氷と炎の政治劇
王都の大広間には、燭台の光が揺らめいていた。新王の即位を祝した余興のひとつとして「次代を担う若き貴族子女による討論会」が催されたのだ。
題目は「王国の未来」。表向きは華やかな催しに過ぎぬが、実際には次世代の力を見極め、派閥に引き入れようとする思惑が渦巻いていた。
壇上に立ったのはリヴィア。冷たいほどに整った声音で、王国の財政・防衛・秩序を守るための具体的な施策を論じる。
「王国の未来に必要なのは、感情ではなく秩序。氷のごとき冷静な判断と計算こそ、民を飢えから救いましょう」
会場は一瞬静まり返り、やがて重々しい拍手が響く。だが、その空気を破るように、真紅のドレスをまとった令嬢が進み出た。
「秩序? 冷静? それだけで民が生きられると思いまして?」
炎の令嬢――かつて学園でリヴィアと激しく対立した宿敵。瞳には熱を宿し、声は火のごとく燃え盛っていた。
「民が求めているのは希望。血の通った温もりですわ! 数字ばかり追って人の心を捨てるのは、ただの傀儡と同じ!」
場は二分された。片や理知を重んじる氷の論、片や情熱に突き動かされる炎の叫び。
その狭間で、ミアは観客席の中央に立ち上がった。
「ねえ、どちらが正しいって決めなくてもいいんじゃない? 冷たさと温かさ……両方があれば、民は本当に守られると思うの」
観衆の間にざわめきが走る。幼さを残した声でありながら、その真摯な響きは人々の胸に染み入っていった。
だがその裏で、リヴィアの視線は別の一点を捕えていた。
王妃派の貴族の一人が、炎の令嬢の背後で密かに頷き、袖口から「黒き蓮」の刻印を覗かせていたのだ。
――黒蓮は、宮廷にまで根を下ろしている。
リヴィアは扇を唇に寄せ、低く囁く。
「ここからが本当の戦場ですわね……」




