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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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4 キレる頭

挿絵(By みてみん)



 レストラン、ホール。


 窓際の席。

 そこには、コップに入った水を飲み、乱雑にチョコを口に運ぶ賢一がいた。すると、そこへ真美がやって来て、賢一の前に座る。


 真美は目を合わせず、賢一に対してどこか怯えた様子だった。


「シェフと連絡がついたのか?」


 賢一が聞く。それに対し真美は、


「……別に。ここで待っていろと言われただけです」


 と、不愛想に答えた。


 賢一が、厨房を見る。と、そこには、料理を始める足立しかいなかった。


「前のシェフはどうした」


「……あの人は、ここにはいません。分かったら、帰ってください。お互い仕事もあるのに、わざわざ1泊してまで」


「俺の勝手だろう」


「それでも乗り込むなんて。大人のやることですか」


 賢一は、真美を睨む。しかし、真美は相変わらず目を逸らしたままだった。


 続けて、賢一が何かを言おうとしたその時、賢一の胸ポケットが震える。電話だ。すると、賢一は立ち上がってテーブルから離れ、それに出た。


「……ああ、ああ。わかった。じゃあ、すぐに先方に売買契約の日を決めさせろ。あと、事業計画の会議をするから……。……そうだな、14時。最優先で、メンツ集めといてくれ。俺もすぐに向かう」


 賢一は電話越しにそう告げると、電話を切り、テーブルに戻ってくる。しかし、席には座らず、立ったままだった。


「……また仕事ですか?」


 真美が聞くと、賢一は、


「お前には関係ない。さ、一緒に帰るぞ」


 と、答える。そんな態度に呆れつつ、真美が、


「ちょっと待ってください。そんな急に、無理です。ここのホール、給仕は私1人しかいませんし」


 と、返すと、


「急じゃない。前から何度も警告していた。それに、代わりくらいすぐ見つかる。給仕係の前に、お前は俺の妻だろう」


 と、賢一が言い切った。


 互いが互いを睨み、言い合いが再燃し始めそうになる。――――が、その時だった。


 あかりが、ナプキンと食器を運んで来た。


「……これは?」


 賢一が聞くと、


「お腹が減っていては、余計にイライラしますし。続きは、食事をしながら」


 と、あかりが答える。


「頼んでない」


「当店からのサービズです」


 すると、あかりと賢一のやり取りに、


「それに、これからお仕事なのでしょう? 腹が減っては戦が出来ぬとも」


 割って入るように足立が料理を運んできて、それぞれの前に並べた。


「いきなり前菜からになってしまいますが、どうぞ。エビと冬野菜のテリーヌです」


 その2人のまるで話を聞かない態度に、


「頭がおかしいのか……? ……結構です」


 と、賢一は立ち去ろうとする。しかし、それを妨害するようにあかりが立ちはだかった。


「奥様を、連れ戻しに来たのですよね」


「……聞いていたのか」


「入り口で揉めていた際に。ですが、これでは連れ戻しても、また何度も揉めてしまうことになりますよ」


 あかりは賢一をじっと見つめると、


「まずは、話し合いを」


 と、説得する。


 すると、賢一はあかりと足立の顔を一瞥し、ようやく、


「……前菜だけだ」


 と、諦めたように席についた。


「お前のせいだぞ」


 賢一は、真美を睨む。そして、テリーヌを眺めると、


「こんなもの……」


 と、口に運んだ。


「……」


 無言になった賢一を見ると、真美は無言のまま足立に「フレンチなんか作れるのか」と疑いの目を向けた。


 足立は「食べてみてください」というジェスチャーをする。と、真美は覚悟を決めたようにテリーヌを口に運んだ。


「……美味しい」


 それが、真美の頭に最初に浮かんできた感想だった。すると、足立は顔をぱっと明るくして、


「本当ですか!?」


 と、喜んだ。


「ええ」


 足立、嬉しくて拳を握る。そして、2人に、


「あの、お急ぎでないようでしたら、すぐにでも朝食をお持ちしますが」


 と、続けた。


 真美は足立の言葉に戸惑い、賢一の様子を横目で伺う。


 賢一は、そんな真美と目が合うと、時計を見て、


「……朝食ではなくコースを。それと時間がないので、細かいのは省いてください」


 と、告げた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



「金目鯛のポワレです」


「上州地鶏のソテーです」


 あかりによって、次々と料理が運ばれてくる。


 2人はそれを無言で食べ進めると、ついにソテーをナイフで切っている手を止めて、


「……2人での食事、ずいぶん久しぶりだっていうのに、会話もないんですね」


 と、真美が言った。


 すると、賢一は手を止めて、


「何を話せばいいのか。……何を話していいのか、探っていたんだ」


 と、答えた。


「元々、食事する気なんてなかった。ただ君を連れ帰るために、ここに来たんだ。だから初めも、テリーヌを一口食べて帰るつもりだった」


「……なら、どうして?」


 賢一は、真美の指輪に目をやって、


「……テリーヌを食べて、思い出したんだ。昔を」


 と、答えた。


「昔……。お父様との、思い出ですか?」


「君とだよ。横浜のレストラン」


「……ああ。よく行ってましたね。そっか、あそこもフレンチでしたね」


「あの頃は、今よりも忙しかったはずなのに、会う時間をなんとか作り出して」


「いろいろなところに行きましたね。新幹線。2人とも眠ってしまって、乗り過ごすなんてことも」


「あの頃は、何も言わず手を握っているだけで良かった。……いや、目さえ合えば、それだけで」


「……そうね」


「今は、何を話していいのか、探る始末だ。いつの間にか、お互いにいろいろなことを言葉にするのを、恐れるうちに」


 2人は、無言になる。


「……北海道では、草原で乗馬もしたな」


「途中、馬が道草食べて、置いていかれそうになって……」


「三河湖も綺麗だった。手漕ぎボートに乗って」


「少し怖かったですよ。いっぱい漕ぐから、すぐに岸から離れていって」


「張り切ってたんだ。だが、君に怒られて、のんびりと景色を眺めるのも悪くないと思った」


「綺麗でしたね」


 すると、賢一はそう語る真美を盗み見て、


「……ああ、綺麗だ」


 と、答えた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 厨房の脇。

 あかりは、真美と賢一を眺めている。視界の先で、真美と賢一は徐々に言葉を交わすようになっていっていた。


 そんな様子を差し置いて、足立は厨房でデザートを作っていた。 

  

「なんか、いい感じですね」


 あかりが言うと、


「まさか、本当に収まるとは……」


 と、足立が答える。


「レストランの席につけば、誰も暴れようなんて思いませんよ。少なくとも、ああやってマナーのある人なら」


「マナーがあるってよく分かったね」


「だって、ペンションにスーツですよ? つけているものも、ブランド品だし……。まあ、ある意味、ペンションでは非常識ですけど」


「確かに。……でも、それだけ?」


 その問いに、あかりは首を横に振る。


「それに、あの人の部屋のゴミ、チョコとレシートくらいしかなくって、お腹減ってイライラしてるのかなって。チョコも低血糖用でしたし。だから、ご飯食べれば少しは変わるかなって……」


「へえ、最近の若い子は鋭いんだねぇ……」


 すると、足立は少し間を置いてから、


「……バックヤードの中、入らないでね」


 と、あかりに言った。


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