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白薔薇の檻  作者: 雨宮 巴
学園編
20/29

学院を越えて、王国へ

王立魔術学院の鐘が、新たな副会長の誕生を告げてから三日。

リヴィア・ヴァルシュタインの名は、もはや学院内だけでなく、王都の社交界にも広まりつつあった。

氷を操る令嬢が華やかな妹を破り、正々堂々と座を勝ち取った――その話題は、噂好きの貴族たちにとって格好の酒肴だった。


副会長就任式の日。

講堂の壇上で学院長から徽章を授けられたリヴィアは、深く一礼した。

視線を上げると、最前列にはミアが座っている。

彼女は悔しさを隠しながらも微笑み、軽く頷いた。

その合図は、敗北の承認であり、同時に「まだ終わっていない」という無言の誓いでもあった。


式典の後、学院長室に呼び出されたリヴィアは、厚い封筒を手渡された。

「これは、王宮からの招聘状だ。

来月、グランシュタット王国と隣国ルーヴェンとの合同魔術会議が開かれる。副会長として出席してほしい」


封筒の封蝋を割ると、そこには国王直筆の招待状と、魔術師協会の紋章入りの書状が入っていた。

「……わたくしを、この国の外へ」

リヴィアは封書を閉じ、冷たい指先で徽章を撫でた。


その夜、学院の尖塔の上。

レオンが星空を見上げながら言う。

「学院での戦いは終わった。だが、これからは王国全体が相手になる」

「ええ。……そして、あの子も必ずついて来るでしょう」

リヴィアの視線の先、遠くの温室の窓から灯りが漏れている。

そこではミアが、取り巻きに囲まれながらも、何やら地図と書類を広げていた。


氷と炎、姉妹の物語は学院という小さな舞台を離れ、王国という広大な劇場へと移ろうとしていた。

国内派閥、国外勢力、魔術師協会、そして王家――

全てを巻き込み、奪い、覆すための戦いが始まろうとしている。


リヴィアは静かに夜空に手を伸ばした。

その蒼い瞳には、もはや学院副会長という肩書きすら小さく見えるほどの野心が、はっきりと燃えていた。


「――次は、この国そのものを凍らせますわ」


物語は、ここから新たな章へと続く。

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