5 嵐の後で
レストランの入り口。
賢一を見送るために入り口に並んでいる、足立、真美、あかり。
すると、賢一が身なりを正してから、
「いろいろとご迷惑をおかけしました」
と、謝った。そして、真美を見ると、
「……今後のことについては、また別の機会にしっかり話し合おうと思います。いろいろ、思い出せたこともあったので」
と、落ち着いた様子で語った。
「デザートはよろしかったですか?」
足立が問う。
「ええ。残念ですが、時間が。でも、大変おいしかったです。……どこで修行を?」
「……小料理屋のようなところで」
「フランスの?」
「町の……」
「そうですか。三ツ星ばかりで、いい料理人が育つというわけでもないんですね」
「今度は、ぜひ料理と一緒にワインも」
「ええ。またすぐにでも。体質でどうも眠たくなってしまうので、あまり飲めはしませんが。でも、楽しみにしています」
すると、そのやり取りを聞いていた真美が、目を合わせないまま。
「……でしたら、またくればいいじゃないですか。今晩にでも」
と、言った。
足立とあかりは、思わず目を見合わす。
「……今晩、また訪ねても?」
賢一が問うと、
「もちろんです」
と、足立は頷く。
「なら、今晩も宿泊できるか受付に確認してみます」
その言葉にあかりが思い出したように、
「あ、でも、今ちょうど受付の石丸さんがいなくって……」
そう言いかけた。が、そこへちょうど何かを探すように、ペンションの外から石丸が戻ってきた。
「あ、帰ってきた」
あかりがそれに気づくと、賢一は、
「それでは」
と、軽く一礼して、石丸の元へ向かう。
それから少しして、あかりも足立と真美の前に立つと、
「私も、ペンションの業務に戻ります」
と、頭を下げ、石丸の元へ戻っていった。
しばらくぶりに足立と真美は2人きりになる。と、真美が、
「よく作れましたね、フレンチ」
と、足立に言った。
「家で自分で作ってたし、アイデアだけは沢山あったから」
そう言うと、足立はくしゃくしゃのメモを取り出してみせた。
「それに今、ここのシェフは私ですから」
自信を持ち、少し明るくなった足立の顔。
それを見ると、真美はなんだか無性に腹が立ち、足立の脇腹を手で刺した。
「いった!」
足立がよろける。そんな足立に、真美は、
「ところで、さっきのコースのデザートって……」
と、ホールのほうにくるっと踵を返しながら尋ねた。
「……え? ああ、クローシュを被せたままにしてありますよ」
脇腹を押さえながら足立が答える。と、真美は天井を見上げ、
「クローシュ……?」
と、呟いた。
「あ、違う違う。このペンションじゃなくて、料理に被せてある銀の蓋……」
「……ああ! 聞いたことある、聞いたことある。あのね。パカッってね。なるね……」
うんうんと頷き合う、足立と真美。しかし、それから真美は表情を一転させると、再び足立の腹を突いた。
「ごふっ――――」
膝をつく足立に、
「人殺しのくせに」
と、真美が言う。
「あ、ちょ……!」
「じゃあ、召し上がるお客様もいないことだし、食べちゃいましょ。さて、どんなのかしら~」
「ちょっと!」
足立はそんな真美の後を追いながら、受付で話をしているあかりと石丸の方を気にするように何度も見て、
「一ツ星! 一ツ星のくせにって、言ったんですよね!?」
と、わざと大きく声を張った。
▼ ▼ ▼ ▼
一方で、1階、受付。
騒がしいレストランの入り口に目をやる、あかり。
そこには、真美の後ろを何か言いながら追いかける足立がいた。
すると、階段のほうから音がして、あかりが振り返る。そこにいたのは、少し切れ長の目をした綺麗な女性だった。
「……あ、1号室の。おはようございます」
2号室が賢一で、3号室がスズメならば、残るは1号室しかなかった。
綺麗な女性は階段を降り、あかりに一礼すると受付を通り過ぎていく。そして、そのまま外に出ていった。
「いやあ、お待たせ。ごめんねぇ」
今度は、受付の休憩室から石丸が出てくる。と、石丸はあかりに手書きの指示書を渡した。
「じゃあ、俺、仕事でまた出なくちゃだから。何か困ったら、西尾さんに聞いて」
石丸は腕を組み、顎に右手を寄せると、レストランのほうを見てそう言った。そして、あかりの返事も待たず、駆け足でペンションから出て行った。
「あ、はい。行ってらっしゃい……」
戸惑いながらもあかりは石丸を見送ると、それから指示書を確認する。
× × × × ×
『洗濯:風呂場・レストランのバックヤード・従業員宿舎』
『風呂掃除:17時までに! 床掃除 → 桶、鏡を掃除 → タオル補充』
『暇になったらペンション前の掃き掃除(外のロッカーにホウキ)』
『賄いは、レストランに』
× × × × ×
書かれていることを確認する。今からやるにはタフな内容だった。
「まじか……」
あかりはもう1度、ペンションの入り口を見る。しかし、そこにもう石丸の姿はなかった。
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