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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
王国編
21/29

戴冠式の陰に潜む策謀

 王都は祝賀の空気に包まれていた。石畳の街路には色とりどりの旗が翻り、鐘楼からは高らかな鐘の音が響き渡る。新王即位の戴冠式――王国全土から諸侯と民衆が集い、王都は華やかさと緊張に満ちていた。


 ヴァルシュタイン公爵家の馬車が王城へと乗り入れると、群衆の視線が一斉に向けられる。没落しかけているとはいえ、王国屈指の名門。その名はまだ人々に畏敬を抱かせるに十分だった。両親は威光を保つため、否応なく二人の娘を伴わざるを得なかったのだ。


 姉リヴィアは深い蒼のドレスに身を包み、氷のように冷たい瞳を周囲に向けていた。彼女の視線は、祝福の笑顔の裏に潜む思惑を鋭く見抜いていく。立ち居振る舞いは一分の隙もなく、宮廷の視線を引き締めさせるほどに威厳を漂わせていた。


 一方、妹ミアは真紅のドレスに身を包み、太陽のような笑みを浮かべていた。緊張した若い貴族子女に話しかけ、緊張を解きほぐすその姿は、自然と人々の心を掴んでいく。無邪気さと温かさが、堅苦しい場を柔らかく変えていた。


 「……ミア、油断なさらないで。笑顔の裏に牙を隠している者もいるのですわ」

 「だって、みんな楽しそうなんだもん。わたし、仲良くなれたらいいなって思っただけだよ」


 リヴィアは眉をひそめた。だが、そんな妹の純真さこそが時に武器となることを、彼女自身も知っていた。愛される存在は同時に狙われやすい――その危うさを感じ取って、氷のような警戒を一層強める。


 やがて戴冠の瞬間、王冠が新王の頭上に掲げられたその時。人々の歓声に紛れて、遠くの一角で小さな合図が交わされた。ごくわずかな仕草、しかしリヴィアの眼差しはそれを見逃さなかった。


 ――これはただの祝宴ではない。何者かが動いている。


 胸の奥で、氷のような決意が固まる。

 リヴィアは静かに息を吸い込み、王国全体を見据えるように視線を上げた。

 氷の力を、そして己の頭脳を、政治の武器として振るう時が来たのだと。

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