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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
王国編
27/29

氷と炎の姉妹

 王都を覆った黒き蓮の影。その黒幕は、王家の血筋に連なる隠された一派であった。

 「この国は腐り切っている……真の統治者は我らだ」

 高らかに宣言したその男の背後には、異形の魔獣と漆黒の兵団。戴冠式で芽生えた陰謀が、ついに牙を剥いたのだ。


 だが、王宮の大広間に立つ二人の少女の姿は揺るがなかった。

 リヴィアは氷の扇を広げ、冷たくも毅然と声を放つ。

 「王国を凍らせたいのなら、お好きになさいませ。ただし――わたくしの許す範囲で、ですわ」

 ミアは隣で微笑み、燃え立つ炎を掌に宿す。

 「私たちはもう、ひとりじゃない。お姉さまと一緒なら、どんな闇にも勝てる」


 戦いは熾烈を極めた。

 黒幕が召喚した魔獣の群れを、リヴィアの氷壁が次々と封じ、空間を断つ魔術で敵の陣形を切り裂く。

 その隙をミアの炎が鮮やかに駆け抜け、闇を焼き払う。


 氷と炎――本来なら相容れぬはずの力が、いまは完璧な調和を奏でていた。

 「……これが、姉妹の力ですのよ!」

 二人の魔力が重なり、蒼炎の輝きとなって黒幕を包み込む。


 最後に残ったのは、燃え尽きた蓮の花弁と、希望の光に照らされた王国の人々の歓声だった。


 ◇


 戦いの後、ヴァルシュタイン公爵夫妻は陰謀に加担した一派との繋がりを暴かれ、社交界から完全に追放された。

 かつて「名門」と呼ばれたその姿はもうなく、彼らの傲慢さは廃墟のように崩れ去った。


 一方でリヴィアとミアは、王国において「氷と炎の姉妹」と讃えられ、未来を切り拓く象徴となる。

 民はミアの温かさを愛し、貴族たちはリヴィアの冷徹な才覚に畏敬を抱く。


 夜空に二人並んで立ち、王都を見下ろす。

 「これからは、あなたと共に歩みますわ、ミア」

 「ええ、お姉さま。私たちの物語は、まだ始まったばかり」


 氷と炎が寄り添うように光を放ち、王国の夜を照らした。


 ――その輝きこそ、真に姉妹が選び取った未来であった。

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