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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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12/15

12 あの夜、1号室で

挿絵(By みてみん)



「……それは、無い。夜、鉢合わせたなんて。何かを仕掛ける時間だってなかったはずだ」


 石丸は、ある種の確信を持ってそう答えているように思えた。


「え、どうして?」


 あかりに質問されると、石丸はいすずを見る。そして、いすずが頷いた。


「俺たちは昨日の夜、一緒に飲んでたんだ。君たちが、自分の部屋に入ったすぐ後で」


 従業員宿舎、リビング。――――その一言が、静けさを生む。


 そして、あかりが、


「え」


 と、漏らすと、


「え……」


 と、続けて真美が、そしてとどめに、


「――――ええええええっ!?」


 と、スズメが驚きの声を上げた。


「ど、ど、ど、どうして、あなたみたいな若い子が、こんなおじさんを……!?」


 直後、真美がほとんどの人間が思っていたことを、躊躇わず口にした。


 その遠慮のなさに、石丸が、


「西尾さん……?」


 と、困惑する。真美に詰め寄られたいすずも、


「えっと……」


 と、戸惑っていた。


「クローシュには、俺が招待したんだよ。会社員時代の後輩に紹介されてね。それで、会っているうちにそういう仲に」


 石丸はそれ見かねてか、石丸は腕を組むと顎に右手を置いて、代わりにそう答える。その説明を聞いても、真美は未だに、


「信じらんない……」


 と、目を丸くしていた。


「今からでも遅くないわ。やめたほうが……」


 真美の言葉に、


「西尾さん……!?」


 と、再び石丸が困惑する。と、そこであかりが、


「というか、どうして西尾さんもその関係を知らないんですか」


 と、割って入った。


「確かに! ペンションには、何度も来てるって」


 スズメが言うと、


「隠していたってこと?」


 と、足立が続く。そこで、


「……あ!」


 と、あかりは気がついた。


 昨日の記憶が、フラッシュバックする。


 それは、あかりがペンションの前を掃除していた時のことだった。

 銀のバンから降りてきて、掃除中のあかりと談笑しているスズメをペンションへ促す、石丸。その時、石丸は降りるなり、あかりたちに声をかけたため――――。


「――――そういえば、あの夜。石丸さん、車に鍵をかけていませんでした」


 あかりは、そう言うと、


「偽装だったんだ。――――昨日、石丸さんは、本当は中原さんと2人で出かけていた。で、あの夜は石丸さんが先に降りて人目をどかした後、中原さんが車から鍵を抜き、何事もなく帰ってきたふりをする。鍵はスタッフに渡すことで、石丸さんの元へ届けられる。そういうトリックだったんです!」


 と、推理する。すると、足立が、


「……でも、どうして偽装を?」


 と、当然の疑問を呟いた。


 全員が、石丸といすずを見る。と、石丸は急に困ったように、


「それは……」


 と、言い淀んだ。


「私は、恋人ってバレて、みんなに気を遣わせたくないって聞きましたけど……」


 いすずの答えに、真美が、


「気を遣わせる? 誰によ。百歩譲って、このペンションのオーナーなら、スタッフは気を遣うかもしれないけど」


 と、言う。すると、いすずの表情が、


「……え?」


 と、固まった。その違和感に、あかりが、


「え?」


 と、真美を見ると、さらに石丸が、


「あ……」


 と、溢し、その態度に真美が、


「え?」


 と、振り返った。


 部屋に、困惑の空気が流れる。

 例えるなら、まだ告白していないのに空気の読めない人間に好きな人の前で好きなことをばらされたような、そんなちぐはぐで気まずい空気だ。


「……あ、や、ここって、石丸さんのペンションだと思ってたから、びっくりして」


 そのいすずの言葉に、あかりも、


「それは、私も。確か管理人って……」


 と、続く。確か、足立にだってそう名乗っていたはずだ。


 しかし、真美はそれを、


「いや? 島が好き勝手料理したいから始めたのよ。管理人ってのは、あくまでここの経営のこと」


 と、あっさり否定する。


 それを聞くと、いすずは石丸を見る。その石丸は、窓の外を見ていた。


「島が料理に集中するために雇ったのが石丸さん。元々、ある会社の経理を首になったところを、誘って」


 そう説明して、真美は「ね?」と石丸に確認する。

 それに、石丸は気まずそうに「……ああ」と答えるだけだった。


「というか、オーナーってほど、羽振も良くないでしょ。うち、そこまで儲かってるわけでもないし、給料もたかがしれて……」


「そう、なんですか? いろいろとプレゼントしてくれましたけど……」


「えぇ?」


 いすずの言葉に、真美は顔をしかめる。そして、石丸に、


「あんた、横領とかしてるんじゃ……」


 と、聞いた。――――その時だった。


「いやいや! そんなことは!」


 石丸が腕を組んで右手を顎に寄せ、それを否定した。


「あ、顎に手」


 次の瞬間、いすずがそれを指摘する。石丸は、


「え?」


 と、驚いた。しかし、理解できないのも無理はなかった。


「この人が嘘つく時の癖です」


 そう、自分の癖など大抵は気づけないものなのだから。


「ってことは、本当に横領を!?」


 真美の言葉に、


「ち、違っ……!」


 と、石丸は動揺し、組んでいた腕に気がついて腕を下ろした。――――しかし、もう手遅れだった。


 静観していたあかりが、


「関係を隠していたのは、そこから横領がバレないように?」


 と、推理すると、スズメが、


「そう言えば、石丸さん。1日目に大荷物を車に積んでましたけど、あれってまさか……」


 と、続き、最後にいすずが、


「あ、私、3日後にクローシュが閉まるから、そしたら旅行に行こうって誘われてました」


 と、言う。


 すると、あかりはごく自然な結論に辿り着いた。


「――――横領の事実が島さんにバレて、思わず殺してしまい、逃走する気だった?」


 その答えに、石丸は、


「ちょ、ちょっと待ってくれ! そもそも旅行を提案したのは、1週間以上前だ!」


 と、反論する。と、真美がいすずに、


「どうなの?」


 と、尋ねた。


「それは、そうですね」


 さらに、石丸は矢継ぎ早に、


「それに、もし横領していて、それがバレてたなら、島はすぐに通報するはずだ。少なくとも、俺からペンションの通帳を取り上げるだろ!?」


 と言って、リビングを出る。――――と、数秒後、通帳を掲げて戻ってきた。


「でも、俺はこうして通帳持ってるんだよ!」


 真美が、


「それは、島を殺して取り上げたんじゃ……」


 と、突っ込むと、石丸は足立を指差し、


「いつ!? この偽シェフがいたのにか!? そもそも俺は、こいつが今日来ることさえ、知らなかったんだよ!」


 と、返した。


 それには、真美も「確かに……」と納得せざるを得ない。


「つまり、俺はやってない! 横領も、何もかも!」


 石丸の力説に再び静かになる、一同。


 すると、今度はいすずが、


「……横領はともかく、私もずっとキャリーケースといましたし、鍵も閉めてました。それに、石丸さんと別れた後は寝てましたし。旦那さんを殺す理由もありません」


 と、語った。


「そう、ですね」


 あかりはその説明を認めると、手詰まりになる。そこへ、足立が、


「なら、もっと後?」


 と、聞いてきた。


「となると、私は足立さんとスズメと帰ってましたかね?」


「ああ、それで酔っ払ってる石丸さんを拾ったね」


 あかりの言葉に足立が同意すると、スズメが、


「西尾さんは?」


 と、真美に尋ねた。


「ええっと、着替えて、バックヤードの電灯交換して……」


「あ、石丸さんを届けた後に、レストランの方から来る西尾さんと会いました。ちゃんと着替えてたし、手には電灯も」


 真美の証言を、足立が裏付ける。すると、あかり自身も、


「朝、バックヤードに行った時、電灯は普通でした。少なくとも、漏電はしてなさそうでした」


 と、それを肯定した。


「なら、問題ないなさそう」


 足立がそう言うと、スズメは、


「中原さんは寝ていて、私、あかりちゃん、足立さん、石丸さんは4人で行動。真美さんもちゃんと目撃証言がある……」


 と、指を折りながら整理する。それを聞く限り、誰も犯行なんてできはしなさそうだった。


 あかりは、黙る。疑問は尽きていた。

 それでも、何かないかと頭の中を探る。それは、まるで粗探しのようだった。


「……ねえ、あかりちゃん。この中にわざと火事を起こした人なんて、本当はいないんじゃない? 島も賢一さんも、不運が重なってしまっただけで」


 そこへ、真美がそう優しく言った。


 あかりは目が合うと、ハッとする。

 その瞳を見て、あかりはようやく気がついたのだ。この事件の被害者は、真美の夫である賢一であり、それを誰かが殺したと決めつけてこれ以上引っ掻き回すというのは、実はとてもひどいことをしているんじゃないかと。


 そうして気づけば、全員の視線があかりに集中していた。


「……そうですね。すみませんでした。いたずらにかき乱してしまって」


 全員に向けてあかりはそう言うと、それから改めていすずに、


「疑って、すみませんでした」


 と、頭を下げた。


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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