8 早く起きた朝に
足立とあかりがペンション『クローシュ』にやって来て、2日目。
朝。3号室。
「――――寒っ!!」
あかりはカッと目を覚ます。体を起こして自分の身体を見ると、布団のほとんどをスズメに取られていた。
「……にしても寒いな」
窓の外は、あいにくの雨模様。
しかし、ペンションの共同部には暖房も入っているはずで、ここまで寒いはずはなかった。
廊下。
あかりが、3号室のドアを開けて出てくる。
と、1号室からも、同じように寒そうに昨日駐車場で会った女性が出てきた。
あかりは目が合い、
「ですよね」
と言うと、女性もそれに頷く。
そうして出会った2人は受付まで降りてくると、受付の裏から真美が出てきた。
「真美さん」
あかりが声をかけると、
「ああ、あかりちゃん。寒かったでしょう。お客様も、申し訳ございません。どうやらブレーカーが落ちていたようで」
と、真美が事情を説明する。
そこへ、
「あ、レストランの人。あれ? また、ブレーカー落ちちゃったんですか?」
と、目を擦りながらスズメもやって来た。
「また?」
あかりの質問に、
「そうそう。夜中にも1回落ちたって、トイレ行く時に廊下で会って」
と、スズメは答えて、それから「ですよね?」と真美に確認する。
「ええ、本当に申し訳ありません。……あ、よろしければ、お部屋が温まるまで、レストランでホットミルクはいかがでしょう」
真美は申し訳なさそうに頭を下げると、それからそう提案した。
「あ、いいですね!」
スズメが言うと、
「私も、いただきます」
と、1号室の女性もそれに頷く。
「では、ただいま何か羽織れるものもお持ちしますので、少々お待ちください」
かくして、一行はレストランで一息つくことになった。
レストラン、ホール。
窓の外を見ながら毛布に包まってホットミルクを飲む、あかり、スズメ、1号室の女性の3人。
時刻は、6時をちょっと過ぎたころだった。
「お姉さんは、何度か来たことあるんですか?」
落ち着いたところで、スズメが1号室の女性に聞いた。
「え? ……ええ、以前から何度か。この静かな雰囲気が好きで。秋になると、もっとずっと綺麗だし」
「良いですねぇ、見てみたいなぁ……」
すると、そんなホットミルクのようにまったりとした時間をぶった切るように、
「――――あ!」
と、あかりが立ち上がった。
あかりは突然走り出すと、廊下に出て、バックヤードの方に消えていく。
そして、すぐにゴミ袋を持って、戻って来た。
「あかりちゃん、どうしたの?」
スズメが聞くと、
「ゴミ捨て! 昨日、バックヤードの回収し忘れてたの! で、今日、ゴミの日!」
そう言って急いで外に向かう、あかり。スズメは毛布に包りながら、
「あら……。頑張って~」
と、その背中に手を振った。
▼ ▼ ▼ ▼
ペンションの前の通り。
入り口に置いてあったてきとうな傘を手に取って、ペンションのすぐそばのゴミ捨て場にあかりが走ってくる。
ゴミ捨て場に到着すると、あかりはどさっとゴミ袋を置いた。――――が、そこで、あかりは気がつく。
「あ」
その日、ゴミ捨て場に並んでいたのはビンだった。
すると、そこへ、
「あかりちゃーん! 今日! ビン!」
と、遅れてやって来たのは真美だった。
その手には、ビンと缶のゴミが携えられていた。
「ま、真美さん! 雨なのにすみません、私。勘違いしちゃって……。でも、よく分かりましたね」
真美はパーカーを深く被っているだけで、傘は差していなかった。
「厨房から袋だけ持っていく姿が見えたから、もしかしてと思って確認してみたの」
真美は膝に手をついて、息を整える。その様子を見て、
「あ! 喘息って……」
と、あかりは思い出した。
「平気よ、これくらいなら。そんなに走ってもないし」
真美は笑ってみせると、
「ああ、戻りましょうか」
と、言った。
ペンションへの道を歩く中、真美が聞いてきた。
「このペンションはどう? 働いてみて」
「……昨日言われたんです。スズメに。仕事は楽しいかって。まだ楽しいかは、よく分からないですけど。でも、西尾さんや足立さんがいるから」
「やってはいけそう?」
「はい。これからもご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」
しかし、そう改めて挨拶した矢先のことだった。
ペンションに戻ると、それは――――ごうごうと炎を上げて、燃えていた。
2階の2号室あたりから火の手が上がる、ペンション。
それを、あかりと真美は呆然と見つめて立ち尽くしていた。
「あかりちゃーん!」
そこに、毛布に包まりながらスズメがやって来る。と、その後に続いて、石丸も姿を見せた。
「スズメ! 良かった無事で! 怪我は!?」
あかりが抱きしめると、スズメは、
「大丈夫。火災報知器が鳴ったから、急いで出てきたの」
と、説明する。一方で、真美が、
「石丸さん! 髪が少し焼けて……」
と、石丸を心配すると、石丸は、
「これは寝癖。寝ているところを、警報で叩き起こされて……」
と、返す。幸い、ここにいる者は皆無事のようだった。
が、安堵も束の間、次の瞬間、
「――――って、他のお客様は!?」
と、石丸はペンションの中に取り残された人のことを思い出すと、皆一斉にペンションを見た。
「あ、そうだ! あの人、火災報知器が鳴ったら、すぐにレストランを出て行っちゃって……」
すると、スズメがそう言ったちょうどその時、炎の中からキャリーケースを引きずって1号室の女性が現れた。それを見て、真美が駆け寄る。
「お客様! 大丈夫でしたか!?」
「はい。でも、もう火が2階の廊下まで……」
そこへ、
「西尾さん! いったい何が!?」
と、足立も遅れてやって来た。
「私にも何がなんだか……」
真美はクローシュを見上げる。火は、2階を焼き尽くす勢いだった。
「そうだ! 消防車!」
真美はスマホを取り出すが、画面がつかない。それで、
「石丸さん! スマホ!」
と、石丸の肩を叩いた。
「……あ、ああ!」
石丸はスマートフォンをタップするが、上手く番号が入力できない。すると、燃えるペンションを見つめていた足立が、
「……西尾さんの旦那さんは?」
と、呟いた。
みんな、顔を見合わせる。が、当然そこに賢一はいなかった。
次の瞬間――――足立は、クローシュへ走り出す。
しかし、その腕をあかりが掴んで止めた。
「だめですよ!」
「どうして!」
「足立さんが死んじゃいます!!」
すると、足立の背後で、ペンションが音を立て崩れる。
「……だめです」
足立は、振り返ってペンションを見る。もう、手遅れなのは明らかだった。
その場に膝をつくと、足立はただただその崩れ行く光景を眺めるしかできなかった。
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