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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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2/15

2 成り代わりシェフ

挿絵(By みてみん)


「ペンション、クローシュ? ――――あかりちゃん、今日からここで働くの?」


 ペンションの外。

 看板を見上げる、2人の女子大生がいた。2人とも、キャリーケースを横に置いている。


「そうだよ。私だけね」


 あかりと呼ばれた少女がそう答えると、


「知ってるよぉ~。スズメは、たまたま遊びにきただけだから!」


 と、スズメは自分のことを指してそう答えた。


「……絶対、嘘」


 そう言って肩を落とす、あかり。しかし、そんなあかりをスズメは無視して、


「さ、遅れちゃうし、さっさと入ろー!」


 と、促し、2人はペンションに入った。


 まず2人を出迎えたのは、受付を担当していた男――――石丸(いしまる)だった。石丸は、2人のお父さんくらいの年齢に見えた。


 石丸はあかりがアルバイトに来た女子大学生だと分かると、受付の裏にある従業員用の控室にあかりを案内した。すると、数分後、あかりは荷物を預けてアウターを脱ぎ、石丸と同じエプロンを巻いた姿になって受付に戻ってきた。


 その姿を見るなり、待っていたスズメが「おぉ~っ」と感心したように、目で上から下までなぞる。その視線が恥ずかしいのか、あかりはクネクネと体を左右に捻った。


「良いじゃん!」


 スズメの言葉に頷く、石丸。すると、石丸は、


「それじゃあ、日野川(ひのかわ)あかりさん。まず施設を案内するね。それから、業務内容を」


 と、続けて、それからスズメのほうを見た。


「……で、えっと」


小鳥遊(たかなし)スズメです!」


 スズメは手を挙げて元気に答える。が、石丸が聞きたいのは名前ではなかった。


「小鳥遊さん。小鳥遊さんは一応、バイトじゃなく宿泊ってことだけど、この後も一緒に?」


 その問いにスズメは明るく、


「いえ! 私、この後、ワカサギ釣りの予定があるんで! それじゃ!」


 と、答えると、次の瞬間には階段を上り始めていた。


「あ、部屋は3号室だから!」


 嵐のように去っていくスズメの背中に、そう声をかける石丸。結局受付に残ったのは、あかりと石丸の2人だった。


「すみません。あの子、自由奔放で」


 スズメの代わりに謝罪するあかりに、石丸は、


「……みたいだね。まあ気を取り直して、紹介を……」


 と、返すと、受付前の廊下を抜けた1階奥にあるレストランに向けて歩き出した。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 レストラン、ホール。


 2人掛けのテーブルが6席ほど作られているそこには、不自然なほどの笑顔を浮かべている、シェフ姿の足立。そして、足立に脅された女――――給仕服姿の西尾真美(まみ)がいた。


 その2人と対峙すると、あかりを連れてきた石丸は、


「って、島は?」


 と、尋ねた。そして、足立に、


「というか、あなたは……」


 怪訝そうな顔を向けた。


「あら、聞いてませんか? 私、本日より3日間、島さんの代わりにコックを務めることになった足立です」


 足立が白々しく答える。


「いえ、そんな連絡は……」


 そう石丸が否定すると、足立は途端に口ごもる。


「緊急の体調不良だとか、なんとか。あれ、仕入れで遠出だったかな? ま、とにかくよろしく、と……」


「……失礼ですが、島とは、どういう関係で」


「…………島が、他でシェフをしていた時の知り合いなんですよ」


 そう答えながら、足立は真美を肘で小突く。すると、真美も、


「私も、そう聞いてました」


 と、それに同意してみせた。


 石丸は黙ったまま足立の顔をじっと見つめる。が、次の瞬間にはこわばった表情を緩めて、


「ま、西尾さんがそう言うなら、そうなんでしょう。管理人兼受付の石丸です」


 と、挨拶をし、握手を求めた。


「よろしくお願いします」


 足立が安堵してそれを握り返すと、石丸は次にあかりを紹介する。


「こちら、今日からバイトで入る……」


「日野川あかりです。私も、今日から3日間、住み込みで。レストランじゃなくて、ペンションの方で、ですけど」


 そう言って、あかりが頭を下げる。その陰で、足立は笑顔のまま小声で真美に、


「彼女が来るの、知ってましたか?」


 と、尋ねた。すると、真美も同じようにして、


「確かに、そんなこと言ってたわ」


 と、返した。


「……いま来ても、ロクに教えられないんじゃなかったんですか」


「知らないわよ」


 そんなやり取りをしていると、あかりが何かを聞き逃したのかと、


「……え?」


 と、聞き返す。それを足立は誤魔化すように、


「あ、いえいえ。そうですか。足立です。足立、新人同士、よろしくお願いいたします」


 と、挨拶すると、


「西尾真美です。真美でいいわよ。ここは長いので、困ったことがあったら何でも聞いてね」


 と、真美も続けて挨拶した。


「それじゃあ、レストランはこんなところで。次は、2階へ」


 最後に石丸がそう提案したことで、なんとかこの場をやり過ごせた2人。


 去り際、


「失礼します」


 と、丁寧に頭を下げていったあかりの背中を笑顔で見送る、足立と真美。


 一見、柔らかな雰囲気で穏やかな空気感の2人だが、しかし、2人はその姿が見えなくなると一転、鬼のような形相を浮かべながら足早にバックヤードへ戻っていった。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 レストラン、バックヤード。


 勢いよくドアを閉めてドアを背に横並びになる、足立と真美。


「危なかったぁ……」


 2人の口から出たのは、そんな当然の感想だった。


「自信なさそうに答えるんじゃないわよ」


「自信なかったんですよ! そっちこそ、もっとフォローとか!」


「なんで、私がフォローしなくちゃなんないのよ! だいたい、あんたが和樹さんを……」


「ちょちょ、ちょっと!」


 すると、そう言いかけた真美の口を、足立が手で塞いだ。その時、足立は勢い余って、真美を強くロッカーに押しつけてしまう。


 ドンッ――――その衝撃で立ち並ぶロッカーが揺れると、『島』のロッカーのドアが開いて、中から島の硬直した死体が倒れてきた。


「……どこを塞いでも、いずれボロが出るわよ。それこそ、料理とか」


 丸太のように転がるそれを眺めて、真美が言った。すると、足立は真美を押さえる手を緩めて、


「分かってます。3日でいいんです。3日後、このペンションからは誰もいなくなる。そしたら、私は自首します。でも、その前に3日間でいいから、憧れだったフレンチシェフとして過ごしたいんです」


 と、語った。


「……大胆なんだか、小心者なんだか」


 真美は足立を押しのけると、制服を整えてドアへ向かう。そして、


「ともかく、もうすぐ開店。幸い、このペンションのお客様は3人しかいない。どうにかなるように祈るのね」


 と、ドアを閉じた。


 時計を見上げると、時刻は9時58分を指す。足立は急いで島を起こすと、ロッカーにしまった。


 ――――どこを塞いでも、いずれボロが出るわよ。それこそ、料理とか。


 ロッカーのドアに背を預け、ポケットからくしゃくしゃになったレシピを取り出す。


「……大丈夫。俺の料理は、通用する」


 足立は、祈るようにそれをおでこに押し当てた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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