表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
王国編
22/29

姉妹の立場

 戴冠式を終えた王都は、なおも祝賀の喧騒に包まれていた。だが宮廷の奥では、早くも権力をめぐる駆け引きが始まっている。新王の即位は、諸派閥にとって新たな均衡を作り直す好機。そこで注目を集め始めたのが――ヴァルシュタイン家の姉妹だった。


 「冷徹に物事を見抜く氷の令嬢」リヴィア。

 「人々の心を惹きつける希望の光」ミア。


 二人の存在は宮廷で対照的な評価を得ていた。王妃派の侍女たちはミアの愛嬌を「新しい時代の象徴」と持ち上げ、宰相派の官僚たちはリヴィアの洞察を「冷酷無比な策士」と評した。誰もが姉妹を利用しようと動き始め、彼女たちの周りには言葉にできぬ圧が渦巻いていく。


 ある夜、王城で盛大な晩餐会が催された。煌びやかなシャンデリアの下、銀食器に並ぶ豪華な料理。笑い声が絶えぬはずの場で、リヴィアは微かな違和感を感じ取っていた。


 「ミア、そちらの杯を口にしてはなりませんわ」

 「え? でもせっかく勧められたのに……」


 リヴィアは迷わず妹の手から杯を取り上げると、白い手袋の指先でそっと縁をなぞった。わずかに残る薬臭。人を一時的に昏倒させる穏やかな毒――痕跡を知るのは訓練を積んだ者のみ。


 「まぁ……これが宮廷というものですのね」

 「……っ、そんな。わたし、ただ笑っていただけなのに」


 ミアの瞳に揺らぐ恐怖を、リヴィアは真っ直ぐに見返した。

 「だからこそ守らねばなりませんの。あなたの光は多くを惹きつけます。けれど、光は闇を呼ぶのです」


 その言葉に、ミアは唇を噛みしめる。自分の笑顔が、知らぬうちに姉を苦しい立場へ追い込んでいたのではないか――そんな不安が胸を締め付けた。


 晩餐会の終盤、宮廷楽団の旋律が響く中で、二人は小さく手を取り合った。互いに傷つけ合うのではなく、互いを守り合うために――。


 「リヴィア……わたし、もっと強くなるね」

 「ええ、ミア。わたくしたち姉妹は、共に在る限り負けませんわ」


 夜会の陰に仕掛けられた小さな罠は、二人の絆をより強く結び直すきっかけとなった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ