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【完結済み】クローシュ - 殺人シェフの成り代わり大作戦 -(全15話)   作者: 誰時 じゃむ


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11 中原いすずという女


挿絵(By みてみん)


「……別に気になることがあるんです」


 従業員宿舎、リビング。

 その真ん中で、あかりはそう言う。


 そして、真美が、


「気になること?」


 と、聞くと、あかりは探偵のように皆に向けて、


「そもそも、どうして火事は起きたのでしょうか。それも、火を扱うレストランではなく、2階から」


 と、疑問を提示した。


 リビングにいる全員がハッとする。そして、互いを見合った。


 足立は生唾を飲みこむと、


「もしかして、誰かが火を……?」


 と、口にした。しかし、当の本人であるあかりは、


「え?」


 と、不意をつかれたように足立を見た。


「あれ? いや、この流れなら、そう言いたいのかなって……」


「あ、いやいや、全然。ただ、どうしてなのかなって」


 会話が行き違う、2人。すると、1号室の女性が、


「……ブレーカー、じゃないですか?」


 と、口を挟んだ。


「ブレーカー?」


 あかりが反応すると、1号室の女性は、


「今日、2度も落ちてたんですよね?」


 と、続ける。


「2度……」


「1つは、私たちが廊下で会った今朝。そして、もう1つは……」


 あかりにそう言うと、1号室の女性は今度はスズメのほうに向く。と、スズメは合点がいったようにぽんと手を叩いて、


「あ! 夜中の!」


 と、真美を見た。


「ブレーカーが落ちる理由は、2つあります。1つはキャパオーバー。1つは、漏電。でも、昼間にレストランが稼働していて問題なかった『クローシュ』のブレーカーが、夜中の暖房だけで落ちるとは……」


 1号室の女性の解説を聞くと、あかりは、


「なら、ブレーカーが2度も落ちたのは……」


 と、1号室の女性を見た。すると、1号室の女性は頷いて、


「どこかで、漏電していた。にも関わらず、ブレーカーを上げた。だから、漏電によって発火した」


 と、答えを口にした。


「なら、私が安易にブレーカーを上げなければ……」


 真美が言った。

 確かに、2度ともブレーカーを上げたのは、真美だった。つまり、この火事の間接的な原因は、真美にあると言えた。


 今にも自分を責めだしてしまいそうな表情になる、真美。しかし、それを石丸が、


「いやいや、単純に老朽化だろう。俺がここに来た時から、随分と経ったんだし」


 と、宥める。あくまで、これは事故だと言うように。


 だが、一方であかりは、


「……どうなんだろ」


 と、納得いっていないようだった。


「え?」


 石丸が振り返ると、あかりは1号室の女性を見て、


「えっと……。1号室のお客様は……」


 と、話しづらそうにする。それを見かねた1号室の女性は、


「……あ、中原(なかはら)です。中原いすず」


 と、名乗った。


「中原さん。なんで、荷物を取りに2階に向かったんですか?」


「え?」


「もしかして、発火場所、分かっていたんじゃないですか? タイミングは分からなくとも」


 暴論にも思えるあかりの推理に、足立はたまらず、


「ちょっと、日野川さん!」


 と、突っ込む。しかし、あかりはそれを制して、


「だって、スズメ、体一つで出てくるほどでした。石丸さんだって、足立さんだって。みんな混乱して。でも、あなたは……」


 と、続けた。


 あかりの頭の中には、燃えるペンションから抜け出してきたスズメの、


 ――――あの人、火災報知器が鳴ったら、すぐにレストランを出て行っちゃって。


 という言葉が思い出された。


「それって、まるで分かっていたみたいじゃないですか。火事が起こること」


 あかりの指摘に、いすずは目を伏せる。


「……荷物が、大切なものが入ってるから。すぐに取りに行かなきゃって」


 すると、あかりは、


「見てもいいですか? 中身」


 と、図々しく尋ねた。


「――――いくらなんでも失礼だろ、君!」


 それを叱ったのは、石丸だった。


 普通の人なら一瞬で委縮してしまうであろう怒号。実際、足立もビクッと肩を揺らしていた。


 しかし、あかりは石丸をじっと見つめると、


「あの時、少しでも避難が遅れていたら、スズメはあの瓦礫に巻き込まれていたかもしれません。――――もし、火事が故意だとするなら、私は犯人を許さない。今のところ、怪しい動きをしているのは、中原さんだけです。違ったら、素直に謝ります」


 と、はっきり自分の考えを伝えた。


「……それでも、見せられない」


 それでも、頑なな態度を見せる、いすず。と、石丸もそれに、


「当然だ! それに火事が故意なわけないだろ!」


 と、同調する。


「そうでしょうか。ブレーカーは、昨夜から今朝にかけて集中して落ちています。…‥が、以前はどうだったんですか?」


 一方で、あかりはあくまで感情ではなく冷静に解決しようと、気になる点を足立に聞く。――――が、そんな張り詰めた空気を乱すように、


「あ、俺は……」


 と、次の瞬間、足立が戸惑った。


「……あ」


 あかりは、足立と目が合うと思い出す。


 そうだった。足立は、このペンションの人間ではなかったのだ。


「全くと言っていいほどなかったわよ」


 そこへ、真美が口を挟む。と、あかりは再びきりっとした顔に戻って、


「そして、昨日は大雨による土砂崩れもなかった。そもそも、昼のほうがみんなが動き出して、レストランも回転するし、洗濯もするし、お風呂だって沸かして電力を使うはずなのに、夜まで停電なんてことはなかった。――――つまり、夜中にブレーカーが落ちるまでに、何かが行われたと思っていい。それも、2号室で」


 と、語った。


「2号室で?」


 と、足立が尋ねると、


「外から見た時、発火元は2階でした。それも、2号室のあたりで」


 と、あかりが説明する。


「だったら、むしろ、昼にペンションにいた、あんたらのほうが怪しいじゃないか! 何か、仕組んだんじゃないのか!」


 それに石丸が噛みつく。しかし、あかりはあくまで冷静に、


「さっきも言いましたが、そもそも昼はブレーカーも落ちてません」


 と、説明する。すると、足立が、


「……なら犯行は、ブレーカーが落ちるようになった夜?」


 と、尋ねた。


「ええ。時間的には、西尾さんの旦那さんが訪れてから、2号室に何かを仕掛けた」


 あかりが頷く一方で、石丸はまだまだ納得がいかないのか、


「それでも、そもそも彼女にはペンションを燃やす理由がないだろう」


 と、いすずのほうを見た。


 その時、あかりが、


「……逆。燃やさなければならなかった理由……」


 と、呟く。と、その目にいすずのキャリーケースが留まった。


「中原さん、食事を終えた後、何してました?」


 その質問に、いすずが、


「え……」


 と、困惑する。


「私とスズメは先に出て、3号室に」


 あかりがそう言うと、足立は、


「その時間なら、俺は洗い物を。西尾さんは掃除とテーブルクロスの交換を」


 と、答える。それに真美も頷く。


 あかりはその言葉を聞くと、


「そして、部屋に戻る際、私は受付に石丸さんがいたのを見ました。つまり、目撃情報がないのは、中原さん。そして、西尾さんの旦那さんの2人だけ」


 と、続け、いすずを見つめた。


「どこかで鉢合わせて、見られたんじゃないですか? そこまで頑なに隠す、キャリーケースの中身」


 いすずは、答えない。怯えて答えられないわけじゃない。自らの意志で、口を閉ざしている。


 硬直した時間。

 すると、次に口を開いたのは――――石丸だった。


「……それは、無い。夜、鉢合わせたなんて。何かを仕掛ける時間だってなかったはずだ」


 石丸は、ある種の確信を持ってそう答えているように思えた。


「え、どうして?」


 あかりに質問されると、石丸はいすずを見る。そして、いすずが頷いた。


「……俺たちは昨日の夜、一緒に飲んでたんだ。君たちが、自分の部屋に入ったすぐ後で」


 ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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