ヴァルシュタイン家の秘密
王宮の地下文庫。普段は封じられた一室にて、リヴィアは古い羊皮紙を開いた。
そこには、数世代前のヴァルシュタイン家の血脈と、代々伝わる「魔力の記録」が記されていた。
淡く青い文字が、氷晶のように紙面に浮かび上がる。
「……やはり、そうでしたのね」
リヴィアは気づいていた。自らの魔力が常軌を逸していることに。
しかし記録には、さらに恐ろしい真実が刻まれていた。
――彼女の魔力は、王家の象徴たる『聖紋』を凌駕しかねない規模である、と。
そのとき、物陰から現れたのは父と母だった。
「お前がここに来るとは思っていたよ、リヴィア」
「私たちは……お前を守るために、あえて冷遇したのだ」
母の声は震えていた。
曰く――もし幼いリヴィアが力を制御できぬまま表舞台に立てば、王家にとって最大の脅威とみなされる。
反逆の芽と疑われれば、ヴァルシュタイン家は一族もろとも滅びかねない。
その恐怖が、彼らを「凡庸な姉」として扱い、家の片隅に追いやる行動へと駆り立てたのだった。
「守る……ですって?」
リヴィアの声は氷刃のように鋭く響いた。
「わたくしを踏みにじり、妹ばかりを光に晒して……それを“守った”と呼ぶのですか?」
ミアが駆け寄り、必死に姉の手を握る。
「お姉さま……もういいの。私はずっと知ってた。お姉さまが冷たいんじゃない、本当は誰よりも温かい人だって」
その言葉に、リヴィアの瞳に氷の膜が揺らぐ。
父母はなおも言い訳を重ねる。
「私たちは家を守るために――」
「家? そんなものはもう灰ですわ」
リヴィアの扇が鋭く閉じられる音が響いた。
「わたくしは妹と共に、この力を王国の未来のために使います。あなた方の恐怖のためではありません」
その夜、ヴァルシュタイン家の権威は決定的に揺らいだ。
社交界では「公爵夫妻が娘に見捨てられた」と囁かれ、かつての威光は急速に失われてゆく。
一方、リヴィアとミアの絆は、逆境の中でようやく真に結ばれたのだった。
氷と炎――二つの力が、王国を覆う黒き蓮に対抗する唯一の光となり始めていた。




