学院を越えて、王国へ
王立魔術学院の鐘が、新たな副会長の誕生を告げてから三日。
リヴィア・ヴァルシュタインの名は、もはや学院内だけでなく、王都の社交界にも広まりつつあった。
氷を操る令嬢が華やかな妹を破り、正々堂々と座を勝ち取った――その話題は、噂好きの貴族たちにとって格好の酒肴だった。
副会長就任式の日。
講堂の壇上で学院長から徽章を授けられたリヴィアは、深く一礼した。
視線を上げると、最前列にはミアが座っている。
彼女は悔しさを隠しながらも微笑み、軽く頷いた。
その合図は、敗北の承認であり、同時に「まだ終わっていない」という無言の誓いでもあった。
式典の後、学院長室に呼び出されたリヴィアは、厚い封筒を手渡された。
「これは、王宮からの招聘状だ。
来月、グランシュタット王国と隣国ルーヴェンとの合同魔術会議が開かれる。副会長として出席してほしい」
封筒の封蝋を割ると、そこには国王直筆の招待状と、魔術師協会の紋章入りの書状が入っていた。
「……わたくしを、この国の外へ」
リヴィアは封書を閉じ、冷たい指先で徽章を撫でた。
その夜、学院の尖塔の上。
レオンが星空を見上げながら言う。
「学院での戦いは終わった。だが、これからは王国全体が相手になる」
「ええ。……そして、あの子も必ずついて来るでしょう」
リヴィアの視線の先、遠くの温室の窓から灯りが漏れている。
そこではミアが、取り巻きに囲まれながらも、何やら地図と書類を広げていた。
氷と炎、姉妹の物語は学院という小さな舞台を離れ、王国という広大な劇場へと移ろうとしていた。
国内派閥、国外勢力、魔術師協会、そして王家――
全てを巻き込み、奪い、覆すための戦いが始まろうとしている。
リヴィアは静かに夜空に手を伸ばした。
その蒼い瞳には、もはや学院副会長という肩書きすら小さく見えるほどの野心が、はっきりと燃えていた。
「――次は、この国そのものを凍らせますわ」
物語は、ここから新たな章へと続く。




