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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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15/15

15 クローシュ【完結】

挿絵(By みてみん)


 夜。

 町にぽつんと佇む、小さなレストラン。


 席は5席ほどしかない。ただし、今日は貸し切りのため、やけに広く感じた。


 その厨房には1人、料理をしている男がいた。

 男は料理を皿に盛り付けると、最後にクローシュで閉じ、顔を上げる。


 その視線の先には、ドレスコードに則った姿でワインを飲みながら次の料理が出てくるのを待っている――――事件の頃よりも少し大人びたあかりとスズメの姿があった。


「そういえば、この間のニュース見た?」


 スズメが、あかりにスマートフォンのニュースを見せる。

 そこには、『美しき結婚詐欺師』の文字とともに、逮捕されるいすずの写真が映し出されていた。


「まさか結婚詐欺とは……。キャリーケースから、200万円越えの婚約指輪や札束がいくつも、か」


 顔を引きつらせる、あかり。それとは対照的に、スズメは、


「ずっと不思議だったんだよね。いすずさんみたいな綺麗で若い人が、なんで石丸さんみたいな人と付き合ってたのか」


 と、人ごとのように語った。


「――――意外と毒舌だね、小鳥遊さん」


 そこへ、男が料理を運んでやって来る。その姿を見ると、


「あ」


 と、スズメが顔を上げ、あかりも男のほうに顔を向ける。


 そこに立っていたのは――――足立だった。


 足立は料理を置きながら、


「荷物からは、遺言状も出てきたらしいね」


 と言う。すると、スズメは記事をまじまじ見ながら、


「本当だ。拇印(ぼいん)のついた遺言状がいくつも……」


 と、字をなぞっていった。


 それを聞くと、あかりは何かを思いついたように、


「え、まさか……」


 と、呟く。スズメは、その内容を聞かずにはいられなかった。


「どうしたの?」


「あの、石丸さんが酔っていた夜、あったじゃないですか。――――あの時、肩を貸した足立さんのシャツに赤い血のようなものがつきましたよね。ほら、足立さんは怪我してるんじゃないかって」


 と、言う。


「あれも、もしかして拇印だったんじゃないですか? 中原さん、石丸さんをオーナーだと思ってたんですよね」


 言われてみれば、そんなこともあったかもしれない。

 足立とスズメは死線を上にやると、なんとなくそうだったかなと思い出した。


「よくそんなこと覚えてるね」


 足立がその記憶力を称えると、続けてあかりは、


「しかも、あの夜、私たち階段の下でずいぶん話してたのに、外に出ていたはずの石丸さんと会わなかったんです。それって、もしかしたら……」


「もしかしたら……?」


「中原さん、石丸さんのことをオーナーだと思っていたみたいだし。お酒で酩酊状態にさせて遺言状を書かせて拇印を押させたんじゃないでしょうか。で、用済みになって、窓から……」


 と、推測を答えた。


 それを聞くと、足立たちの頭の中には――――あの日、自分たちが幽霊と勘違いして石丸さんを見つけて1階の外で騒いでいる姿を、1号室の窓から冷酷な顔で見下ろすいすずの姿が過った。


「――――初日に、部屋の前にお酒が並んでいたのは、仲良く飲んでたんじゃなくて、単純に失敗したから?」


 あかりが考えの全てを述べると、ゾッとする3人。


「……この話、やめよっか」


 足立がそう言うと、スズメもガラッと空気を変えるように、


「そ、そうそう! それよりも、お祝いしようよ! せっかくの貸切なんだし!」


 と、明るく言った。


「そ、そうですね。すみません」


 謝るあかりに、足立は微笑む。そして、


「では、改めて」


 と、仕切りなおすと、料理に被せていたクローシュを開いた。


「サーモンのムニエルです。どうぞ、白ワインと一緒に」


 その言葉に従うように、あかりとスズメはムニエルを一口含む。――――と、次の瞬間、美味しいと言うように目を見合わせた。


「美味しいです……!」


 あかりが素直に言うと、


「腕は健在ですね!」


 と、スズメが褒める。足立は、そんな2人の嘘のない表情が嬉しくて、


「ありがとうございます」


 と、頭を下げた。


「でもでも、腕があったって、お店を開くのは大変だったんじゃないですか?」


 スズメが聞く。と、足立は首を横に振った。


「いえ。実は、以前にお世話になっていた定食屋の店主がなくなり、閉まることになったんです。――――が、その息子さんのご厚意で、ここを破格の安さで貸していただけることになりまして。内装も好きにいじっていいと。――――1年半、刑務所で罪を償い、そこから1人で準備を進めて、このプレオープンまでさらに1年。大変と言えば大変でしたが、それ以上に幸運でした」


 足立は、しみじみと語る。と、あかりもワインを一口飲み、


「あれから、2年半か」


 と、懐かしむように言った。


「私たちも、半年後には大学4年生だよぉ~……。あかりちゃん……」


「……就職だね」


「あれ? でも、あかりちゃん、やりたいことあるんでしょ?」


「それは……」


 スズメにそう指摘されると、あかりは口ごもる。


「……あの、足立さんは挑戦するの怖くなかったんですか? 足立さんの場合、その、捕まって、一からで……」


 スズメは改めて足立のほうに身体を向けると、そう尋ねた。

 それは、あの頃のズバズバと推理を口にしていた姿とは、大違いだった。


「蓋は、開けてみなくちゃ分からない」


 そんなあかりに、足立はそう告げた。


「え?」


「今回の事件で学んだんです。あの日まで、私は自分がフレンチで誰かを感動させられるような、そんな料理人だと思っていませんでした。才能がない、出来っこないと、諦めていたんです」


「……でも、そうじゃなかった?」


「ええ。あなたたちのおかげで」


 そう言うと、足立はあかりの顔を見て、それからスズメとにっこりと笑い合った。


「そして、気づきました。――――最も愚かなことは、挑戦しないことだと。――――もっといろいろな可能性に目を向けていたなら、あの日の私は違う未来にいて、あの事件は起きなかったかもしれません。――――だから、もう自分の想いに蓋をするのはやめることにしたんです。やってダメなら、その時また考えればいいですから」


 足立は以前の優しいだけの怯えた笑顔とは違い、自身に満ち溢れた表情をしていた。


「……最も愚かなことは、挑戦しないこと」


 あかりは、足立の言葉を繰り返す。


「罪は償えても、時間は償えません。見ているだけ、ただ流れて行ってしまう。だから、挑戦するんです。この料理だって、多くの失敗の上に成り立っていますから」


 そう言われて、あかりは料理を見つめる。その美味しさは、あかりの中で本物だった。


「それでは、ごゆっくり」


 足立が、一礼して立ち去る。と、改めて食事に手をつけようと、スズメが料理に向き直ったその時だった。


 ふと、あかりの姿が、目に留まる。


「あかりちゃん?」


 スズメがそう声をかけると、あかりはおもむろに料理を一口口に運び、咀嚼をしながら数回頷く。そして、それを飲み込むと、


「スズメ、あのね……」


 と、口を開いた。



   ▼ ▼ ▼ ▼



 それから、さらに半年後。


 朝。

 とある空港のロビーには、泣きじゃくるスズメとキャリーケースを携えたあかりの姿があった。


「それじゃあ、旅立てないんだけど……」


 あかりはそう言うと、涙でぐちゃぐちゃのスズメの顔をハンカチで拭う。スズメは、既にポケットティッシュを手に持っていて、泣き腫らしていたのが分かる。


「もう、泣かないの」


「だって、4年生も一緒だと思ってたから~!」


 スズメはそう言いながら、あかりに抱きつく。


「1年だけだから。帰ってきたら、また足立さんのお店行こう?」


「その前に、絶対遊びに行く!」


「う、うち、オーストラリアだよ!? スズメ、就活もあるし、単位も足りて……」


「それでも行く!」


 あかりは冷静に諭そうとするも、スズメの意地を張った表情を見ると、諦めたように笑う。そして、


「分かった。じゃあ、その時は私が案内するね」


 と、子供をあやすように背中をポンポンと叩いた。


「……うん」


 あかりはスズメを体から離すと、キャリーケースを持って、


「じゃあ、またね」


 と、手を振る。すると、スズメはまた泣きそうになりながらも、


「またね」


 と、手を振った。


 あかりは飛行機に乗りながら、小さくなっていく街を眺める。それをスズメは最後まで地上から見送っていた。


(……確かに、人生は何が起こるか分からない。どれが失敗で、何が成功につながるのかも。――――だから、今はただ、飛び込んでみようと思う。だって、最も愚かなことは、周りの声や弱さに流されて、思いついたことも気になったことも夢にも自分自身にも蓋をして、それと向き合わないことなのだから)


 一息つくと、あかりはカバンから雑誌を取り出す。


 その表紙には、“月刊スペシャリテ”の文字と『次に来る料理店11選』のという見出しとともに――――足立の姿が映っていた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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