゃない。






なぜなら










犯人は、俺なんだ。







俺は新堂隼人しんどうはやと(21)。どこへだしても恥ずかしくない、普通の大学生だ。ただ、普通じゃない部分もある。舌の根も乾かずに手のひらを返すなと言いたくなる気持ちも分かる。でも事実。

俺は普通だが、俺の身近にいる奴が普通じゃない。


俺には幼馴染がいる。

小さい頃から家が近所にあり、親同士の付き合いがあった。そうなるとその家の子どもも仲良くなるのは自然だろう。


そいつとは物心付く前から何処へ行くにも一緒だった。現在に至るまで。


霧崎綾乃(20)女性。黒髪ぱっつんの長髪。

美人。胸は大きくはないがきちんと、ある。

腰が細くお尻はでかい。「安産型だな」といいながら軽く、ぱーん、と叩いたら無言で突き飛ばされたことがある。お尻で。


微笑ましい話に聞こえるが、場所は駅のホーム。線路に落ちそうになりました。

おどりゃ、なにすんじゃー!と怒ったところ。


「私のお尻で死ねるのなら幸せじゃないか」


としれっと言い放った。

なんだこいつ?そりゃあいい感触だったが何も殺そうとすることはないだろう。


「痴漢として社会的に殺しても良かったが、そっちが良かったかい?」 


すみません。綺麗なまま殺して下さい。


「触るなら場所くらい考えたまえ」


となんでもないように呟き、その場をあとにする。触るのは良いのか?


変な幼馴染だ。







そんな幼馴染が祖父の探偵業を受け継いだ。

なんでも祖父が若い頃、事業を起こす時に手放したコレクションを探す為に、年老いてから半分趣味で探偵業を始めたそうだが、思いのほか有名になってしまったらしい。

まあ、一代で潰すのも勿体もったいないから誰か事務所ごと継いでくれと遺言にあったらしい。

元々霧崎の家は資産家の一族だ。金には困らない。何を思ったのか、綾乃が相続に立候補した。親族は“綾乃ちゃんならどうぞどうぞ”と言った流れでスムーズに相続できたらしい。

まあ、俺もあの爺さんの事は知っている。良くしてもらったしな。飄々(ひょうひょう)としていたが、何処か頑固で••••••


運が良かったのか才能があったのか、綾乃はせ物探しや浮気調査など次々とこなし、それなりに評判を得ていた。天は1人にニ物も三物も与えるらしい。不公平だ。

そんな話を綾乃にしたら


「そんな私が幼馴染なのだから良いじゃないか」


と、話していた。そういう問題じゃないが。







今、俺は綾乃に連れられてとある館にいた。

何故か?


俺は綾乃に雇われているからだ。


「隼人、君、暇だろ?雇ってやる」


「主語述語修飾語を並べて説明してくれ」


「隼人が、私の事務所で、働く」


「なぜ?」 


「人手が欲しいからさ」


「今大学が忙しいんだが。お前も同じところに通っているんだから分かるだろ?」 


「金は出す。休学しろ。私も休学する」


「人の人生を変えようとするなよ!?」


「まあ別にいいじゃないか。人生の一つや二つ」


「普通は一つしかないんだが」 


「••••••駄目かい?」


「駄目だな」


「本当に?」   


「••••••••••••駄目だ。色目使うな••••••」


「••••••月〇〇万出そう。ボーナスあり」


馬車馬ばしゃうまのように働きます」


気が付いたら、綾乃の靴を舐めそうになっていた。


恐ろしい人心掌握術じんしんしょうあくじゅつだったぜ。

俺は霧崎事務所の事務員兼助手ざつようがかりとして働く事になった。


ちなみに、とんでもない額の前金が振り込まれていた為、逃げることは出来ないようだ。









で、今。


綾乃の推理ショーが始まった。

どうやら、密室殺人らしい。

被害者は夕食後、20時に書斎にこもり、22時まで読書をするらしい。こもる前にいつもウイスキーを1杯田宮さんへ要求するそうだ。

いつもの様に20時にウイスキーを書斎に運び、その場をあとにしたそうだ。

被害者は部屋に人が入るのを嫌い、田宮さんが退室した後に鍵を閉めている。

ただ、所在確認として、20時30 分と22時に室内の電話へ連絡する事が許可されていた。

これは以前、部屋の中で寝てしまい家族を心配させてしまったからだそうだ。


事件当日も20時30分に電話を行い、被害者の声は聞いていた。

ただ、22時の電話にはでなかった。

被害者は館にいる間はスマートフォンを使わず、固定電話を好む人であった。今の時代では滅多に見なくなった黒電話が置いてあるくらいだ。


心配になった妻••••••美咲みさきさんと田宮さん、家政婦••••••遠藤さんが現場へ向かう所を見かけ、俺も着いていった。


俺は扉を開けようとしたが、開けられない。

仕方がないので、扉を体当たりで突き破ったらそこにはデスク近くの床に倒れ込む被害者を発見。といった流れだった。









この屋敷は個人の島に建てられており、警察も悪天候のためすぐには来ることが出来ないとのこと。

当然、残された人間の中で犯人探しが始まる。

容疑者は被害者の息子3名。3人とも被害者と金銭面••••••遺産相続の件でトラブルがあったそうだ

。被害者が亡くなる前から遺産争いのほか、息子達が被害者を殺してやりたい、との発言を遠藤さんが聞いていたらしい。ベタすぎる。また、殺害される前も被害者と口論していたらしい。

タイミングが良すぎる。


そんなこんなで、動機の十分な3人が槍玉やりだまに挙げられた、と言うことだ。


だが、俺の雇い主様は別の考えがあったらしい。なにせ、俺を使って色々と調べさせてくれやがったからだ。


「遺体と部屋を確認するぞ。隼人」

「やだ、怖い••••••」

「給料分働け、愚図」

「ごめんなさい」



「書斎の本が取りたい、足台になれ」

「そこの台使えよ」

「あれは駄目だ。踏み心地が良くない」

「そっかあ••••••」



「管理室に行く、ついてきたまえ」

「おーけー」

「鍵が見たい。おとりになれ」」

「なる必要ある?」



「息子達のアリバイを聞いてこい」

「気まずいなあ••••••」

「美咲さんと田宮さんのアリバイを聞いてこい」

「探偵は綾乃だろ?行ってこいよ」

「私は安楽椅子探偵なんだ」

「随分アクティブな安楽椅子探偵だな、おい!?」



「そこのおやつを食べさせろ」

「自分で喰えよ」

「前金」

「綾乃様。どれが食べたいですか?」





金を盾にいいように使われているな••••••

仕方ないよね、もう前金使っちゃったんだからさ。高かったなあ••••••あれ。






そして。現在へ。

綾乃は遺体や書斎の本、アリバイや鍵などから田宮さんが犯人だと確信したらしい。


理由は単純。書斎に隠されていた日記の中に過去の事故を後悔する文章や、一定のアルコールを摂取すると自制外の眠気に襲われると記載があった。

また、息子達から被害者が知らない子どもを交通事故で死なせており、多額の金を遣い内々で穏便おんびんに処理した事実があると話していたからだ。


田宮さんからは美咲さんの話の通り、20時頃に希望のウイスキーを持っていったそうで、その後はいつも通り、20時30分に1回目の連絡。20時40分くらいに美咲さんが一時的に離れていたらしいが10分程度だったらしいな。その後、22時に電話を入れたのは間違いない。20時30分には被害者が生きていた事も確かだ。19時30分頃か、書斎に行く前に息子達と激しい口論している所を見ている。詳細はわからないが生前贈与せいぜんぞうよが、どうとか。状況が状況だったのでそこだけは聞こえたとかなんとか。


それに、田宮さんが子どもを事故で亡くした事を遠藤さんが、酒に酔った本人から聞いた事があると話してくれた。聞いた日が命日だったらしい。

ネットや書斎の切り抜きを調べてみたら事故当時の子どもの氏名が載っていたが、その名字が昔の田宮さんの旧姓きゅうせいだったらしい。

そのことを遠藤さんにそこはかとなく聞いてみたら、子どもを亡くした後に妻と離婚していたそうだ。名字も変わった事は知っていた。どうやら婿入りしていたようだ。


加えて、管理室にあった鍵を使った形跡はなかったが、合鍵を田宮さんが持っていることも分かった。何でも紛失した時に備えて数十年前に予備を作った際に緊急用で一本渡していたとか。美咲さんから情報があった。

ただ、鍵があったとしても美咲さんと田宮さんはほとんど一緒にいたからお互いにアリバイがあるそうだ。田宮さんに確認してもらっても良いと話していた。確かにほとんど一緒だったのは聞いていた。


殺害直前にウイスキーを持っていったのは田宮さん。そのことを知っていれば度数の高いアルコールを混ぜる事も十分に可能だった。


話をまとめる。

子どもを事故で失った田宮さんが、事故の原因を作った被害者に復讐するために妻と離婚し、被害者の執事として働く。

被害者の秘密を知った田宮さんが合鍵を作る際に自分用で作った鍵を実行まで隠し持っていた。 

被害者の体質を知っていた田宮さんは事件当日、要求されたウイスキーの中に度数の強いアルコールを混ぜ、被害者へ提供。

20時30分以降に被害者を確認。部屋の中で眠っている事を確認した田宮さんは合鍵を使い、室内へ侵入。デスクにあった猫の置物で恨みを込めた一撃を放ち、殺害した。

その後、合鍵を使い外から施錠。 

何食わぬ顔で美咲さんのところへ戻り、2度目の電話連絡まで美咲さんと一緒に過ごしアリバイを作った、との推理だそうだ。




ここまできたら後は簡単だ。

本人へ突きつけるだけだ。




綾乃が手に入れた情報から推理した内容を話す。

推理に抵抗するかと思ったが、田宮さんはすんなりと罪を認めた。どうやら被害者を殺した時点で本懐ほんかいげ満足したそうだ。

美咲さんや息子達はそれなりに悲しんだが、遺産があるため以外とダメージは少ないようだ。••••••淡白たんぱくな家族関係だと思った。




一見落着。





違う、そうじゃない。





実際はこうだ。


••••••••••••

••••••

•••


20時前に、とある物を手に入れるために書斎へ侵入していた。目的は猫の置物。

それを拝借しようとしたら、被害者が書斎へ近づいて来ることに気が付いた。

慌てた俺は書斎の本棚の隙間に隠れてやり過ごす事にした。

そのまま、これからどうしようか、と悩んでいたら田宮さんがやってきた。

話の内容から読書の友として要求していたウイスキーを持ってきたとの事だった。

田宮さんが退室してから暫く経った後、被害者へ電話が入り、応対していた。電話後から更に時間が経ち、いっその事、土下座でもしようかなと算段を付けていた頃合いに部屋にノック音が。

反応しない被害者。変だなと思っていたら田宮さんが静かに室内へ入ってきた。

何をするのか?と盗み見ていると、田宮さんがデスクに突っ伏している被害者の頭に猫の置物を振り下ろしていた。硬いものに重いものが当たったような鈍い音が響いた直後、床へ倒れる音が続いた。

俺がいた場所からはよく見えなかったが、頭から血が出ているようであった。

死んだ••••••殺したのか••••••?と困惑している内に田宮さんが部屋を出て、部屋の鍵を施錠した。

俺は足音が遠ざかるのを待ち、倒れた被害者なら駆け寄った。

丁度被害者が低く唸りながら手を動かす。

こりゃまずい、と反射的にブレーキを掛けたのが悪かった。

床のカーペットに足を取られ、そのまま前のめりに転倒。

俺の手に握られていたものが、被害者の頭にシュゥーッ!!。鈍い音ともに被害者の動きが止まる。クリーンヒットしたらしい。瞳孔どうこうが開き切り、呼吸が止まっていた。 


俺、超•エキサイティン!!


っちまったよ!!と動揺しながらデスクの上の置物と手に持った物を取り替える。

置物は持参していたコンビニの袋に入れ、上着のポケットへIN。


そして、部屋の鍵を解錠かいじょうし人がいない事を確認して自室へ戻った次第だ。

汗をかいていたため、汗を流すついでに置物も洗い、鞄へ仕舞った。


•••

••••••

••••••••••••


そんな感じだ。

後は被害者の部屋の近くで待機し、異変を感じた美咲さんと田宮さん達と合流。事情を聞いた上で若くて体力があるからと先陣を切り、鍵が掛かっている風を装いながら体当たりすると見せかけて扉を開けた。


後は目撃した通りだ。


それまで姿が見えなかった綾乃に捕まり、馬車馬の如く働かされた。

そして、解決に至るというのが今回の殺人事件の真相だった。







翌日。島に来た船に乗り、本土へ戻る俺たち。

警察が来たが、犯人の田宮さんが自首してきた事と探偵業の綾乃がいた事で俺たちはスムーズに帰る事が出来たのだ。


綾乃の素性を知った警察の態度が少し気になった。••••••••••••緊張している?そんな印象を受けた。







館から帰ってきて、翌日。

霧崎事務所にて。


「雇われて早々、大変だったな。まあ、助かったよ」


「本当に大変だったよ••••••」

そりゃ大変だったよ。なにせ人を殺してしまったんだからな。


お互いに事務所のソファに身体を沈める。

爺さんの代からあるこのソファがお気に入りだった。年代物でボロいのにちゃんと手入れされてある。元が高級品とはいえ、ここまで使い倒されるなら本望ほんもうだろう。


「そもそも何であんな館に連れて行かれたんだよ俺は」


ずっと疑問だったことを尋ねる。

数日前に突然電話がかかってきた事が事の発端だった。


「既に説明した筈だろう?あの館の美咲さんから依頼を受けた、と」


ソファに座りながら煎餅せんべいかじりつつ、玄米茶をすする綾乃。おばあちゃんみたいだな、こいつ。


「なんの依頼だよ」


「人が殺されるかもしれないってね。身内の誰かが、誰かに」


「••••••おいおい、それは」


犯人は俺なんだが、人から聞くと改めてゾッとする。


「まさか館の主人が殺されてしまうとはな。まあ、サスペンスドラマならありがちな設定だな」


「ドラマじゃねえんだけどな••••••」


ドラマなら今頃エンドロールだろうよ。


「恐らく美咲さんだろうね、榊原さんを殺すように仕向けたのは」


「何で分かるんだよ、そんなこと」


「何となくだが、遺産が目減りするからじゃないかな?」


「確かに遺産争いはしてたみたいだが、それが何か関係あるのかよ」


遺産争いは分かるが、それですぐ殺そうと考えるか普通。短絡的たんらくてき過ぎる。


「昔、田宮さんの子どもを榊原さんが事故で死なせてしまったって話だったろう?それから事故を多額の金で穏便に済ませたと。大分金がかかったんじゃないかな」


「だけど、金が掛かったといっても精々何千万〜億位だろ?金持ちの家であれば払える額じゃあないのか?」


まあ、今の俺にはそんな金は無いし今後も手に入れられるかすら分からんが。


「私が言うのもなんだが、8桁の額でも相当な金額だぞ?一般家庭出身の君が言うかね?」


呆れた表情の綾乃。


「とんでもない金持ちが隣にいると麻痺まひするんだよ!」


「まあ、たしかに。だがな、私も一応一国一城の主だ。何かを管理•維持するための苦労は分かるつもりさ」


「ご令嬢さまの癖に貧乏性びんぼうしょうだしな、お前」


根っからのご令嬢の癖に、妙に所帯しょたいじみているんだよな、コイツ。


きんぴらごぼうとかおから好きだし。


清貧せいひん、といってくれ。それとその言い方はやめてくれないか?事実ではあるが虫酸むしずが走る」


両肩を抱きながら身体を震わす。••••••ガチで嫌なんだな。


「むしさんとことこか?」


とことこか?


「とことこだ。••••••話を戻すぞ?いくら金持ちといえど、家計の財布に穴が空いていれば貯まるものも貯まらん。当然だな。そうなると、あの館の穴は、誰だろうな?」


とことこだそうだ。指で虫さんの真似もしてた。


「金遣いの荒い、榊原さんか」


「そうだ。原因がわかれば、次は穴を塞ぐ事を考えるだろうな」


「それが、殺害?」


「それが確実だな。だが、誰だって手なんか汚したくはない。なら?••••••他人に汚して貰えばいいのさ」


にやりと意地悪そうな笑う。本当に悪どい顔が似合うんだよなぁ••••••


「田宮さんか」


「そうだ。美咲さんは、榊原さんと田宮さんの関係を知っていたんだろうよ」


「何故?」


「遠藤さんから何かしら聞いたんじゃないか?だって、執事になったのは離婚した後だ。酒の席で直接聞くか、元々付き合いが無ければ旧姓なんか知らんだろ?それに部外者である私達に簡単に話していたし。私達よりも近しい家人に話していただろうよ」


「あと、内々で穏便に済ませたとはいえ、事故を起こして人を殺した事実は残っているんだ。切り抜きもあったしネットでも出て来ただろう?事故被害者の名前も。それに、遠藤さんに話しをしたのは命日だって話だ。事実、被害者との関係、日にち、この情報が3つあれば動機はわかるだろうよ」


「口が軽い家政婦で良かったな」


家政婦は皆こんなもんか。


「むしろ口は固かったんじゃないか?なにしろ榊原さんと息子と田宮さんには情報を漏らして無いんだから」


「あー••••••なら何で俺たちに••••••あっ」

あまり物を考えない俺でも気が付いた。


「美咲さんに遠藤さんが協力していたんじゃないか?遺産相続したら分けてやるぞ?って」


「榊原さんが死んだら遺産の大部分は妻にいくのか••••••」


「確か、子がいる配偶者は2/3位だったか?まあ、生前贈与の話も出来なかったくらいだから遺言も期待出来なかったんだろうな」


榊原さんの事は良くわからないが、家族からそこまで警戒されているのなら自分が死ぬ前に使い切る可能性はあるか。


「榊原さんがいなくなったら得する人間は分かった。さっきの話に戻すが、どうして田宮さんが殺す事が分かったんだよ」


「動機があるのなら、お膳立ぜんだてをしてあげればいい。例えば、合鍵を隠し持っている事を見逃したり、榊原さんの体質を教えてやるとかね。後は、素知そしらぬ顔で席を離れてやるとかさ」


まあ、確かにそうしたから田宮さんは殺人を実行に移したしな。

実際に殺したのは俺だが。


「••••••田宮さんが動く可能性が高い事も分かった。事件の内容もとりあえず納得した。それはいい」


「でも何で綾乃に依頼が来たんだよ?」

どんな考えだ?


「それは私もあの家とは少なからず因縁いんねんがあったからな。美咲さんもそれが分かっていたんだろ?だから私に依頼したのさ。友人の子に会いたいからって建て前でな••••••榊原さん達を騙してまで」


発言に妙な含みを感じる。

まさかな••••••


「だから俺は綾乃の彼氏役で連れて行かれた訳だ」


「短い間とはいえ私の彼氏になれたんだからいいじゃないか」


「まあな。一緒にいる時間が長すぎて感覚が麻痺しているがな」


「••••••それでも同年代の女性が近くにいるのは悪くない気分だったろう?」


「そりゃあな。美人が隣にいるだけで嬉しいさ。それよりも綾乃とあの家との因縁って何だよ、一体?」


「ぷふっ••••••くくっ••••••くふっ」


因縁、と聞いて吹き出す。しかし、堪えきれずに小さく笑う。特徴的な笑い方だからやたらと耳に残る。


「何だよ••••••」


「確かに因縁か。聞きたいよなそれは。でも隼人が一番知っているんじゃないか?」



「今回の()()()だものな」



「••••••••••••••••••いつからだ」


こいつ、知ってて••••••!


「事件直後からだね。いや、隼人が何かしようとしていたのは最初から分かっていたけどね」


「••••••••••••どうして?」


「簡単さ、ずっと隼人を見ていたからね。まさか、殺人を犯すとは思わなんだ」


「だから何でそうしていたんだよ」


「だってデスクにあった猫の置物を回収しようとしていたんだろ?あれは、祖父が探していたものだからな」


「••••••何故それを?」


「私が先に見つけていたからな。あの館にあると。君も見ただろ?私のメモを」


事務所の床に落ちていたメモを思い出す。

今思えば綾乃が落としたままにしておくのはおかしい。失せ物探しはこいつの得意分野だった。


「わざとか••••••だからといって俺が回収するとは分からんだろうよ!ましてや木崎の爺さんが探していたなんて••••••」


「知ってただろ?何せメモの内容が分かるくらい、祖父に可愛がられていたからな」


「••••••••••••」


図星を付かれてしまい閉口へいこうするしかない。


「白状するとな••••••君が殺人犯なってしまった原因は私なんだよ」


肩をすくませて溜息を付く綾乃。


「はっ?」 


「君は祖父と仲が良かったな。そして聞いたんだろ?祖父の手放したコレクションのを探していたことを」


「私の一族は資産家の家系なのはわかるよな?祖父は婿入むこいりしてきた人間でね、元々独立心が強い人だった。だから一族に頼らず、自分の手で財を成したかった」


「そのためには会社をおこすしかない。でも手元にはコレクションだけ。••••••ならそれを売り払うしかないな。そしてその金を元手に会社を興した」


「幸運にも会社は軌道きどうに乗り、祖父だけでもかなりの財を成した。だからこそ、自分の金で手放したコレクションを買い戻そうとしたんだろうな••••••自分の父親から譲り受けた、大切なコレクションを」


「しかし、金があっても時間は無かった。それに人を使うことも良しとしなかった。だからこそ探偵なんて始めたんだろうな。しかし、想定よりも評判になり依頼人が増えてしまった。••••••頼まれごとは断らない人だったしね」


「結局探す事が出来ずに、私と隼人に託したって訳だな」


「ここからが、本題だ」


「私はね、自分と一緒に育ったと言っても過言でもない君の判断と行動が見たかったのさ••••••」


「隼人は祖父に可愛がられた以上に祖父が大好きだったろ?••••••まあ、馬が合ったんだろうな。だからこそ、祖父の最期の頼みごとを叶えてやりたくなった」


「そこでそれを知る私が、調べたメモを残し、隼人の目に入るようにした」


「そして依頼人である美咲さんにコンタクトを取った君は、探偵であった祖父が探し求めていたものが館にあると話した。でもそこで探偵を探していた美咲さんから逆に依頼を頼めないか言われてしまった」


「ならばと考え、その場で私に依頼するように勧めた。祖父の孫で探偵の私をね」


「隼人は彼氏役で向かうから、私にもそう提案してくれと言ったのだろう?やっぱり満更でも無かったんじゃないか」


「それを聞いた私は隼人を事務所に雇い、前金を振り込んだ。まあ、結構な額だったろ?置物の精巧せいこうなレプリカを作る事が出来る程度には」


そこまで予測していたのか、と恐怖を通り越して感心してしまう。


「後は簡単。屋敷に侵入し本物とレプリカを取り替える。••••••まあ、それで殺人に至るとは思わなかったが。ちなみに、被害者の外傷やすり替えた後の置物の位置と付着した血痕、置物を入れたであろう袋とか諸々の証拠はあったからすぐに隼人だと分かったよ。そもそも、部屋から慌てて出入りするの見ているからね、私」


「警察も何も言わなかっただろ?犯人は自首しているし、私がいたしな」


「私の家は割と警察にも顔が広くてね。多少は誤魔化せるんだよ。得だよね、ご令嬢って」


ご令嬢、を嫌に強調する。言われるのは嫌だが、その有用性はしっかりと理解している。 


「今回の事ではっきりした。私の眼に狂いはなかった、と」


「何で俺の為にそこまでするんだよ••••••」


理由がいまいち分かっていない俺。


綾乃は一息ついて、俺の目を見つめる。

そして、口を開いた。


「隼人が好きだ。出会った時から、ずーっとね」


当たり前の事のように告白してくる。


「まじかよ••••••」


「私と君は幼馴染だろ?そうなると、祖父としては孫とくっつけたくなるだろ?そう思うように仕向けたからね」


「いつからだよ!?」


「祖父に対してな、隼人と一緒になりたいと小さい頃から話していてね。まあ、そんなだから両親もその気になっていたんだが」


「後は祖父も両親も君を可愛がる。そもそも良い子だったしな••••••君は。他人とはいえ可愛がりたくもなるさ。それこそ、自分の願いを託すくらいにはね」


「大学もそうだよ、隼人の行きたい所が私の居場所だからね」


「だからもっと上の大学に行かなかったのか」


「探偵もそう、君の周りの事が心配になったから始めた身辺調査とか失せ物探しとか。それが高じて仕事になったんだからね。近くに探偵みたいな人がいると助かるだろ?」


「それに事務所自体にも思い出は多いだろ?私も君もここが大好きさ。依頼人が来る時以外は私と隼人しかいないからね」


「館でも、君の動向が心配でね。自分で差し向けたとはいえ、何かあったら大変だ••••••••••••••あってしまったがね。大変な事が」


「••••••••••••実はかなり責任を感じていてね。それはもう、かなり」


館でも、の発言の辺りから徐々に活気が無くなる。肩を落として俯く。

本気で気に病んでいるな。俺よりも絶望してる。


「幸運な事にこの事実を知るのは私と君だけだお互いに言わなければ平穏無事な日々を享受出来る」


「だからこそ、私も人生をかけて黙っていようと思う。共犯者だね?」 


ぱっ、と明るくなったと思ったらとんでもない事を言い始めた。駄目だ、明るくなってない。

目が死んでる。


「君の性格上、もしかしたら自白するかもしれないけど、そうしたら私もセットだよ?」


「君と違ってちたら、そのままだからな。家にも傷がつくし、思い出の探偵業も廃業さ。それに君が捕まったら••••••私はとても悲しい」


「とても悲しい」


「二度言うなよ」


「君が頑張って黙ってくれるのなら、私と、私の人生と、家柄いえがらと事務所が手に入るんだよ。お得だろう?」


そんな自分を安売りするなよ。

ウエハースのシールじゃあ無いんだから。


「ちなみに拒否したら私はこの世からログアウトします。君を道連れに」


「どっちにしろ死ぬじゃねえか!?」


「先約があるなら先に言ってくれ、それはそれで祝福するから。まあ、した後にログアウト+道連れだが」 


「デッド•オア•ダイ!?」


「今ここで受け入れてくれるのなら、私はとでも嬉しい。浮気とか傍から離れたりしないのであれば••••••••••••私を好きにしてもいいよ」


ずいっと俺の前に近づく綾乃。

普段から見ている顔だが、やっぱり美人だな。


「いや、まあ、綾乃なら全然ありなんだが•••••••••••••あ」


むしろ綾乃がいない人生が••••••考えられない。


そんな俺よりも必死な綾乃を見て、少しだけ意地悪をしたくなった。


「好きにしていいんだな?」


「構わないよ。ただ返品は出来ないからな?••••••傷ものにしても良いが、その場合は一生、つきまとうぞ?場合によっては共に彼岸ひがんを渡ってもらう」


「少し待っててくれ」


嬉しいことと恐ろしいことを同時に語る綾乃へ背を向ける。ちょっと怖い。


「わかった。出来るだけ早く戻ってこい。あまり待たせるようなら裏切りものとして処す」


「••••••ああ、早く戻るさ」


俺ははやる気持ちを抑えつつ、とある店に向かった。







流石さすがの私でも、これは恥ずかしいぞ••••••」


「最高だ••••••」


••••••••••••

••••••

•••


30分後、事務所のソファに座りながら遺書いしょをしたためている綾乃がいた。傍らにはスタンガンとごっついナイフ。


ギリギリセーフだったようだ。


「あと10分、待たせていたら私達は明日の朝刊に載っていたな」


ニヒルに微笑みながら、それらをデスクに片付ける綾乃。


あれは、本気だった。

ともに歩んだ20年の年月。俺の知らない間に立派に病んでしまったようだ。


なんで••••••こんな事に••••••?


「隼人がこうしてしまったんだろう?」


俺が原因らしい。何故だ。


「私がどれだけの覚悟をもって想いを伝えたのか分からないかい?それが、返事ももらえず宙ぶらりん。••••••不安になるのは仕方がないだろう」


「いや、存じております。はい」


スタンガン、ナイフ、遺書。

悲しみの向こうへ行く気だったしな。


「それでだ。返事を聞きたいんだが?」


「ああ、付き合うか。俺も綾乃が好きだからな」


「••••••••••••あっさりだね」


今更いまさら、って感じだしな。まあ、正直俺もお前が傍にいないって事が想像出来ん」


「••••••••••••••••••••••••」


荷物を持って立っている俺の身体に抱きつく綾乃。何もしゃべらない。

••••••微かに震えている。


珍しい反応に戸惑うが、しばらくは好きにさせておこう。







落ち着いたのか、何もなかったかのように煎餅を齧り始める。綾乃。少し表情が明るい。瞳にハイライトが少し戻ったようだ。 


「それで」


俺もソファに腰掛け、目の前の煎餅に手を伸ばす。••••••まあ、美味いな。一袋200円前後のお徳用パックの癖に。


「綾乃の事を好きにしていいんだな?俺は」


先程綾乃が提案した言葉を思い出す。

安売りしているのなら、買わなければ損だ。


「ああ、構わないよ。だが、最初はここが良いな。••••••私達の思い出の場所だ。シャワーもあるし、ソファもある。ゴ•••はないが•••••••••••早速するかい?」


「違う、そうじゃない」


ガタッ、と立ち上がりながら自分のスカートに手を掛ける綾乃を制止する。


とても興味深い提案だがそれは後々。


それに、爺さんとの思い出を汚すんじゃありません。俺がいたたまれない。覚悟を決めるまで待ってくれ。


「そういうことはもう少し後がいい。最低でも綾乃の両親に報告してからだな」


子ども頃から世話になっているしな。筋は通しておきたい。


「やはり変なところで古風な奴だな。隼人なら顔パスだぞ?」


「そうかもしれんが、ケジメってのがあるだろうよ」


まあ、あの人達は••••••うん


「まあ、好きにしたまえ。私の人生は隼人のものだからな」


「重い••••••」


こんなに重い女だったか?育て方間違えたか?


「人の尻に文句をつけるものじゃないな」


自分の尻を押さえながら、三白眼でこちらをじーっと睨んでくる。


「尻とは言ってねえよ!?••••••まあいい、好きにしていいなら俺の趣味に付き合ってもらおうかなと思ってな」


四肢欠損ししけっそん不可逆ふかぎゃくな身体•精神へのダメージを伴うことについては要相談だぞ?」


「そんな特殊性癖とくしゅせいへきは無い!!••••••これを着てもらおうかな、と思ってな。中に指示を書いたメモがある。準備ができたら呼んでくれ」


「外で待つのかい?分かった。なら、それを••••••••••••••••••君も好き者だね?」 


「男には譲れないものがあるんだよ」


「••••••••••••今日、一番男らしい言葉だな••••••まあ、喜ぶのならやろう。少し待っていてくれ」


「ああ、頼む」


僅かに呆れた表情を浮かべながらも希望を叶える為に立ち上がる綾乃を横目に、俺は事務所の外へ向かった。


•••

••••••

••••••••••••


10分後、事務所の中からノックの音が聞こえる。

満を持して事務所に入ると、まっ白い服を着た綾乃が立っていた。


「流石の私でも、これは恥ずかしいぞ••••••」


「最高だ••••••」


真っ白いYシャツに黒の靴下。首には小さな首輪を付けていた。

上は着けていないため、その下の肌色がシャツ隙間から覗く。下は••••••黒か。

恥ずかしさに身を縮ませながらもじもじしている、黒髪長髪の美人。


「最高だ••••••••••••」


俺は目頭めがしらに熱いものを感じた。

拳に力がみなぎる。


おとこ泣きであった。


俺の生涯に、悔いはない。


「泣くほどかい!?勝手に満足するな!満ち足りた顔をするな!早く戻ってこい!!」


珍しく取り乱しついる綾乃をみて正気を取り戻す。


「あ、ああ••••••助かったぜ。爺さんがはっきりと見えた。もう少しでこの世から消えるとこだったぜ」 


「私を置いてくんじゃない!!」


死に際に聞く言葉としては感動ものであるが、今は聞きたくなかったなあ。


「ふぅ••••••落ち着いた。なら次のステップだ」


「••••••私は構わないが、何もしなくて良いのかい?」


「だからこそいいんだ」


「そ、そうかい?」


戸惑う綾乃を尻目に、ソファへ深く座り込む。

そして足の間へ綾乃を促す。


「じゃあ、失礼する」


「おお••••••」


ぽすん、と、綾乃が足の間に座る。

間近にはつややかな髪。ふわっと良い香りがする。身体には柔らかな肉の感触。眼下にはゆっくりと上下する谷間が。また、安産型と太鼓判が押せるほどのものが股の間にすっぽりと収まった。俺の太腿に綾乃の弾力と熱が伝わる。

••••••••••••最高だ


「••••••変態だな、君は」


「なんとでも言え••••••」




俺はそのまま








綾乃に








「じゃあ俺は何もしないから。綾乃は仕事でもなんでもこのままの状態で好きにしてくれ。ただし、変な事はするなよ?」


何もせずそのまま放置することにした。


「••••••本っ当にっ、変態だな。君は!」


ああーっ、と苦渋くじゅうの表情を浮かべながら頭を抱える綾乃。


••••••こんな顔も出来るんだな、こいつ。


「••••••••••••予は、満足じゃ••••••」


目の前の髪に顔を埋めながら呟く。

花とか蜂蜜とか果物とか、そんな香りがする。


ただし、決して手は出さない。


勿体もったいない。


ぐんじゃない!••••••••••••素直に手を出されるよりも恥ずかしい••••••くっ••••••」


眼下でわーわー言いながら、結局は「くっ、殺せ••••••」といった雰囲気をかもし出しながら大人しくなる綾乃。


「なんだこの可愛い生きもの」


思わず声に出してしまった、


「こんな時に、そんな事を言うんじゃない••••••」


悔しそうな、嬉しそうな表情で呟く綾乃を見ながら、そのまま日が暮れるまで楽しむ事にしました。




「明日も別の趣向しゅこうをこらして楽しむからな。頼んだぜ!」


「••••••••••••へんたい」




おわり?

本作品を閲覧していただき、誠にありがとうございます。


別の大手サイトでも同じP.Nで作品を投稿しています。


作品についてはそのサイトのみの投稿であり、他サイトには投稿しておりません。


拙作ですが、ご笑覧いただければ幸いです。

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