王国を揺るがす兆し
戴冠式の余韻が消えぬうちに、王国全土で不穏な報が次々と届いた。
北方では領民が税の重さに耐えかね反乱を起こし、南境では隣国からの密使が暗躍しているとの噂。さらに都の市場では、兵糧を狙った盗賊団が民を脅かしていた。
王宮の地図に赤い印が増えるたび、リヴィアの瞳はさらに氷の色を濃くする。
「これは単なる偶発ではありませんわ。点が線となり、やがて王国を呑み込む網に変わる……誰かが仕組んでおります」
彼女は密偵からの報告を重ね、黒蓮の印が反乱と盗賊団の背後にちらついていることを突き止める。
だが証拠はまだ曖昧。敵は巧妙に影を隠し、王国をじわじわと侵食していた。
一方のミアは、豪奢な宮廷ではなく、市井に身を置いていた。
「お姉さまは冷たい計算を信じている。でも、私は人の声を信じたいの」
彼女は民の間に入り、食堂や路地で話を聞き、笑顔で子供にパンを分け与える。
その姿は、民にとって希望そのものだった。ミアの名は瞬く間に広がり、やがて「火の姫」と呼ばれるようになる。
だが、その光は同時に敵の標的ともなった。
夜更けの路地で、覆面の刺客が彼女を襲う。
燃え上がる炎で間一髪撃退したが、影の中に浮かんだのは――黒蓮の紋章。
「……やはり、狙われているのね」
姉は王宮で氷のごとく策を練り、妹は民の中で炎のごとく人心を掴む。
だが両者の道は、同じ敵へと収束していった。
リヴィアは王宮の地図を睨みつけ、扇を閉じる。
「民を動かす炎と、策を張り巡らす氷。どちらも欠ければ、王国は崩れ落ちるでしょう。――妹よ、次は共に戦う時ですわ」




