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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
学園編
4/24

妹の裏の顔

学院の図書館の一角、窓から差し込む午後の光が、埃の粒を金色に照らしていた。

リヴィアは机に広げた古代魔術の写本を閉じ、長く息を吐く。昨日の模擬戦の余韻は、まだ学院内に残っていた。

廊下を通り過ぎる生徒たちは「ミア様の炎は圧巻だった」と口々に語り、その名は一日中、彼女の耳に届いていた。


だが、それと同時に――。


「やっぱり、あの氷の魔法は偶然よね」

「見た?全然派手じゃなかったじゃない」

「お姉様なのに可哀想…でもまあ、仕方ないわね」


聞こえぬふりをしてページを繰る。

だが、心の奥底で静かに積み上がる何かがある。氷のように硬く、そして冷たい意志。


机の向かいにレオンが座り、低く囁く。

「昨日の戦い方、あれで正解だった。派手さはなくとも、君の力を察した者はいる」

「察した者がいたとしても……それが脅威になるには、まだ足りませんわ」

「焦るな。舞台は作るものだ」


その言葉に、リヴィアは小さくうなずいた。


――その頃。

学院の温室では、ミアが取り巻きたちと談笑していた。色とりどりの花々が咲き乱れる中、彼女は笑顔を浮かべながらも、瞳だけは鋭く光っている。


「エルネスト、昨日はありがとう。あなたがあの場を支えてくれたおかげで、完璧な勝利でしたわ」

「光栄です、ミア様」

彼は恭しく頭を下げる。だが次の瞬間、ミアは声を潜め、彼の耳元で囁いた。

「……それで、例の噂、広まっていますの?」

「はい。『リヴィア様は魔力が不安定で危険』という話が、既に上級生の間で…」

「ふふ、それならしばらく放っておきましょう。いずれ彼女は自分の居場所を失うわ」


笑顔は崩さず、ミアは花弁を指先で弄ぶ。

その所作はあまりにも優雅で、残酷な意図が隠れていることなど、周囲の誰も気づかない。


夕刻、学院の廊下でリヴィアは小さなざわめきを耳にした。

「…危険?」

ほんの一言だったが、足を止めるには十分だった。

声の方を向けば、二人の女生徒がひそひそと囁き合っている。彼女の視線に気づくと、慌てて会釈して去っていった。


背後からレオンの声がした。

「どうやら、君に関する妙な話が広まり始めているな」

「ええ。…そして、その火元が誰かも、何となく見当はついていますわ」

リヴィアの瞳は細くなり、氷の底に小さな炎が灯った。

「妹には、相応しい舞台を用意して差し上げませんと」


その夜、リヴィアは窓辺に立ち、月を見上げた。

銀色の光が彼女の髪を照らし、部屋の中の影を深くする。

――妹ミアの笑顔が、頭の中に浮かんだ。

その裏に潜む毒を、必ず白日の下に晒す。

静かな誓いが、春の夜に凍てつくように広がっていった。

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