氷と炎、雌雄を決する
クラウス失脚の翌日、学院は異様な熱気に包まれていた。
副会長の座は空席。学院長は生徒会規約に基づき、「新副会長選出のための公開試合」を宣言した。
候補者は二人――リヴィア・ヴァルシュタイン、ミア・ヴァルシュタイン。
講堂の中央には、広々とした魔術決闘用の円形舞台が用意された。
観客席は生徒や教師で埋まり、空気が震えるほどのざわめきが響く。
この決闘は単なる力比べではない。副会長としての資質を示すため、戦術、制御力、精神力のすべてが試される。
入場の合図と共に、先に現れたのはミアだった。
紅蓮のドレスの裾を翻し、金糸の髪が光を浴びるたびに炎のように揺れる。
翡翠色の瞳が観客を魅了し、その存在感だけで会場を支配していた。
続いてリヴィアが現れる。
紺色の戦闘服に銀髪を束ね、蒼い瞳は揺らぎなく前を見据えている。
その姿は冷たい湖面のように静かで、だが底には氷の下で渦巻く激流が潜んでいた。
「お姉様……ここで終わりにしますわ」
「ええ、勝負を決めましょう。――正々堂々と」
試合開始の鐘が鳴り響く。
ミアが先手を取った。
両手を掲げ、炎の槍を幾重にも生み出すと、一斉にリヴィアへ放つ。
その熱量は、舞台全体を紅く染めるほどだった。
だがリヴィアは一歩も退かず、足元から氷の波を走らせて炎を呑み込み、霧へと変える。
観客から驚きの声が上がる。
「さすがですわ、お姉様……ですが!」
ミアは舞台を跳び、炎の鞭を操ってリヴィアの足元を狙う。
だが、リヴィアは瞬間移動のような速さで間合いを詰め、氷の槍を構えた。
互いの魔法がぶつかり合い、空中で爆ぜる。熱と冷気の衝撃波が観客席にまで押し寄せた。
息を切らしながらも、二人の瞳には決して諦めの色はない。
ミアは炎を収束させ、一点に集中させた巨大な火球を生み出す。
リヴィアは氷の結界を展開し、同時にその内部で冷気を極限まで圧縮する。
「――これで決めますわ!」
「――終わらせます!」
炎と氷が衝突した瞬間、舞台は白と紅の閃光に包まれた。
轟音と共に魔力の奔流が溢れ、教師たちが防御障壁を張って観客を守る。
やがて光が収まったとき、舞台の中央には氷の花と炎の残光が同時に咲き誇っていた。
そして――立っていたのは、リヴィアただ一人だった。
ミアは膝をつき、それでも悔しさを隠さぬ笑みを浮かべた。
「……認めますわ、お姉様」
リヴィアは手を差し伸べる。
「ありがとう、ミア。あなたがいたから、ここまで来られました」
観客席から大きな拍手が湧き起こり、学院長が高らかに宣言した。
「新副会長――リヴィア・ヴァルシュタイン!」
氷の令嬢はその瞬間、学院の頂点へと駆け上がった。
だが、その蒼い瞳はすでに次の目標――この国の権力構造そのもの――を見据えていた。




