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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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7 肝試し……?


挿絵(By みてみん)



 レストラン、バックヤード。


 足立はシェフ姿から私服に着替え終わると、時計を見る。時刻は、夜の11時だった。


 そこへ、制服姿の真美も帰ってくる。


「クロスの設置と掃除終わったわよ」


 足立は、それに「お疲れ様です」と返すと、続けて、


「……あ、そうだ。野菜類はまだあるんですけど、魚類は朝、買いに行かないとダメそうで。どこか贔屓にしていたお店とか、知ってます?」


 と、尋ねた。2人は、もうすっかりシェフと従業員の関係だった。


「一応、麓の町で朝市が。和樹さんは、よくそこに」


「じゃあ、明日、見に行ってみます」


 足立はそう言うと、バックヤードから出ようとする。――――が、その時だった。ドアの前で、足立は足を止める。そして、


「……ずっと続けばいいのに」


 と、呟いた。


 電灯が、点滅する。部屋の空気が、止まった。


「……なら、いっそ全部燃やしてみる? 和樹さんの不始末ってことにして、全部。そうすれば、死体だって消えちゃうわ」


 しかし、足立は首を横に振る。すると、真美は、


「そうよね。短い時間しか過ごしてないけど、そういう人だと思うわ。あなた」


 と、足立を真っ直ぐに見つめた。


「ここに来る前は、死ぬ気でしたから。最後に、こんな思いができただけで私には十分です。それに……」


「それに?」


「自分を誤解してしまいそうです。私は、本当にここのシェフで、人殺しなんかしない、善人なんだって」


 足立の目が真美と合う。と、再び、電灯が点滅した。


「……電気、変えなくっちゃね」


 真美の言葉に、足立が、


「後で、やっておきますよ」


 と返すが、真美は首を横に振って断る。


「疲れてるでしょ? 私、着替えなくちゃだし、ついでにやっておくわ。在庫の場所も分かるし」


「……すみません。じゃあ、お願いします」


「お疲れ様」


 部屋から出て行く足立を見送る。その背中は、どこか寂しそうだった。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 足立はバックヤードを出ると、玄関にやって来る。


 と、そこで何か話をしている、あかりとスズメに合流した。


「だから、ついてきてって!」


 珍しく、あかりが駄々をこねている。すると、スズメはあかりを揶揄(からか)うように、


「えー? どうしよっかなぁ……」


 と言った。


「スズメが遊びに来いって言ったんじゃん! 私は、従業員宿舎に戻って寝なきゃいけないんだって!」


「言ってないよ! あかりちゃんが遊びに来るって言ったんだよ」


「それは、スズメが従業員宿舎に来るとか言うから、それなら代わりにって意味で……」


 そこへ、足立が、


「どうしたの?」


 と、割って入る。


「あ、シェフさん!」  


 スズメがそれに気がつくと、あかりは足立に、 


「足立さん。あ、その、今から宿舎の方に戻られますか?」


 と、尋ねた。


「ああ、うん。そのつもりだけど」


「なら、ご一緒しても?」


「え、構わないけど……」


「良かった!」


「……えっと、じゃあ、行く?」


 足立はその要求に戸惑いながらも、従業員宿舎に向かって移動し始める。すると、スズメが、


「なら、私もついてこー」


 と言って、あかりの前を横切り、足立の後ろ続いた。


「あ、ちょっと! さっきまで、渋ってたくせに!」


 あかりも遅れてその後に続く。

 そうして、3人はペンションを出ると、離れにある従業員宿舎への道を歩き出した。


 ペンションを出ると、目の前は真っ暗でかろうじて数センチ先の雪が見える程度だった。


「今、何か揺れましたよね!?」 


 道中、あかりはどこか怯えた様子だった。あかりが、スズメの後ろに隠れる。と、あかりの言葉を足立は、


「いやあ? 風じゃない?」


 と、冷静に分析するが、一方でスズメは脅かすように、


「でも、誰かの声みたいにも……」


 と、言った。


「ちょっと!」


 あかりがスズメの肩を叩くと、足立も、


「……言われると、怖くなってきたな」


 と、不安になってくる。


 風がびゅうびゅうと吹く。と、その風切り音の中に――――どこからか、歌のようなものが聞こえてくる。


「な、な、なんか、変な歌! 誰!?」


 あかりが叫ぶ。と、スズメは、


「まっさか~。そんなわけ……」


 と、否定する。そして、足立も便乗して、


「それも、風……」


 と、指摘しようとしたが、しかし、風が止んでもそれは止まらず、


「……いや、確かに歌だ」 

  

 と、確信を持つのだった。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 それから、足立たち3人は歌の聞こえる場所へやってくる。


「この辺り、だね」


 足立がそう言うと、歌声はさらに大きくなり、あかりが大げさに驚く。そして、あかりは盾代わりにしているスズメの背中をグイグイと押した。


「怖いなら、近づかなきいいのに」


 スズメが呆れたように言うと、


「これは放置してた方が、気になって眠れない!」


 と、足を震わせながらあかりが返す。


 そうして3人がペンションの壁を横に、曲がり角に差し掛かった時だった。


 そこで、ぴたりと歌声が止む。


「この先だ」


 足立が確信を持って言うと、あかりも頷く。そして、足立の「せーの!」という合図で、3人は一斉に壁の向こうを覗いた。


 しかし、覗いた先は暗く、ペンションに備え付けられた茂み以外は何も見えなかった。


 ペンションも、1階は壁で、2階は客室の窓が並んでいるだけ。カーテンは、全て閉まっていた。


「どう!? どう!?」


 目を瞑っているあかりが聞く。すると、スズメが、


「……何も、いない?」


 と、答え、足立が不思議そうにしながらそ「だね」と同意した。――――しかし、その時だった。


「――――だぁああああああっ!」


 と、ペンションの茂みから、勢いよく影が起き上がって来る。


「うわあっ!?」


 足立とあかりはその声に、情けなく驚く。一方でスズメは同じ「うわあっ!?」でもどこかコミカルで、2人ほど驚いてはいなかった。


 あかりは足立を盾にし、


「出た! 出た!」


 と、怯える。そして、足立も大人げなく、


「ふ、不審者! ふしっ……!」


 と、よろけ、腰を抜かしそうになった。が、そんな状況も、


「……って、石丸さん?」


 と、影をじっと観察していたスズメの一言で一変する。


「え!?」


 と、足立が驚いて二度見をすると、視線の先で、


「んーっ? おおっ、小鳥遊ちゃん!」


 と、ヘロヘロの腕を上げて影が立ち上がった。それは確かにスズメの言葉通り、受付の石丸だった。ただし、


「臭っ! 酒臭っ!」


 と、近づいた足立が鼻をつまむほど酩酊状態でもあった。


「へっへっへっ、流石に飲み過ぎたかぁ?」


 そう言って、石丸はくしゃみする。と、勢いで茂みに倒れ込んだ。


「いやいやいや、飲み過ぎって!? 冬に、外で寝てたら凍死しますよ!」


 足立は石丸に肩を貸しながら、そう警告する。と、助けた足立のシャツの肩には、赤い跡がついた。


「うわぁ、指先が真っ赤じゃないですか! どこか怪我でも……」


 足立の言葉に、石丸は「大丈夫、大丈夫」と繰り返すが、次の瞬間、


「いてててっ!」


 と、足を押さえた。


「ほらぁ、凍傷でもしかけてるんじゃないですか」


 足立は石丸が倒れないようがっちりと支えると、


「従業員宿舎に運ぼう」


 と、あかりたちに声をかけ、一先ず移動しようとした。――――が、あかりはへたり込んだままで、


「すみません。腰抜けちゃいました」


 と、言った。


「……え」


 足立が困惑して立ち止まる。と、スズメが、


「じゃあ……」


 と言って、自分の肩を叩いた。


 あかりは、素直にスズメの肩を借りて立つ。すると、その帰り道、


「あ。ってか、そんなに怖いなら、私と寝ればいいじゃん!」


 と、スズメが提案した。


「いや、流石にそれは。一応、私、従業員だし……」


 あかりが断ろうとすると、スズメは足立に、


「どうなんですか?」


 と、尋ねる。……まあ、その人も本当は従業員ではないのだけれど。


「……いいんじゃない? 今日くらい。ね、石丸さん」


「うん? うん……」


 足立の問いに、酩酊状態の石丸は訳も分からずそう漏らす。


しかし、「うん」は「うん」、承諾は承諾。スズメは喜んで、


「だってさ!」


 と、あかりに言うと、


「……なら。今日は、スズメのところで寝ることにします」


 と、あかりも諦めて足立にそう告げた。


「なら、どうせなら従業員宿舎に寝巻き取り行こうか」


 足立の提案に、2人は頷いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「まさか、石丸さんの部屋に鍵がかかっているせいで、往復させられるとは……」


 ペンション、入り口。

 扉が開くと、足立が愚痴をこぼしながら入ってくる。


 後ろに続くあかりは、寝間着を胸に抱えていた。


 スズメとあかりが階段の前に立つと、足立は石丸を担いだまま、


「それじゃあ、おやすみなさい」


 と、挨拶をする。


 あかりたちも「おやすみなさい」を返すと、その場は解散となり、足立は受付の休憩室に石丸と共に消えていった。


 いざ2人で寝てみると、3号室は少し狭かった。

 あかりとスズメは、横並びで布団に寝ながら天井を見上げていた。


「予備の布団あって、良かったねー……」


 眠気を感じさせるとろんとした声で、スズメが言った。


「一応このペンション、1部屋に2人まで泊まれるから」


「おぉ……。もう、すっかりスタッフだねぇ」


「揶揄うな」


「……どう? 仕事は楽しい?」


「まだ、なんとも。でも、足立さんも西尾さんも良い人そう」


「冬休みが明けたら、2人で免許取りに行こうね。で、夏は海に行って、秋は京都に行って……」


 しかし、そう語るうちに寝てしまう、スズメ。その顔を覗き込むと、あかりは、


「え? 嘘でしょ、寝たの?」


 と、驚く。それから顔の前で手を振ってみても反応はなかった。


 あかりはスズメが本当に寝たことを理解して布団に戻り、再び天井を見上げる。


「……免許か」


 そして、スズメの語った計画を思い出すとくすりと笑って、目を閉じるのだった。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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